4th try:Encounter

 そして俺は、あの真っ暗な空間に戻ってきた。


「うへっへっへっ」


 眼の前では、あのクソ女神がまた漫画を読んで一人で笑っている。


 ……言いたいことはいろいろある。


 敵味方問わず即死判定っておかしいだろとか。

 

 ステータスがなんで野球ゲーム風なんだよとか。


 ┏( ^o^)┛×∞ ←こいつとか。


 けど、それよりなにより――。




「そのBGMは!!!! 



 マズいだろッッッ!!!!」




 ――完全にキノコ狂いのヒゲのおっさんのアレじゃねえか!


「……なんのことにゃ?」


 クソ女神は首をかしげる。


「なんのことってお前さっきの……ヒゲのおっさんの……」


「アレは自分で作曲したのにゃ? 完全オリジナルだにゃ」


「いやいやふざけんな……って、いや。うん、そうか、うん……」


 女神の言葉に、俺は冷静さを取り戻す。


「……オリジナルだよにゃ?」


「ああ、そうだったな。どうかしてた。あれは完全にオリジナルだ。聞いたことなんて一度もない。ちょっと知ってた曲に似てたように感じたが完全に錯覚だった」


「だよにゃあ~? にゃっはっは!」


「あっはっは!」


 うん、断じて聞いたことなんかないぞ。


 断じて。



 ※※※



 吹き渡る風にゆれる青草の絨毯が、見渡す限りどこまでも広がっている。


 遠く霞む地平の向こうには、青い山脈が連なっている。

 

 空はどこまでも澄み渡り。


 草ずれはさわさわと耳に心地よく。

 

 草と土のにおいはどこか懐かしくて。


 身体を撫でる微風は、爽やかな冷気を運んでくる。


「すげえ……!」

  

 夢にまで見た異世界。


 剣と魔法のファンタジー。


 最新ゲーム機なんて目じゃない臨場感に、俺は思わず感嘆の声を漏らし……それは一瞬あとに、ため息へと変わる。


 ……これで自由に歩き回りさえできりゃ、最高なのになあ……。


《それは魔王を倒してからのお楽しみにゃ》


「うっせえな、わかっとるわ!」


 俺はいま、アルメキアの城門から一歩外に出たところだ。


 危険な魔物がうろつくこの世界では、街はぐるりと城壁に囲まれている。国を名乗っているが、いわゆる都市国家というやつなのだろう。道中あれこれ観察したが、そこまで大きな街というわけでもなさそうだった……もっとも、城からここまでも一本道だったから、正しい情報は確かめようがないんだけれど。


「なあ。呼び出された部屋から門まで直進できるっていうのも、なんか都合がよすぎないか? 普通もっと道も入り組んでるだろ」


《そこらへんはアレにゃ。女神の運命力ってやつにゃ》


 ガバガバかよ。


 とにかく、俺の次の目的地はもう決まっている。


 復活した王様から、依頼をうけたのだ。(ちなみに握手は拒否した。舌打ちされた。なんなんだあいつも)


 ――この城の近くにある『迷いの森』。あそこを魔王軍の尖兵が拠点としつつあるようなのじゃ。討伐隊を何度か差し向けたのじゃが、魔物の瘴気で方向感覚を狂わされて歯が立たん……勇者殿の力で、奴らを追い払ってはくれぬか?


 当然ながらその迷いの森とやらはこの定めし導きの加護スクロールスクロールの直線状に位置している。つまり、拒否権はない。


《女神の運命力ってやつにゃ》


「釈然としねえなあ」


 ぶつくさ言いながら俺は歩き出した。


 俺の目的はただひとつ。このクソみたいな呪いをどうにか抜け出して、自由を思い切り満喫することだ。


 それを忘れたわけではない。忘れられるわけがない。


 ……だが、そのうえで認めよう。


 自分がなんだかんだで、今、ワクワクしていることを。


 どこまでも続く道。見たこともない景色。俺は本当に異世界にやってきたのだ。世界を救うために。道中が一本道だろうがなんだろうが、そのことにワクワクしない男の子がいるか? いやいないッ!


《あっ、シュウにゃん! モンスター!》


 えっ、マジ? どこどこ?


 目を凝らすと同時に、草原の茂みから何かが飛び出してくる。


 どろどろと這いずる、ゼリー状のモンスター……。


「なるほど、スライムか」


《ご明察だにゃあ》


 ……ちょっとキモいけど、なるほど初心者向けだな。


 よっしゃ、ここはちゃちゃっと倒して……! せい!


 あれ?


 んのやろっ!


 ……なんだこいつ、見た目の割にけっこう――。





 あっ。






 てれっ



 てれっててれーててれっててー







 Stage 1-1 幻想城都アルメキア


 ┏( ^o^)┛×∞



==================================


女神の祝福歌チャント・オブ・ゴッデス


加護を受けた英雄を復活させる祝福の歌。

完全なオリジナル曲であり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る