3話...芽生え


付き合ってみて思ったのは、峰岸はずいぶんと裏表のある男だということだ。


 前までは頼れる、面白くてやさしい兄貴、といった印象だったのだけれど、今となっては甘い猫なで声で私の名を呼び、隙あれば幾らでも好きだと愛の言葉を投げてくる。

最初これを真に受けた私は正直面食らった。

付き合うと彼女だけに見せてくる素顔がたまらないよねぇ、なんて言っていた液晶画面の向こうの芸能人を思い出す。

ドン引きした。

正確には、峰岸を軽蔑したのではなく、その芸能人の意見に大きく頷いている自分を、だ。


かわいい、と思ったのだ。


三十路に近い男を私はめちゃくちゃに甘やかしてやりたいだとか、養ってやりたいだとか。

そう思った瞬間に私は危機感を覚えた。

これは俗に言うダメ男生産機になってしまうのでは・・・。

ぶんぶんと頭を横に振るが、そんな今後の人生に一生纏わり着いてくるような可能性は簡単に頭から離れていってくえるわけでもなく。

頭を抱え、ベッドで転がり続ける。

これっぽっちも好きではなかった男に対して、なにやらむくむくと今までなかった気持ちが膨らんでいることに気がついたのは、そんな可能性に気がついてからだいぶ先のことだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

峰岸さん 浅倉 @asakuradesu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る