第4話
マリアは凌辱されていくテレサから目を背け、目をつぶった。テレサの悲鳴と卑猥な音が耳に入ってくる。テレサの他にも同じように凌辱されている女達の悲痛な叫びと、欲望を満たすべく女達に襲い掛かる男達の熱気でテントの中は充満していた。
マリアは両手を二人の男に押さえられ、もう二人の男らに胸と秘部を弄ばれている。目をつぶっているので暗闇の中で自分の体がまるで蛇に舐められたりされているかのようで不快極まりなかった。
と、突然マリアの体に激痛が走った。下腹部が何かに突き上げられるかのように痛む。目を開けるとマリアの秘部には男の陰茎がズブリと挿入されていた。男はマリアと目が合うとニヤリと笑い止めていた腰を再び動かし始めた。
「痛い痛い痛い!!」
男の乱暴な腰の動きに耐え切れずマリアが悲鳴を上げる。しかし、その声も男らにしてみればそそるだけに過ぎなかった。さらに腰の動きを早める。
「ああっ…、それだけはおやめ下さい!」
目に涙を浮かべているテレサの懇願するような声が聞こえてきた。マリアがテレサの方を向くと男が腰を小刻みに震わせていた。
「いやぁぁぁ!」
テレサが叫び声を上げた。そしてマリアを犯している男もマリアに向かって放っていた。
「そんな・・・そんな・・・」
マリアが放心する。助けはいつになったら来るのか、それだけをマリアは考えていた。しかし、助けが来るはずが無かった。奇襲を受けた護衛は壊滅し、生き残った者達も町へと敗走を余儀なくされた。つまり、テレサらは取り残されてしまったのだ。だが、この時はそのことに気づくよしもなかった。
マリアもテレサと同じく男の凌辱を受け続けた。テレサは次々と現れる男達によって荒々しく幾度も犯された。マリアは同じ男に何度も犯されたことだった。その男はマリアを戦勝品として与えられたかのように周囲に何か誇らしげな身振りをしながらマリアを犯していた。旺盛なのか尽きること無くマリアを凌辱し続けていた。
やっと男がマリアから離れた。しかし別の男らによって抱きかかえられるようにして外へ運ばれた。既に夜が明けており一晩中男らに弄ばれていたのだった。
周囲の光景にマリアはゾッとした。護衛の兵士らが腕を後ろでに縛られ、次々と首を切り落とされてるのだ。
「なんて…ひどいことを」
そんな光景の中、マリアを抱えている男は一本の木にマリアを押し付けるようにして凌辱を続けた。ふとマリアが木の上を見上げると、木の枝から一本の縄が垂れていた。
と、犯している男の脇に控えていた男達がマリアの手を頭の上まで上げて、両手首を縄でまとめて縛った。男に支えられないと足が地に着かず、吊るされた形となる。周囲でも似たように木から吊るされて犯されている少女達の姿があった。
中には木のテーブルに仰向けに押し倒され、股を開いた上体で縛られて犯されている者の姿もいる。周囲は男達のきつい臭いで充満し、鼻をつんざくほどだった。
昼ででも薄暗い森の中で何度夜を迎え、朝を迎えたかもう覚えていなかった。来る日も来る日も男にマリアは犯され続けた。体は衰弱し、縛られている腕も跡から血が落ちるほどだった。
「いつまで…続くの…」
空腹もあり、意識も朦朧としていた。周りにはもう動かず、骸になっている者も確認できた。それでも凌辱をする物好きもいた。
そんな中、遠くから勢いのいいラッパの音が鳴り響いた。凌辱をしていた男達が血相を変えてその場を離れ身支度を整え始める。皆、手に剣や斧を携え戦の準備をしていた。そして、一斉にその場から離れ森の中へと消えていった。
程なくして男達の雄叫びと怒号が森の奥から聴こえてきた。鉄と鉄が合わさる鈍い音も聴こえてくる。戦いが起きているのだ。直感的にマリアはそう思った。しかし、足も地に付かず吊るされたままでは逃げることもできなかった。
薄暗い森の中で吊るされたままどれだけ時間が経ったか。暗さが増していることを考えれば夜が近づいているのはわかった。しかし、また男達が戻ってくれば昼夜問わず凌辱を受けることもわかっていた。
足音が聞こえてくる。一人ではない、足並みをそろえた何人もの足音が聴こえてきた。ああ、あの男達が帰ってきたのか…マリアは再び訪れるであろう凌辱に身を震わせていた。しかし、マリアの眼に入った男達は違っていた。
皆、鎧に身を固め、肌をむき出しにすることが多かったサー族の男達とは違っていた。
「なんということだ…今助ける」
鎧を身に着けている男が剣を抜くと、マリアを吊るしていたロープを切り落とした。何日ぶりに地に足をつけることができるか。しかし、足がむくみ立つことができず、そのまま地面に倒れこんでしまった。男はマリアに手を差し伸べべて体を起こした。
「あなたは…?」
「我々は本国より派遣された者です。デロー族やサー族の一団は一蹴いたしました。もうご安心を…」
男は兜を脱いでみせた。確かにデローやサー族の男達とは違う。紛れも無くアイネス王国の男の顔立ちだった。
「ヘイデルが襲撃を受けたとサントローヌスより連絡が入り、急いで駆けつけたのですが遅れてしまい申し訳無い…」
男はマリアの哀れな姿を見て涙を流した。周囲でも助けられた女達・虐待を受け殺された捕虜の男達の姿を見て涙を流している兵士らの姿があった。
「…マリアさん…」
マリアの所に兵士に支えられながらよろよろと歩いて近づいてくる女性がいた。毛布で体を包んでいたが、肌から見える無数の傷が痛々しく、頬も痩せこけている。
「テレサさんですか…?」
マリアはテレサだと最初わからなかった。それほど酷くやつれていたのだ。
「ええ…幸か不幸か生き残りました…」
テレサがマリアと抱き合って涙を流した。マリアも堪えていた気持ちが噴出し、声を上げて泣き出した。周囲もそれに呼応してかより一層大きな声を上げて皆が涙を流した。
サントローヌスより本国へ伝令が到達したのがマリアらが襲撃を受けた翌日に入った。本国は急いで師団を派遣し、サントローヌスの町に入った。その後、森の中でマソリヌ族、サー族らを退け、先程もデロー族の男達を一蹴してここまでたどり着いた。
いくら森の民と言えども統制の取れた王国の軍には歯が立たなかった。奇襲とは相手がどこからか現れるかわからないからこそ成り立つものであって、既に敵がいることがわかっている状態では相手にならなかった。ここまでたどり着くまでに襲撃を受けてから一週間以上の時が流れていたという。
三族の男達は捕まった者であってもその場で首を切られた。それだけ王国にとっては屈辱的な出来事だったのだ。師団は二手に分かれ、半分は捕まっている者たちの救助、もう半分はヘイデバルスへ進軍した。デロー族の者達が慌ててヘイデルに逃げ込んだこともあり、動揺は必至であろう。
しばらく時が経ち、生き残った者等が集まった。女性は数にして数十人にも満ちず、マリアよりも小さな子であっても男達から乱暴を受けていた。皆が男達に犯されたのだった。
捕虜となった兵士で生き残っている者はおらず、一人残らず惨たらしい最期を遂げていた。食肉にされた者までいたという。
生き残った女達は兵士らから短刀を渡された。乱暴を受けた者の種を産むことを拒絶する者はこれで命を絶てということだ。次々と短刀を手に取り森の奥へ消えていった者等は二度と戻ることは無かった。一人、また一人と思いつめた顔をしてその場を去っていく。
「マリアさん…先に行くわ…」
思いつめた顔をしたテレサも立ち上がり、森の奥へと歩き出した。
「テレサさん!!」
マリアが引きとめようと呼びかける。
「いいのです…私はもう汚されてしまいました…」
テレサが下腹部をさすりながら答える。その目には涙が浮かんでいる。
「さようなら…マリアさん。あなたも自分のことを自分でしっかりと考えるのですよ…」
テレサは森の中へと消えて行った。他にも親が子を手にとって森の中へと向かっていく姿も見える。とうとう、残っている者はマリアだけになってしまった。
「私は…私は…」
一人、手を震わせて短刀を見つめる。どうするべきかまだ考えが決まらない。ふと、脳裏にトゥルスの姿が浮かんだ。一緒に遊んだこと、夜遅くまで町で遊んでいてテレサさんに一緒に怒られたこと、そして自分を守ろうとして殺されてしまったこと、その後、男達に凌辱をされたこと…
短刀の上に涙が零れ落ちる。もうトゥルスはいない、汚され荒くれ者の種を植えつけられた汚らしい自分がそこに残っているだけだった。
「最期に私が去ったらここに何か証を残してください。このような悲劇が起きぬように平和の祈りを込めた証を…」
マリアは立ち上がり、そばにいた兵士にそう告げた。
「わかりました…必ず残しておきます」
兵士も涙を流していた。マリアは森の中へと歩みだす。すでに暗闇に森は支配されていた。奥へ進めば進むほど血生臭さで包まれている。もう何人も者達が命を絶ったのであろう。
「トゥルス…貴方の元へ…」
マリアは短刀を喉元に構え、そのままゆっくりと刃を突き刺した。
それからして惨劇のあった地に花に囲まれた台座の上に石像が作られた。それは短刀を喉元にかざしている少女の像だった。像の台座にはこう彫られている「悲しみの乙女、平和への祈りを持ちつつ汚された体を絶ち天へ昇る」と…
羊の唄 虎昇鷹舞 @takamai
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