ファイブギャップ

Erin

ファイブギャップ

それは、一通のメールから始まった。


高校二年生になっても、男友達は少なく、クラスの男子たちと一回も話したことがない私。家族の中で男なのはお父さんだけだし、私は男とどうやって接するのか、会話をするのかすらわからない。むしろ慣れていない。


そんな私でも、小さいころ一緒によく遊んで仲良くしていた男友達がいた。幼馴染なのだろうけど、小学校を卒業した後、親の間でいざこざがあって会えなくなってしまったのだ。会おうと思えば会えるのだけど、理由がない。遊びたいなんで言えたもんじゃない。


ベッドに寝転ぶと、スマホに手を伸ばし、無意識にSNSを開く。

相変わらず通知は公式アカウントからしか来てない。

タイムラインを見れば、『夏祭り行ってきました~』とか、『彼氏とデート♡』とか、『男三人、女三人でプール♡』とか。リア充どもめ。

男女で一緒に遊びに行けるとか、ほんとうらやましいよ。

どんなにスクロールをしても、内容はどれもそんなことばかり。この人たちと私の見ている世界は違いすぎる。それでも彼らの世界に憧れている私は、どうも精神的に傷つけられ、胸が締め付けられる。


「いいなぁ……」


ブー


スマホが振動する。どうせまた公式アカウントからの通知だろうと、トーク欄を開く。


「……うええっ!?!?」


奇妙な生物でも見たかのように驚きすぎて、スマホから手を放してしまった。

恐る恐るまた手に取り、画面をのぞく。


『久しぶり』


あいつからの、五年ぶりの通知だった。


な、なんで、なんでいきなり!? なんで五年たってから連絡してくるの!?

と打ちたいけど、だめだ。取り乱したらこいつ頭おかしいと思われてしまう。


【久しぶり】


とりあえずあいつと同じテンションで返信をした。

送った瞬間すぐに既読が付き、10秒もたたないうちに返事が来た。


『お前○○高校だよな? 今日その高校と試合したんだよね』


【そうなんだ!】


そうか、あいつからメールが来たのは私の高校と試合をしたからなのか。

私の高校、覚えていてくれたんだ、嬉しい。


……ん?

そういえば私、返信が来た瞬間、1秒もたたないうちに返したよね。


「ああああああだめだ! 暇な女だと思われちゃう!」


どこかのサイトで書かれていた、返事は数分おいて送ったほうがいいと。

別にあいつを焦らしたいわけじゃないけど、うそ焦らしたいけど、軽い女だって思われたくはない。


ほら! 返事が早すぎたせいで既読はついているのに何も送られてこない。いや、【そうなんだ!】って返事したから、会話が続かなくなっているんだ。


これもどこかのサイトで書かれていた。とにかく質問で返せば会話は続くと。


いや当たり前か。


とにかく、会話を続けよう!

私は【試合、勝ったの?】と質問をしてみた。


『負けた~なぐさめて~』


「なぐさめてだと!?」


私の胸が違う意味で締め付けられた。

そうか、この気持ちがキュンか……。


【いいけど、どうやって?】


うん、うまく質問で返せている。


『そうだな……あ、お前ってどこ住み?』


唐突に話題を変えてきただと!?

しかも私の高校は覚えてくれているのに、住んでいる場所は覚えてくれてないなんて……。一回も引っ越してないんだけどなぁ。


【○×駅の近くだよ】


無性に腹が立ってきたけど、どうにか気持ちを抑えて優しく答えた。


『おお! 俺よくその駅で寄り道してるんだよね』


そうなんだ! ともう一度打とうとしたとき、


『じゃあさ、明日その駅で会おうぜ。そのときに俺をなぐさめてよ』


「うわぁぁぁ……」


必要以上に締め付けられる胸と、顔がだんだんと熱くなっていくのを感じる。


私の【どうやって?】という質問からこのタイミングで返すとは……。


【うん、いいよ】


可愛らしい犬のスタンプを添えて、私たちの会話は終わった。


待って、これって……デート? 二人きりだから、デートだよね?


「人生初だ……!」


その日の夜は、今までになかったような気持ちよさで眠りにつき、私に彼氏ができるという幸せな夢をみた。その彼氏が、あいつだったかは、顔が見えなくてわからなかったけれど。





「これで、いいよね……」


翌日、普段着ない姉からのおさがりではあるけど、おしゃれなワンピースを着て駅の前についた。

見回るけど、あいつっぽい人が見当たらない。

もうちょっと待ってみようと思ったとき、


「よっ!」


誰かにぽんっと肩をたたかれ、振り向くと……。


「どちら様ですか!?」


「俺だよ! あつしだよ! 俺の顔忘れたのか?」


「ごめん! でも、イメージと違いすぎて……」


昔の敦は黒髪の短髪でやんちゃな子だったのに、今目の前にいる敦は金髪の長髪でちょーチャラそう。

昔と真逆じゃねえか!


「俺は純香すみかのことすぐわかったけどな」


口を膨らませて言う敦にキュンキュンするはずなんだけど、見た目のせいでその効果も薄れてしまっている。


「んで、どこ行く?」


「き、喫茶店行って、思い出話でも……する?」


あーここはデートらしく遊園地とか映画館とかがよかったのかな?

途端に恥ずかしくなって敦から目をそらしてしまう。


「いいよ。俺試合で疲れてるし、純香といっぱい話したいし」


私の考えていることを見抜いて、フォローしてくれたのかな?

チラッと彼のほうをみると、彼も私を見ていたようで目が合った。


パチンッとウィンクをされる。

その見た目でやると本当にただのチャラ男にしか見えない。


「じゃあ、行こうか」


――――


その日から私たちはまた音信不通になった。

喫茶店で二人が会えなかった五年間について色々と話しているうちに、また昔みたいに仲良くなれたと思ったけど、五年のギャップは長すぎたのかもしれない。彼は私が憧れている世界の住人だった。いや、見た目からしてそうだったよね。

彼は私の初恋相手。今でもずっと好きなんだと思っていた。

でも、私が好きだったのは昔の彼。やんちゃさは昔から変わっていなかったけど、私の恋愛感情は、昔のように大きくはなくなったみたい。


でも、いつかはまた彼に胸を締め付けられるだろう。


そのいつかは、五年後―――――





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ファイブギャップ Erin @Little_Angel

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