スクロール×スクロール! ~異世界で俺だけが2Dスクロールアクション仕様な件について

維嶋津

Chapter1: Paper Mache World

1st try:New Game

「僕の前に道はない。僕の後ろに道はできる」


 ――そういった詩人は、だれだったろう。


 あれ、ええっと、詩人じゃなくてプロレスラーだったかな? 


 あ、いやそっちはあれか。「迷わず行けよ、行けばわかるさ」か。


 まあいいや。


 要するに、そんな言葉を、俺はこれまでずっと意識してきたのだ。


 敷かれたレールの上を歩く人生なんてまっぴらだ。


 なにをやっても誰かに文句をつけられる生活なんて願い下げだ。


「こうしたほうがいい」


「あなたのためだから」


「そのうちわかるよ」


 毎日のように押し付けられるおせっかいなんて、全部無視してやりたい。


 だから、望んだ。


 すべてが自由になる人生を。


 誰にも邪魔をされない人生を。


 なにもかもに反対する親も、


 小言ばかりを言う教師も、


 偉そうな大人たちもいない世界を。


 遠く、ここではないどこか。


 そう、それは例えば。


 ゲームの中のような――



 ※※※



「――ってなわけでさ、めっちゃくちゃ期待してたわけよ、俺は」


「ほえー」


「わかる? 下校途中にいきなり足元がぶわーって光ってさ、『異界の勇者よ……我らの呼びかけに応え、どうか魔王から世界を救いたまえ』なんつって言われたときの俺の気持ちをさぁ」


「あにゃー」


「でさ、光が消えたらほら、いかにも王様、って感じの老人が目の前にいるわけじゃん? よっしゃ異世界召喚! チート無双! ハーレム展開! って、そりゃもうテンション上がったわけよ。それがお前、二分で即死ってどういう」


「うふぇっふぇっふぇっ」


「聞いてる?」


 上下左右が黒一色の、だだっ広い空間に、俺はいる。


 そして目の前には……つやつやと輝く青い髪と、そしてやたらこう、大事なところが透けそうで透けない薄い布でできた貫頭衣トーガを来た絶世の美女が、うつぶせの態勢でふわふわと浮いていた。


 彼女は読んでいる本のページをめくりながらうなずく。


「聞いてる聞いてるぅ。うひぇっひぇっひぇっ」


 嘘つけコノヤロウ!


「最初に言ってた話とぜんぜん違うじゃねえか!」


 俺は吠えた。


 だいたいなんだチート能力って言うけどお前これデメリットの方がデカいしそもそもこんな呪いを食らうなんて聞いてねえしこっちの要望ほとんどガン無視だしアドバイスなんて皆無だし本当に俺に世界を救わせる気があんのかてめえはよおおおおお!


 ガンガン怒鳴り続けていると、ふいに彼女が顔を上げ、俺を見た。


 途端に、垂れ流していた不満が、喉の奥で詰まる。


 とろんと眠そうな表情。


 閉じかけのまぶたの奥にある、澄んだブルーの瞳。


 吸い込まれそうなその色が、俺の怒りを強制的にひっこめてゆく。


 ……いやいやいやまてまて騙されるな、ニヤけてどうする、こいつに騙されたおかげで俺はだな、ああ、でもやっぱり可愛いなあ、こういう童顔のおっとりした感じの子、正直どストライクですわぁ……幼い表情とゴージャスな体型のギャップもまたこれ……っていうか刺激的ですよねその服……できればもうちょっと、体をこっちに向けてくれたりなんかりするとですね……うふふ……えへへ……。


 じゃ、なくてッ!

 

 気を取り直しかけた俺の耳に、鈴の音みたいな可憐な声が届いた。


「ね……シュウちゃん?」


 んがああああ騙されんぞもう! いまさら謝っても遅いからなッ! ぜってえ許してやんねえかんなッ! まあちょっとくらいエッチなサービスでもしてくれたら考えなくもないけど、基本的にはな! 納得なんてしてやらんからなッ!


 そんな俺の決意に対抗するように、彼女は態勢を変え、俺を上目遣いで見つめる。やめろ。瞳をうるうるさせるな。その攻撃は俺に効く。


 必死で冷静さを保とうとする俺に、彼女は言った。





「君の世界から持ってきた、この少年ジャンプって本……続きはいつ出るのん?」





 よーしわかった。


 やっぱり絶対泣かしたる、このクソ女神。

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