第1話 天使

「は、見えるって、そりゃ」

「うわー!やっと会えた!すごいすごい!」

「な、何言ってんだよ」


 ちょっと、やばいやつなのか?


 さっきまで泣いていたはずなのに、今は目をキラキラさせて俺を見つめている。


「よくわかんないけど、大丈夫ならもう・・・」


 あまり関わりたくない。早く逃げてしまおう。


「ま、待って待って!」


 腕を強く掴まれる。

 

「痛ッ!なんなんっ・・・」


 さっきまでとは裏腹に、真剣な表情になる。 


「私が見えるってことは、君が神様に選ばれた人なんだね」

「は、、何言って」

「お願い!助けて!このままじゃ、大変な事になる!」


 ギリッ


 腕を掴む手に、さらに力がこめられた。


「わ、わかった。とりあえず話は聞くから、離せよ」

「あっ!ごめんね!」

「・・・で?神様とか、大変なこととか言ってたけど、どういうことだ?」

「そう!あのー、えと、どうしよう、信じてもらうには・・・あっ!」


 何かを探すように辺りを見回すと、目当ての物を見つけたようで、これでいいかなーとつぶやくと、それを拾い上げた。


 鉄パイプ・・・?


 溶けたのか、折れたのかわからないが、先がおかしく変形している。


「見ててね」

「え」


 何をするのかと思った瞬間


 

 パイプの先を


 


 思い切り、自分の胸に刺しこんだ





 

 ザクッ、と聴いたことのない音が、雨の中やけに鮮明に耳に響いた。状況をうまく把握できない。開いた口が閉じなかった。


「お、ま、なにして・・・!?!」

「ふいー、痛くないとわかっててもドキドキすんねえーあはは」


 笑いながらパイプを引き抜いた。


 まったく出血がない。普通の人間なら確実に出血しているだろう、それくらいの傷になるはずだ。しかし、彼女の胸に開いた穴は、みるみるうちに塞がっていった。


「な・・・」

「驚かせてごめんね。この方が手っ取り早いと思って」



「私は夏の天使メア。罪を償いに、選ばれてやってきたの」



「夏の、天使・・・?」

「そう!」

「どういうことだ?」

「えっとね、まず、私達の役割は〝神の力の破片〟を使って、この世界のサポートをすることなの」

「サポート・・・」

「うん。本当は、私達のサポートがないと人や動物、植物が安全に生きていくことができないくらい大変なんだよ!自然の力を少しでも抑制して、生きていくのをサポートしているの!」

「へぇ・・・どうやって?」

「それはね、歌!」

「歌ぁ?」

「そう!〝神の力の破片〟が天使の歌に力をくれるの!その歌を歌って、神の力の効果を発揮させるんだよ」

「なんか、すごそうだな・・・どんな歌なんだ?ちょっと歌ってみてくれよ」

「それが・・・歌えないの」


 楽しそうに話していたのに、急にシュンと元気をなくして、焦ったように俺を見た。


「歌えないっていうか、歌っても力を発揮できない、私、〝神の力の破片〟を失くしちゃったの!」

「それって、やばいんじゃないか・・・?」

「そう!やばいの!だからお願い!一緒に探してくれない!?」

「えっ」

 

 展開が早すぎて脳がついていかない。


「嫌だ?」

「嫌だっていうか、まだちょっと、理解ができてないっていうか・・・」

「そーだよね、そんな簡単に信じられることじゃ」


 カッ


 眩しい光が、一瞬、俺達を照らした。そしてすぐに、耳障りな音が響きわたった。


「うっわ、近いな・・・メア?」


 しゃがみこみ、耳をふさいで震えている。


「おい、大丈夫か?!」

「だ、だいじょ、ぶ・・・雷がちょっと、ね」


 すごい怯え様だ、大丈夫じゃないだろ・・・


「私は、大丈夫だから、でも、君は危ないから、また荒れてきたから・・・ひどくならないうちに、帰って」


 確かにこれからもっと荒れそうだ。しかし、こんなところに、こんな状況の女の子を一人置いていくわけにはいかない。しかも家までまだ少し距離がある。どこか建物に入れればいいんだが・・・


 あそこなら


「立てるか?少し走ればここよりましなとこがある!ついてこれるか?」

「う、うん。行く」







 住宅街の隣には、小さな山がある。子供達の絶好の遊び場だ。

 その山の少し開けたところに、いくつものプレハブ小屋が放置してある。なぜこんなところにあるのかは分からないが、子供達にとっては丁度良い秘密基地だった。


 雨の中を走り、そこまでたどりついた。


「ハァ、ハァ・・・ここなら安全だろ」

「うん・・・外よりだいぶまし、ありがとう」


 ここにきたのは何年ぶりだろうか、幼い頃は、よく遊びに来ていたが。


「・・・雷、そんなに苦手なのか?」

「うん・・・死ぬ寸前、しっかり耳にこびりついた音だったの、だから聞くたんび思い出して、怖くなっちゃうんだ」

「そうか・・・ん?・・・え?、お前、死んだって?」

「うん、そうだよ、死んでる死んでる。言わなかったっけ?」

「言ってねーよ!いや、天使だとは言ってたけど」

「だからさっきパイプみたいなの刺して見せたじゃーん」

「あれは、天使だから無敵!みたいな意味かと思ったんだよ・・・」

「あぁ、なるほどね!めんごめんご!詳しく言うとね、子供のうちに、自分を愛してくれた親より先に死んじゃった子がランダムに選ばれて、天使になるの。今は、家庭状況とかで基準が曖昧になってるけど、基本親より先に死ぬっていうのは、子供のもっとも重い罪とされるんだって。それで選ばれた子が全員分の罰を背負って、神様の使い、天使となって、使命としてこの世界を支えてるの」

「まじか・・・じゃあ、なんで俺はメア、天使が見えてるんだ?」

「えっとね、選ばれた天使は、みんなの罪を背負って使命を果たさなきゃだし、転生もおくれるの。だから、天使は報酬として一つだけやり残したことをやってくることができるの!でも、天使だけじゃそれは難しいから、それを手伝う人間もランダムに選ばれるの!」

「それで、選ばれたのが、俺?」

「そう!」

「なんで、俺が・・・ランダムって、どうやって」

「まぁまぁ、君にメリットがないわけじゃないんだよ。選ばれたってことはね!」

「なんだよ、メリットって」


「メリット・・・言いにくいんだけどさ・・・」

「おう・・・」


「あのね・・・」



「ごめん、忘れちゃった!!!」

「はぁ?!」

「あんま自分に関係ないと思って記憶から消しちゃった!ごめんんん!!」

「器用だなあ!!」

「ありがとう!!」

「はぁ・・・」


 だが、なんとなく全体の仕組みは分かった。まだ確実に信じることはできないが、鉄パイプの件からみて、全部本当のことなんだろう。


「あ!晴れてきたよ!」


 外をみると、雲が無くなり日が出ていた。


「ここ、教えてくれてありがとう!天気が良いうちに帰った方がいいよね、また明日、絶対来てね!」


 話しているうちに元気を取り戻したのか、楽しくてしょうがないというような笑顔で手を振っている。


 明日から夏休み。

 とりあえずここに通うことになりそうだ




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SEASON 結城りん @yu__uyki

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