四度目の妹ロンダリング

あらいず

第1話◯萌え

「開斗~、お母さん今日早いから自分でちゃんと準備して学校行くのよ~。わかった?」

「はいはい、分かったとも。だから母よ、早く仕事に行きたまえ。」

「ったく、本当に大丈夫かしら?」

開斗の母親は不審そうな目で見ていたが腕時計を確認すると慌てて職場に向かっていった。

「やっと行ったか、これで心置きなく始められる。」

母親の出ていったドアの鍵を掛けて口元を歪めニヤリと笑う。開斗はリビングに向かいながらとあるアプリのダウンロードページを開いていた。

「ん~?遅いなあ、流石に今日はページが重くなるか……おっ、きたきたきた。アップデート開始!!っと。」

今、巷で話題のアプリ「sibling builder 4.0」。その機能は思いどおりの姿・性格の兄弟姉妹の生成し、いつでも好きなときに話しかけてくれるというもの。その出来の良さから全国の大きいお友だち、腐りかけのお姉さん、仕事に疲れた独身貴族、そんな感じの人たちの間で話題となり、急速に広まっていった。おまけに、様々な機器に接続して介入することもでき、機械の不具合なども教えてくれるために、一部の企業なんかでも使われているらしい。開発元の公式アナウンスによると今回の大型アップデートによって立体映像化ができるようになるという。

「……アップデート終了か。なんだか緊張するな。俺は姉萌えなので、勿論選択はお姉さんだ!やはり、ここは王道のお淑やか清楚キャラかなー。」

各種設定を次々と選んでいく。生成開始を押してしばらく待てば出来上がりだ。開斗は出来上がった姉のプレビュー画面を見てふと手が止まった。

「思っていたものと違う感じがするな。」

開斗はリセットをタップした。

「まぁ、あと二回もチャンスはある、落ち着いていこう。」

今回のアプリのアップデートは特別仕様であるだけに、開斗は真剣であった。

「やはり慣れないものだな、いつもなら一度しかチャンスはもらえないのに。それもそのはず今回のアップデートはついに実現した夢の立体映像化だからな、さすがに開発元にも慈悲はあったか。」

このアプリはバグを減らす関係でリセット機能が搭載されていない。しかし、生成事故で失敗した者に救いはなく、涙を呑む者たちが後を絶たなかったのは言うまでもない。

「ここはあえてがさつだけど家庭的スキルのあるお姉さんキャラにしようかな。っと、あー!間違えた!やばいやばいやばい、落ち着くんだ俺、あと一回ある、そうあと一回だ。」

興奮と緊張のあまりに開斗は間違えて妹キャラをタップしてしまった。開斗は精神を集中させ、ゼロから設定し直す。もう間違えられない。

「落ち着いてみるともっと包容力のある姉のほうがいいな……いくか!!お姉ちゃんキャラを選択。」

「ゆるふわ系、癒しキャラを選択。」

開斗の額には汗が浮かび、それが頬を伝っていく。

「認証……っと。あ、いけない、充電しなくちゃ!」

開斗はスマホに出ている「充電してください」のメッセージに反応し、すぐさま充電器に接続した。スマホの画面は元に戻り、キャラクター生成中の画面に切り替わった。

「ふー、何とかなったな。おっと始業に間に合わない!急がないと!」

焦って取った手提げ鞄がコーヒーカップにぶつかる。横になったカップからコーヒーが流れ出る。

「とにかく早く出ないと!」

開斗は倒れたコーヒーカップに気づかないまま外に出ていった。流れ出たコーヒーはスマホを浸し、プログラムに小さなエラーが生じさせた。それに気づく者はおらず、暗くなった部屋の中でスマホだけが光り続けていた。




「ふふふ、待ちに待ったこの時がやってきた。あー、神よ、なんて残酷なんだー、この僕と運命の赤い糸で結ばれた姉(仮)とすぐに合わせてくれないなんて!!」

俺は自宅の玄関の前で演劇じみた口調で叫ぶ。変人だった。おっといけない、ご近所さんが俺を白い目で見ているが、そんなことはノープロブレム!!さあ、早くリビングに向かってご対面と行こうじゃあないか!!開斗は玄関のドアを開けてスマホのあるリビングに向かった。

「あっ、おかえり、遅かったじゃない。」

「ただいま、ちょっと生徒会といろいろあってね・・・」

ん?なんで声がするんだ?母さんは遅くなるはずだし、俺は一人っ子だったよな??……もしかして!

アプリのプログラムを確認すべく急いで開斗はスマホを手に取ったが、電源は入っていなかった。状況が飲み込めず固まる僕を上目づかいでのぞき込む少女がテーブルの上に座って足をばたつかせていた

「ぎゃー!お、お前誰だよ!」

俺は驚いて後ろによろけた。

「うっさいわねー、ひとまず落ち着きなさい。」

少女は耳に栓をするようにして言い放った。

「プログラムされた情報からすると、あなたが開斗ね。フフッ、いいことっ、今日からあなたの家族になる超絶美少女の『妹』よ!むせび泣いて感謝なさい!!」

少女の言葉に僕は膝を折り、むせび泣いた。

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四度目の妹ロンダリング あらいず @ryna

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