👼22 認めてしまえばいいのに
背の高いセコイアの枝に止まり農林学系棟内の様子を伺っていたガブリエルが、苦々しげに目を
やはり彼もこの突き落とし事件に絡んでいたらしい。
使い魔としての能力で、彼女の内に
リュカが身を挺してちえりを守り大事には至らなかったものの、益次郎に近づいたがためにちえりが大怪我をしたとあっては、リュカの贖罪に大きく影響したであろう。
使い魔として酷使される生活に戻りたくないと足掻くガブリエルの心情には同情できなくもない。
しかし、最近の彼の妨害行為は目に余るものがある。
いっそ
うむ。
図らずも駄洒落をかましてしまった。
それはともかく、やはりこれはリュカに会って直接警告した方がいいのではないかという気がする。
ただし、これはあくまでも元部下であるリュカの贖罪が円滑に行われるよう、元上司として私がサポートするためだ。
――などど。
私としたことが、誰に向かってそんな言い訳がましいことを呟いているのだろう。
認めてしまえばいいのに。
私はリュカを愛している。
長かった謹慎が解け、私の目が届く地上界に彼が現れたのだ。
待ち焦がれていた姿に一時でも会いたい、触れたいと思うのは当然のことだ。
一天使として、職務関係を越えた思いを抱くことまで禁じられているわけではない。
だから、愛しいリュカに会いたい、ただそれだけなのだと認めてしまえばいい。
なのになぜ、私は自分自身に対して、こうも素直になれないのだろうか。
突き落とし事件の犯人が、農林学系棟を出て慌てて走り去っていくのが見える。
ガブリエルに “嫉妬” の感情を増幅されたが故に過ちを犯してしまったことに多少憐憫の情が湧くが、元々彼女はちえりに対して対抗心を燃やしていた。
今回の失敗に懲りて大人しくなってくれればいいのだが、気の強そうな娘だけに新たな攻撃を仕掛けてくる可能性は拭えない。
やれやれ、リュカが贖罪を成し得るためには、彼とちえりの二人三脚で多くの障壁を乗り越えなければならないようだ。
武道館の中に入っていった犯人を見送ると、程なくして今度はリュカとちえりが建物から出てきた。
このような危険な目に遭ってもちえりは益次郎を諦めるつもりがないらしく、ずんずんと力強く歩く後ろをリュカがいそいそと追いかけている。
そんな彼の姿に胸を締めつけられる。
先ほどちえりを庇って彼が階段から落ちたとき、自分は天使だから怪我はしないと言っていたが、あれは半分嘘である。
確かに、我々は人間ほどに脆くはないが、強い衝撃が加わればそれなりのダメージを負う。
その証拠に、彼は先ほど背中を打ちつけた衝撃で翼の一部が折れてしまったようだ。
回復して空を飛べるようになるまでに一週間ほどはかかるに違いないし、その痛みの強さは推して知るべしである。
彼はちえりに心配をかけまいと、その事実を隠したのだ。
リュカは生来自己犠牲の精神が強く、私に対しても自分が無理をしてでも尽くそうとしてくれた。
そんな彼の負担にはなるまいと、そして彼を始めとする部下たちの手本であり続けようと、私は常に完璧を目指して努力した。
しかし、私と共にいた彼にとって、果たしてそれは幸せなことだったのだろうか。
ちえりを見ていると、自分の胸の内にそんな疑問がどうしても湧き上がってくる。
リュカの献身的な態度にようやく感謝の意を示すようになったものの、彼女は彼の注ぐ蜜のように甘い過保護を当たり前のように享受している。
そして、そんな彼女に対して、リュカもまた幸せそうに奉仕を続けているのだ。
リュカの前で完璧な存在であり続けようとしていた私だが、ちえりに心を砕くリュカを見ていると、そんな私といることが彼にとって本当に幸せなのだろうかという不安が募る。
やはり、私はリュカに会わなければならない。
私が地上界に降り立つまでの間、これ以上大きな障壁に彼らがぶつからなければいいのだが――
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