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可憐な少女の両肩の上、覆い被さるようにして浮遊する、機械の腕。
その左腕が、少女の動きをトレースして拳を作り、突き出される。
――見えたのはそこまで。
次の瞬間には、放たれた爆風が俺の視界を覆いつくしていた。
「うおおおおおおおっ!?」
「ビビんなくても大丈夫だって」
背後から、ナナがおかしそうに言った。
「お姉ちゃんの“
彼女の言葉通り、その爆風は俺には届いていない。
かわりに、周りに群がる無数の触腕たちを、洗い流すように消滅させてゆく。
「すっげえ……」
「でしょ?」
ナナが、まるで自分のことのようにふふんと鼻を鳴らした。
「さっきは不覚をとったけど……ウチとお姉ちゃんが組めば、どんなモンスターにだって負けないんだから!」
触腕を吹き飛ばした爆風は、そのまま延長線上にいるバンガスを直撃し――通りの地面を削り取りながら、斜め向かいの廃屋にぶち当たった。外壁が崩れる派手な音と土ぼこり。それらが収まったとき、建物のどてっ腹には巨大な穴が開いていた。
「ふたりとも、大丈夫ー?」
緊張感のない声と同時に、何かが割れる涼しげな音がした。俺の周囲で、なにかがきらめきながら落ちてゆく。ガラスのような透明な破片……目で追うそばから、溶けるようにして空気中に消えてゆく。
視線の先には、このエグい破壊を招いた張本人が立っていた。
“やっちまった”って表情で。
「どうしよ、出力ミスっちゃった……あとで怒られるかなあ」
「ここらへん誰も住んでないし、気にしやしないわよ。それより遅すぎ! こいつ、もう少しで死にそうだったわよ!」
「だって街中までモンスターが出てくるなんて想定してなかったんだもん……」
「メンテ面倒くさがってるからこうなるの! だいたいお姉ちゃんはいつもさあ」
さっきまでの張り詰めた空気はどこへやら、やいのやいのと言い合い(一方的な説教?)をするふたりを見て、俺は察した。
「なあ、もしかしてお前が呼んできた応援って……」
「うん、お姉ちゃんだけど?」
当然、といった表情でうなずくナナ。
……だからあんな短時間で戻ってこれたのかよ。
「だって、助け呼びに言ってる間にあんた死ぬでしょ。裏口からお店に入って、とりあえずお姉ちゃんから回復薬だけもらって、そんであんたに加勢したってわけ」
「ごめんなさいっシュウさん! ひさびさだったから、このコの起動に時間がかかっちゃって……」
彼女が両手を顔の前で合わせると、肩に浮かぶ巨大な手も同じ動きをする。
いやまあ、それはそれで別にいいんだけど……。
「わかってるよな?」
俺はふたりに問いかける。
先にうなずいたのはミミの方だった。それから、ナナが口を開く。
「――マジでしつこいわね、バンガスのやつ」
「ギャヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
廃屋が、木っ端みじんに吹き飛ぶ。
溢れ出す瘴気。
その向こうから、先ほどよりもさらに禍々しい姿となった
頭部の一つ目は真っ赤に染まり、血のような液体をぼろぼろと絶え間なくこぼしている。二本だけだった触腕が、いまや全身から無節操にあふれ出て、細長い胴体を覆いつくしていた。それぞれの腕は昆虫の足のように節くれだっていて、時おりビクッ、ビクッと痙攣しながら、長いかぎ爪で宙を掻きむしっている。
「うぇーっ、キモい」
「効いてはいる、のかなあ? ナナ」
「単に怒ってるだけかもよ お姉ちゃん」
「あの火力でダメだと、ちょっと困るよぅ……」
「アイツ素早いし、次も当たってくれるかはわからないわね……」
そんな化け物の姿を見てさえ、憶する様子もなく話し合う姉妹。
頼もしいんだか、恐ろしいんだか……。
そのとき、彼女たちが、同時に俺を振り返った。
二組の目が同時に俺をとらえる。
片方は鋭い眼光をたたえ。
片方は無垢な表情のまま。
それでもふたりの視線は、同じ質問を発していた。
――あんたは、
――あなたは、
『どうする?』
一番いい解決方は、俺が死ぬことだ。
時間を巻き戻して、ふたりとの出会いからやり直して、バンガスが現れたところで不意打ちをくらわせる。さっきは手加減したけど、今度はそうしない。外に蹴りだしてから、間髪入れずにもっと高い位置から
けど。
(死なせてなんか、やらないんだから)
なんだろうな。
あと少し――もう少しだけ、あがいてからでもいい気がする。
「ふたりとも聞いてくれ。俺に、作戦がある」
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