9th try:Rampage
下草をなぎ倒しながらしばらく進むと、沼のほとりに出た。
あたりを見回し、すぐさま状況を把握する。
ひとりの少女が、地面に尻もちをついていた。たぶん、さっきの悲鳴の主だ。表情はこわばり、遠目からでもわかるほど、全身が激しく震えている。転んだとき取り落としたのか、木のつるで編まれたバスケットが、中身を地面にぶちまけていた。
そして、悲鳴も出せなくなった彼女にゆっくりと迫る、不気味な六つの影――
背丈は十歳前後の子どもぐらい。だが、剥き出しの上半身には筋肉が不釣り合いに盛り上がり、奇声をあげるその口元には鋭い牙。瞳孔は爬虫類のように縦に裂けて残忍な光を宿し。毛髪のない頭からは二本の小さなツノが突き出ている……。
なるほど。
向こうもすぐにこちらに気付いた。先頭の一匹が、なにごとかを叫ぶ。それと同時に、残る五匹がいっせいにこちらへと視線を向けた。
だが、もう遅い。
助走なしの一歩で、俺はすでに少女を飛び越えていた。
一瞬遅れの突風が、木々を激しくざわめかせる。
こいつらにとっての不運はふたつあった。
ひとつ。彼女の悲鳴を俺の耳に届けてしまったこと。
そしてもうひとつ――全員が、俺の道の範囲内にいたこと。
……なぁんか、いかにも『用意されたイベント』って感じがするけどな。
(女神の運命力ってやつにゃ)
「うるせっ」
この場にアイツがいたら言いそうなセリフを振り払い、俺は眼下を見据える。
一瞬の肉薄に驚き、手にもった棍棒を振り上げることも忘れて立ち尽くす、六匹。
高度は三メートルってところか。この程度なら威力もちょうどいいだろう。
逃げる暇なんか与えねぇ。
右足に黄金の輝きをまとって、俺は叫ぶ。
「
体が急激に加速し、右足が一匹の
次の瞬間、圧縮された女神のチカラが解放され、金色の衝撃波となって前方のすべてを巻き込み、拡散してゆく――!
視界を覆いつくす光の洪水が収まったとき……六匹の
よしよし、計算通りだ。
このくらいの高度なら、さっきみたいに数キロ四方を更地にするほどの威力は出ない。さらに、蹴るときに角度をつけることで、衝撃波を前に集中させられる。
振り返ると、さっきの女の子が、驚きのあまり口をぱくぱくさせていた。
「大丈夫?」
俺はにこやかに声をかける。
「危なかったね」
そういうと、強張ったその表情がゆっくりとほどけていく。助かったという安心感。突如あらわれた救世主。見せられたその、圧倒的な強さ。まるで天使の降臨でも目の当たりにしたように、その瞳が崇拝の色に輝いていく。
「あ、ありがとうございますっ! ほんとに、なんてお礼を言えばいいのか……」
「なぁに、大したことじゃないさ。なんせ俺は、魔王を倒すものだからな」
「じゃ、じゃあ、あなたがあの、異世界から呼び出された勇者様……」
その事実に、頬を桜いろに染め、ますます目をうるませる彼女。
そうだよ、これこれ!
これだよ、俺が求めてたのはッ!
さっきは敵を倒すことでいっぱいいっぱいだったから気にしてる余裕がなかったけれど、改めて見ると、この子、めっちゃくっちゃかわいいじゃないか。
リスを思わせる大きな黒目。ゆるくカールした柔らかそうな栗色の髪。透き通るような白い肌。
なんだよもー! 女神のやつ。こういうイベントがあるならもっと先に言えよな! うへへえへへ。
そんなピンク色の脳内を、もちろんそのまま表情に出すようなヘマはしない。ここぞとばかりに決め顔を作り、俺はゆっくりと彼女に歩み寄る。
「立てるかい?」
「あ……は、はい!」
さりげなく差し出した手を、彼女の小さな手がつかもうとし――
(触れたら即死って覚えてるかにゃ?)
「どぉぬっふ!」
「きゃっ!?」
とっさにひっこめた拍子に、彼女はつんのめって地面へと倒れこんだ。
「あ、いや、ごめん、その――」
「ううっ……勇者様……ひどいですっ……」
涙目で顔をあげた彼女の顔は、あわれ泥まみれだ。
「ご、ごめんっ! その、急にさっきの技の反動がきたもんだからさ!」
「えっ、大変! すぐに手当を――」
「おぉううぇおだだだだ大丈夫! 大丈夫だから!」
手をとろうとする彼女を避けようとして俺は足を滑らせー―
「――あっ」
覆いかぶさるようにして彼女の方へと倒れこむ。
顔をつつむ柔らかな感触。
あ、あの、
これって
もしかして、
おっぱ――
てれっ
てれっててれーててれっててー
Stage 1-1 幻想城都アルメキア
┏( ^o^)┛×∞
【解放→イベントフラグ-1】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます