第3話

アラン達4人はアール帝国とラリネ国の国境付近に来ていた。


「もうすぐアール帝国の領地内ね。」


「そうだね!でも王様がアール帝国を倒そうとしているのはきっと知っているだろうから、帝都まで行くのに妨害があるはずだよね。」


「まぁそうだよな。どんな奴が来るんだろうな?」


「私が調べた限りではアール帝国には団員が全員異能力者で構成されている皇帝直属の騎士団があるようね。」


「ふーん皇帝直属か。能力が強いだけじゃなくて頭もよさそうだね。大丈夫かな?」


「リノンも頭すっごく良いから大丈夫だろうけど...。勝てるかな?どこまで強いかわからないんだし。」


「お前らがいる限り勝てるだろ。それに俺らは勇者だぞ?そう簡単に負けてたまるか。」


「ふふっ。そうね。あ、そうだ。リノラが瓶を作って、それに私が彼らの能力を入れて奪っていくっていうのはどうかしら?そうしたらその騎士団の規模は小さくなっていくでしょ?きっと団員である資格は能力を持っているかどうかでしょうから。」


「ナイスアイディア!リノン!じゃあ。」


リノラはおもむろに大きな折り紙を取り出すと、ゆっくりと折り始めた。その様子を見たリノンはリノラを窘める。


「リノラ遅い。マイペースもほどほどにしないと。もうっ。」


「はーい。すいません。」


リノラはリノンに謝るとさっきの倍以上の速さで折り進める。すると瓶がすっぽりと入るように仕切りがされた大きなケースらしきものが出来上がった。


「『物作ひょうげん』出来た!ケース!これで瓶を入れられるね。」


しっかりとストラップまで付けてあり、腰に提げられるようになっていた。


「リノラ。しっかり持っておいてね。私には持つことが出来ないんだから。」


「もちろん!」


「ところで最初に来る敵の能力って何だろうな」


「調べてみようか?僕の能力で。」


リリーが言った一言で

「そんなこと出来るのか⁈」

「『クロノス』ってそんなすごいの⁈」

アランとリノラが驚いて目を丸くする。


リリーは2人の反応にため息を一つついた。


「はぁ。2人とも僕の説明ちゃんと聞いてた?僕の『クロノス』は時間に関係する全てのことを操作できる。だから未来を見るなんて造作もない。ただ、早送りっていう原理だから先になればなるほど正確性は落ちるんだけどね。リノンは分かってたんでしょ?」


「ええ。予想は出来ていたわ。で、どんなのだったの?」


「ちょっと待ってね。『クロノス』fast forward.んー。約20分後に単身で乗り込んでくるみたいだね。」


「単身⁈」


「なめられたもんだな。で能力は?何だったんだ?」


「『奴隷どれい』。触れた相手を奴隷化させる能力だよ。見た感じ男の人で女好きなみたいだから...」


「多分能力の標的になるのは私たちね。」


「リノンは大丈夫だろうがリノラはどうするんだ?」


アランの疑問はもっともである。リノンには能力が効かないため奴隷化することはないが、リノラは防ぐことが出来ないのだ。だが2人はそのことを問題視していなかった。


「大丈夫!リノンに借りるから!」


「「借りる?」」


彼らの持つ異能力は基本1人に一つ。持たない人も少なくはない。借りるということは聞いたことがなかった。


「私の『能力操作のうりょくそうさ』を使うのよ。この能力で『無能むのう』の能力の一部をリノラに貸し出すの。出来るのはきっと私だけよ。悪いことに使う気はないし、利用される気もさらさらないわ。それに貸し出している間は能力が2つとも常時発動している状態だから大変なのよ?だから安心してね。」


アランとリリーの2人は安心した様子だった。


「それなら大丈夫そうだな。」


「作戦はどうする?」


「そうね。きっと彼は私とリノラに能力を使って奴隷化しアランとリリーを襲わせるつもりだわ。仲間を攻撃するなんてできないことを利用して。」


「だろうね。」


「そこで、私たちは能力にかかったふりをして私がアラン、リノラがリリーに攻撃を仕掛けるわ。ばれないように手加減するから安心して。2人は信じられないというような演技をして、切りのいいところで倒れてほしいの。そうすれば後は私たちだけだから私たちを無効化するために彼が近づいて来るはず。そこで私が『能力操作のうりょくそうさ』で能力を奪う。これでどうかしら。」


「了解。」

「OK。でも瓶はどうするんだ?」


「今作れば大丈夫!それにこれくらいなら見らずにささっと作れるし!」


「なら大丈夫そうだね。じゃあ来るまで進もうか。」


「だな!」




そしてしばらくして、4人の前に一人の男性が現れた。


「こんにちは。貴方方が勇者ですね。初めまして。アール帝国の騎士のイルーサと申します。」


「来たね。」


「初めまして。では貴方の能力を見せてもらいましょうか。早くそちらの王様を倒さなければいけないので。」


「美しいレディに頼まれては断れませんね。では貴女方に。『奴隷どれい』」


イルーサと名乗った男性が能力を使うと突然リノンとリノラがアランとリリーに攻撃を仕掛けた。


「わっ。うっ。何だ!」

「リノラまで!」


その様子をみたイルーサは笑顔で

「どうですかぁ!自分たちの仲間に攻撃される気持ちは!反撃出来ないでしょう!仲間ですからねぇ!」


「がはっ」

「うっ」

ドサッとアランとリリーは崩れ落ちるように倒れこんだ。


「はっはっはっ。無様だな。こんなんで帝国を倒そうとするとは。子猫ちゃんたちお疲れ。こっちへおいで。よくやったね。」


近づいてきた2人に対しイルーサは彼女らの頭をなでる。2人が小声で話しているのには気付くことなく...


「『物作ひょうげん』リノンOKだよ。」

そう言うとリノラは瓶のキャップを緩めた。


「ええ。こっちもOKよ。」

リノンはそっとイルーサに触れると能力を発動させる。


「『能力操作のうりょくそうさ』rob.」


イルーサに触れていた指をそのままリノラの持つ瓶の方向に動かすとイルーサから出た光が瓶に吸い込まれた。流れるようにリノンはリノラから瓶を受け取り、蓋を閉める。


そして一息つくと

「ふぅ。アラン大丈夫だったかしら?あまりダメージを与えないように手加減をしたつもりなのだけれど。」

「リリーも大丈夫だった?」

と倒れていたアランたちの方へ声をかけた。


「大丈夫だ。」

「僕も。2人とも演技すごいね。本当に操られている感じだったよ。」

「俺らの演技どうだった?あまり自信がなかったんだが。」

「大丈夫というかバッチリだったよ。」


何事もなかったようにイルーサを無視しながら会話をする4人に置いてけぼりにされたイルーサが割り込んだ。


「なに?どういうことだ。」


「これ貰っておきますね。そしてあなたのようなは王様に処分されに行ってください。」

リノンはイルーサに向き直ると黒い満面の笑みを浮かべイルーサの能力が入った瓶を掲げながらイルーサにきれいな回し蹴りを食らわせる。


イルーサは崩れ落ちながら処分される理由を考えるがわからなかった。


「うっ。なんで。私は処分なのですか?」


「え?そりゃ...」


「これは貴方の能力ですよ。ありがとうございます。かなり良い能力でしたので頂いていきますね。能力がない貴方は騎士団には居られるはずがないでしょうから処分と言ったのです。」


リノンが処分される理由を説明するとイルーサの顔が真っ青になった。


「ねぇねぇ。アール帝国の帝都ってどの方向?」


リノラが突然意図が分からないような質問をした。だがイルーサは聞いていない。


「嘘だろ?で、では...あの時能力は...」


「うん。私たちは奴隷化されてないよ!貴方みたいな人に私たちが操られる訳ないじゃない。リノンの能力は能力を無効化することだしね!というかどの方向なの帝都。いくら無能の貴方でもそれくらいは分かるでしょ?」


「あ、あっちだ。」


イルーサはリノラの様子におびえながら素直に帝都がある方向を指し示した。


「そう。ありがとう。ふふっ、それっ!」

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


リノンはイルーサの指し示した方向に向かって腕を振った。

するとイルーサの身体が浮き、凄いスピードで帝都のある方向へ飛ばされていった。


「あ。行ったねー。」


リノラはイルーサが飛ばされていった方向を見ながら笑っていた。アランたちはリノンがやったことが分からず呆然としている。


「何したんだ?」


「帝都の皇宮にあの人を飛ばしたのよ。『能力操作のうりょくそうさ』は能力を奪った人物に対して好きな場所へ飛ばすことが出来るの。方向は決めないといけないのだけど。」


「へぇ。本当にすごいね。ところでさっきはなんで騙されたふりをすることにしたんだい?」

「それ俺も気になった。リノンの能力は指をさすだけで良いんだろ?」


「その通り。本来『能力操作のうりょくそうさ』は指をさすだけで能力が発動するわ。でも対象に触れているほうが確実なのよ。だから、騙されたふりをしてもらったの。」


「なるほどな。というか。お前ら敵には超毒舌だな。」


アランのつぶやきに

「そう?考えたことはなかったけど。けれど...。」

「そうかなぁ。でも...。」

「「そうかも」」

双子はシンクロして答えるのであった。




一方その頃アール帝国の皇宮ではラリネ国の勇者に送ったイルーサが突然皇宮内の庭園に突っ込んできたことで大騒ぎになっていた。


「どういうことだ。空から飛んでくるとは。説明しろ。」


「あ、はっ、勇者に能力を奪われ、その能力でここまで飛ばされてきました。4人の内1人は異能力を無効化する能力を所持しており、能力を2つ所持しているようでした。」


「はぁ?何を言っている。能力を奪われたことは別として、異能力を無効化する能力などあるはずがなかろう。それに2つの能力を持つだと?あり得るわけがない...いや...居はするのか...。この世界で一番の協会のトップは私であるべきなのだ...。まぁいい。とりあえずお前は能力を盗られたということだな。」


「はい。使おうとはしましたが、発動しませんでした。」


「ならば。クビだ。能力を所持していないお前は我がフィーヒカエットにいる資格はない。次の人選は任せるが、それが終わり次第他の騎士団に行け。」


「仰せのままに。」


イルーサがが去っていく背中を見ながら皇帝は呟く


「能力を2つ所持か...。まさか..いやがあの国にいるはずがない。」


と........

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異能力者がいる世界 雨津 海衣 @AmeduUe

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