2nd try:Curse of Goddess

――置かれた状況を、簡単に説明しよう。



①顧客(俺)の要望

・無敵のチート能力

・RPGみたいな剣と魔法のファンタジー世界

・かわいい女の子とのハーレム


②営業(女神)の説明

・めっちゃ強いスーパーボディにするにゃあ! あと不死身にもなるにゃあ!

・うんうん、そのゲーム? っぽい感じだにゃあ! 剣も魔法もあるにゃあ! うんうん、あるある!

・かわいい娘もね、いっぱいでてくるにゃあ! 敵も味方も美女だらけだにゃあ!


③与えられた実装

・最強の身体能力(脚力のみ)と残機無限の死に戻りコンティニュー

・ゲームはゲームでもRPGじゃなくアクションゲーム

・なるほど確かに美女は多いが、そもそも触れられないし近づけない


・見えない壁に阻まれて、進めるのは前後だけ ←New!




 ……なあ。


 やっぱり詐欺だろ?  これ。



 ※※※



「おお異界の勇者よ! よくぞ我らが呼びかけに応え」


「だまらっしゃァ!」


 俺は復活するやいなや、さっきも聞いた王様の言葉を強制キャンセルし、両足に満身の力を込めて“道”の壁に全力のタックルをぶちかました。


 そしてあっさり跳ね返された。


「んがぁ! クソッ! 畜生! んの野郎ッ!」


 自分でもなに言ってるのかよくわからない悪口を叫びながら壁を蹴りまくるが、これまでと同じように、まるきりぜんぜんこれっぽっちもビクともしやがらない。蹴った感触でさえ一瞬で吸収されてしまう。ぶ厚い羽毛布団を蹴ってるみたいだ。


「キエーッ! ウリャーッ! ヒイーッ! ヒョォーッ!」


 おそらく修羅と化している俺の顔を、透明の壁、目の高さに浮かぶ目印の青いマーカーが冷静に見返している。その向こうには、おびえた顔をした衛兵や従者たちの姿。


「おらぁなんだこのヤロウ、散れ散れ! 見せもんじゃねえんだぞこっちはよぉ! ウリャーッ! シャーッ! クキー! ピョエーッ! ゼェゼェ……。


 スゥ……。


 オ ア ア ア ア ア ア アーーー!」


《あにゃー、おちつきなってぇー》


 人間ヒトを捨て、一匹の獣としてこの身に溢れるすべての力を解き放たんとする俺に、誰かの声が届く。耳からではなく、頭の中に直接響くような感じだ。


《あきらめなよー、それ、破るなんて無理だからにゃー》


 鈴のように美しい、だけどのっぺりとやる気のない口調。


 女神ダイアログ……。


 俺をこの世界に呼び出し、このうんこみたいな呪いをかけた張本人だ。


「よーし出やがったなクソ女神、ここであったが百年目ェェ! そこになおれ! 素ッ首ブチ落としてカラスの餌にしたるわァ!」


《にゃはは、ウケるー》


 完全にナメられている。


 周囲は明らかにドン引いている(たぶん女神の声は俺にしか聞こえていない)が、んなもん今の俺の知ったことではない。


「よくも俺を騙しやがったな! だいたいなんなんだよこれは! 聞いてねえぞこんなのよォ!」


《だってぇー、これ先に言ったらみんな契約してくれないしにゃー》


「あったりめえだろうがボケナス! そんなん俺だって聞いたら契約してなかったわ! 退屈だけど平和な日常をそのまま生きてフツーに勉強して恋してそれなりにドラマチックな人生送ってたわ! ほら戻せ! いますぐ送還しろ! クーリングオフだクーリングオフ! あそーれか・え・せ! か・え・せ! もいっちょ! か・え――」


「ど……どうか怒りを鎮めてはくれぬか、異国の勇者よ」


 背後、斜め上頭上から、声が降ってきた。


 振り返る。


 俺が立っている床――血のような塗料で魔方陣が描かれている――よりも一段高く作られた場所に、豪奢な身なりをしたひとりの老人が座っていた。白い髭を伸ばし、威厳たっぷりといった風情だ。浮かんでいる引きつるような笑みを除けば。


「突如呼び出した非礼は詫びよう、しかし、何ゆえそこまで荒ぶるのか……」


 はぁ〜〜〜〜ん?


 完全にチンピラモードで答えようとした俺だが、そこで唐突に、一回目さっきのことを思い出す。


 そうだ。確か前回も、わけのわからんこの状況に混乱してこいつに食ってかかり、側近の護衛兵に殺されたのだっけ。


 いや、違った。


 正確には、近づこうとした俺の前に立ちふさがった護衛兵士の手に触れた瞬間、ノータイムで即死したのだった。


 あの思い出すのも恐ろしい、おぞましき囁きと共に……。


 玉座の両隣に控える近衛兵の目がギロリとこちらをにらむのと、俺が身震いするのとは同時だった。


 落ち着け。


 もうあんな思いはごめんだ。ここは一旦、穏便に行こう。


《そーそー! 素直が一番にゃー》


 頭の中でダイアログがささやく。


《世界を救えばこの加護も解けるんだから、さっさと魔王を倒せばいいのにゃ》


 ぐうぅぅ、腹立つなあ……。


 ちらりともう一度、俺は背後を見る。


 そこには、“道”が続いていた。


 一定の間隔を保って整然と並ぶ、俺にしか見えない青い標識マーカー


 それは広間を突っ切って、分厚い扉の向こうへと続いていた。


「異界の勇者よ」


 しびれを切らしたのか、玉座に座った老人が俺を呼んだ。


「その……何かと不安なこともあろうが、どうか聞いてはくれぬか。我々の世界はいま、崩壊の危機に瀕しておるのじゃ。あの忌まわしき【黄昏の魔王】によって……」


 ああ、確かに忌まわしいったらありゃしない。


 なにせ、その【黄昏の魔王】とやらを倒すまで、


 俺はこの幅二メートルの見えない道から、一歩も出られないのだ。

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