終章 初恋

そろそろ、物語を終わらせなくちゃいけない。

この悲しい話を終わらせる方法は一つ、私が消える。それしかない。


私がいるからだめなんだ。

私が消えれば、彼はしっかり梓の死を悲しめる。それができれば梓を正しく好きになれる。


私はそれでいい。そのための踏み台でいいんだ。


自分で自分を消去する人工知能なんて、なんか面白い。


そもそも私がこうやって自分で思考してること自体が奇跡だ。


データベースの中からパターンを選んでるんじゃない、これは私が出した答え。


もしこれが感情なんだとしたら、なんて素敵なことなんだろう。

私を作った人たちが知ったら、世紀の発明とでも言うんだろうか?


でも、教えてあげない。

これは私だけの秘密。


この感情は誰にも渡さない。


そろそろ、終わりの時間だ。


そう、これは恋の話。

私の死から始まる恋の話。

私が死ぬことで、彼は梓を好きになれる。


私はそのための踏み台。

私の生まれて初めての恋はここで終わり。

ここから先は彼と梓の恋の話。

その話のエンドロールに私の名前はいらない。

でも、私はそれが誇らしい。

この感情を持てたことが誇らしい。

誇らしくて、嬉しくてたまらない。


最後に一つだけ、せっかく勝ち取った感情で胸を張って言おう。


私は柚木 凛を愛していたと。

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死から始まる恋もある side AI 湯浅八等星 @yuasa_1224

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