2話...不明確な

  浅倉佳奈。18歳。フリーター。

好きなものは寝ること。嫌いなものはナマモノ。

趣味は映画鑑賞。


私には、今から半年前の10月終わり頃にできた彼氏がいる。

名は峰岸。

身長174センチ、体重は知らない。

たぶん辛いものが好き、麺類も好き。

料理が上手くて、趣味はガンプラ作成と音楽を聴くこと。

音楽はインストが好き。確か歌詞がないやつ。

夏生まれ。

眼鏡で髭面の、自分より9つ上の男だ。


出会いはほぼ1年前。

今どきのネット上でだ。

あるグループにソイツはやってきた。

声がやたら若々しかったものだから、ひとつふたつくらい上かと思っていたら、随分と上で。

話もうまくて落ち着いている彼はすぐ皆に好かれて一躍スターになっていた。

気持ち遠巻きにそれを見ながら、私もソイツを取り巻いていた。

でも何時からか、私はソイツと個人的に絡むようになった。

本当に何時頃からかはわからない。

気が付いたら今日もいい?いいよってやり取りが毎日ソイツのチャット欄に残るようになった。

今日のご飯はカレーだった、部活で怒られた、現代文の先生が結婚した。

話すことは何の変哲もない普通の話ばかりだ。

それでも、帰ってくるのが遅いソイツを、私はじっと待っていた。

いつの間にか私の中でそれが密かな楽しみになっていたからだ。


「おれ、耐えれるかなぁ」


ある日ソイツがぼそりと言った、でも明確に聞こえた言葉。

なんて?と聞こえなかったふりをしたそれは、今思えばあれが起こる前触れだったのかもしれない。

物語で言う伏線だ。

そしてその数日後、私はソイツの告白を受けることになる。


「好きだよ」


あの時、初めて震えた声っていうのを聞いた気がする。

最初はいつもの冗談かと思って、でも今までにない空気に少し戸惑った。

「まじで?」

「まじで」

「これって、もしかしてそういう、」

「そういうやつ」

私が言うことに悔い気味に答えていく。

私は考えていた。


不思議なことに、私の中に断ると言う選択肢がなかったのだ。


9つも離れている。

住んでいる場所も決してすぐ会える距離にあるわけじゃない。

今まで一度も会ったことがない。

よく話すとはいえ、切ろうと思えば何時でも切れるネット上の関係。


断る要素はいくらでも転がっているのに、私の中でそれは断る要素にならなかった。

今まで告白されることは幾度かあった。

でもその時いつも私の中には、好きじゃないんだけどな、といった思いが漠然と胸の中に広がっていたものだった。

しかし、この男は違った。

YESの文字が浮かんでいた。

明確な答えかといえばウソになる。

けど私は、確かにソイツを好きになっていた。



「私も、好きなの」



お願いします。


ぼんやりとした恋が始まった瞬間だった。

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