第11話 エタる? 完結?

 Web小説とはいっても千差万別。初心者の学生が書くような瑞々しい作品もあれば書籍化作家様が書くガッチガチの濃厚な商業用小説もある。書く人も学生から社会人までたくさんだ。俺のような高校を中退してケータイ小説に夢中になっているものもいる。


 話は逸れて4月の春。桜の花びらが満開し、お花見真っただ中の新生活。恩師であるレンチーさんからいただいた一通のライン。


 エタる? 完結?


 それは全部スターというケータイ小説サイトでファンタジー部門で一位を獲得し、漫画家までいった作家様の大変重いお言葉だった。3シリーズまで続いたMMORPGが終わりをむかえ、また、レンチーさんに新生活が訪れるように。俺は忘れていた。新しい出会いがあるように、お別れがあることを。


「私、小説をエタらせようと思ってる」


 ラインの表示にはそう書かれていた。あのレンチーさんが、だ。


 一大事に俺は部屋中を延々と歩き回り、これは何事かと真剣に悩んだ。作家にとって必要なことの一つに、物語を完結することが望まれる。完璧な作品をつくるよりも駄作を最後まで書ききるほうが成長するといわれている。商業作家に求められているのは完結し、ある一定のクオリティーの作品を世に出し続けること。俺のようなパンピーには縁のない話だが、少なくとも俺は完結させるように努めている。それがプロットのような文字の羅列だとしても中途半端でも小説を完結させることを心掛ける。


 未完の大作。ファンタジージャンルが好きな俺が評するレンチーさんへの、作品に対する感想だ。もちろん3シリーズまで続いているのだからぶっちゃけると完結していると言っても過言ではない。MMORPGが次の世界に移っているので、もとの世界は最終回をむかえている。それだけで書籍化できる分量だ。


 それでも、それでも、レンチーさんがケータイ小説を終わらせるのにはあまりにも悲しかった。だってファンへの対応をご丁寧にやるあのレンチーさんが、ファンへのひどい仕打ち、エ・タ・る、をするとは思えなかった。


 原因と考えられるは二つ。一つはリアルの多忙化。これはままよくあることで学業や仕事が忙しくなってケータイ小説を書くのをやめてしまう。そりゃ俺ら無料で書いてる奴は趣味で小説書いているのだから、リアルが忙しくなればリアルを優先する。もう一つはモチベーションの低下。レンチーさんはファンタジージャンルで一位をとった時は多くのファンが祝福した。しかし、更新ペースを半年とか1年とか空けてしまうとファンは急速に離れていく。表紙を書く専属絵師なるものを付けているレンチーさんはイベントを開く。自身の小説のキャラクター人気投票なるものをする。しかし、ファンが離れればコメントの書き込みがなくなり、結局はモチベーションの低下につながる。


 みんなやっぱりなんだかんだ感想を必要としているのだ。俺だって課金で得た読者様たち――1万PV――はモチベーションをあげさせた。Web小説では、今はまだ1000人足らずのPVではあるが、それでも1PV増えるごとにワクテカする。


 ああ、こんな趣味の小説にでも少しずつ読者がいてくれ読んでくれているのだ、と思うと無性に涙もろくなる。やっぱり読者あっての作品であり、読者コメントあっての成長だと思う。それなのにレンチーさんは、エタる……だと?


「俺はどうすればいいんだぁ!?」


「うっさいバカ兄貴」


 妹が起きてくる。寝起きのパジャマ姿はどこか滑稽であり、これがクラスメートの同級生から言わせればギャップ萌えだの守りたくなる笑顔だの高評価を得るのだろうが、俺にとっては堕落しきった妹だ。かわいいといえばかわいいが兄としてもう少し自立してほしい。


「いま昼だぞ?」


「ニートなんだから昼起きでもいいじゃん。どしたの?」


 ねむけまなこをコスコスする妹に俺は恩師であるレンチーさんがエタることを教える。


「それって、そんなに大変なことなの?」


 妹はあくびをしてどうでもよさげに頷く。


「大変なことだ。エタるってのは一生完結しないってことだぞ。オチのない小説に何が意味がある?」


 妹は少し考えてから、こう付け足した。


「未完だから美しい作品もあるでしょ。ミロのビーナスなんて両腕がないから、より完成された女神を思い浮かべることができるの」


「それは……」


 エタるのは悪だと思っていた。読者が放置され、オチをわからなくなる。しかし、妹はエタってもいいという。オチは読者が考えて妄想を広げられるから未完でも完結なのだ、と。


 そうか。レンチーさんはもう完結させられているのか。


 俺はレンチーさんに、「エタりましょう」と送った。レンチーさんは満足したのだ、きっと。彼女はファンタジージャンルで一位をとり、専属絵師を付けて、漫画家し、ファンをたくさん獲得してすでに満足したのだ。書籍化に一番近いケータイ小説だと、俺はレンチーさんの作品を評する。一ファンとして、彼女を応援する。


「お兄」


「ん?」


 妹は的を射た意見を言う。


「小説バカなら必ず帰ってくるよ」


 そうだった。レンチーさんはケータイ小説バカだ。書かずにはいられない禁断症状を発症しているのだ。書かずにはいられない病だ。


「それもそうだな。レンチーさんは戻ってくる」


 こうして俺の恩師へ一区切りを告げる。結局、この小説は何を伝えたかったのか、不明だが幕を閉じる。俺は満足してしまったのだ。妹がAVを撮影する作品を書いてPVで読者がいてくれて、すでに満足した。


「レンチーさんがエタるなら、俺は完結するよ」


 さいっこうに面白いケータイ小説(←おいおい笑)の出来上がりだ。


 俺と妹の休みは終わった。さて、次はどんな作品を始めようか。俺のケータイ小説人生はまだまだ続く。


 ――ケータイ小説って面白い!

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ラノベ俺と自己啓発(妹) ハカドルサボル @naranen

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