2章_2
手元の明かりを頼りに
元々古城で一人で暮らしていたのだ、馬車に変われど一人の時間が手持ち
定期的に
「また窓にファッショナブルなトカゲが……」
「こんばんは毒持ちです!」と言わんばかりのカラフルな色合いを
これで何
それを
ちなみにこの作業、決してアレクシスの
彼が何かしらの不運に
「でも結果的にアレクシス様を守ることになるんだよなぁ。そう考えると不服だなぁ」
そう
口の中で一瞬にして
そうして時に砂糖菓子を味わいつつ、時に毒蛾や毒トカゲを追い払い、手元の本を読み進めて時間を
そんなものを一人で読みふける。それも
「魔女同士で本の貸し借りとか出来るのかな」
ふと、そんなことを考えてみる。
魔女や魔術に関する書物は、当人である魔女だけが所有し次代に受け
アイディラ家にある魔術書はモアネットが古城に
つまり何が言いたいのかといえば、読み
知識として得るためには二度三度と読み返す必要があるのは分かっているが、それでも新しい魔術書を読みたいと思ってしまう。きっと隣国の魔女はモアネットが見たことのない魔術書を持っているだろう、もしかしたら魔女殺しについての本も持っているかもしれない。代々続く魔女の家系なら
貸して、と言ったら貸してくれるものなのだろうか?
それとも何か
あいにくとモアネットには魔女の友人はおろか普通の友人すら
もしかしたら初めての友人が出来るかもしれない。そんな期待を
いったいどうしたのかとモアネットが外を見れば、
「どうしました?」
「申し訳ない。車輪が
「手伝いますか?」
「いえ、
中で待っていてくれと告げ、馭者があれこれと道具を取り出し車輪に板を
次いで
なんて不運、まるでこの旅が
思わず
「出発前に出ていかないと、遠くに連れていっちゃうよ」
そう二匹に話し掛けながら馬車の中を我が物顔で進む彼等を視線で追いかけ……そして兜の中で目を丸くした。
いつの間に入り込んできたのか、
それを感じ取ったか、たんに重いのか、もしくは
そんな唸りを聞きつつ、モアネットがチラと時計を見る。もう交代の時間だ。
「うぅ……う……なんで、なんで僕の顔の上で
「あ、起きた。アレクシス様、交代です。私もう寝ますから、あと馬車が」
「待って、普通に話を進めないで……うぅ、
気持ち悪い、とアレクシスが
「うわっ、やめ……なんかどれかベトベトしてる!」
「どれというか全体的にベトベトしてるでしょうね。よし、そこだ! いけ!」
「モアネット、
アレクシスが声を
これは馬車が停まっている間の良い時間潰しだ。そんなことをモアネットが考えつつ見守っていると、アレクシスの悲鳴を聞いたのか眠っていたパーシヴァルがもぞと動き、「うぅん……」と小さく声をあげた。
それを聞いた
「解散、解散!
はたはたと手を
危なかった、今ここでパーシヴァルが起きたらどうなっていたことか。蛇と蛙とナメクジが争い、アレクシスがそれを追い払おうともがく。モアネットはパーシヴァルの
そんな
「モアネット、どうして馬車が停まってるんだい?」
「泥濘に車輪がはまったみたいです。でもすぐに出発出来そうですよ」
「そっか。
「『私達三人に問題は無かったか』という意味なら、何も問題はありませんでした。ただ、『私達三人の中で問題は無かったか』という意味なら、あったと答えます」
「どういう意味?」
「
「あぁ……」
そうか……とアレクシスがパーシヴァルに視線を向ける。
迷惑な人、そうモアネットが心の中で呟く。だがもちろん寝ぼけた彼が口にした言葉はアレクシスには伝えない。
「
寝ぼけて誰かれ構わず抱きついて
そんなモアネットの問い掛けに、アレクシスが肩を竦めて返した。
曰く、今までパーシヴァルは男だらけの
それを話し、そして最後にアレクシスがポツリと「それも一年前までだけど」と
アレクシスの不運が始まって以降は二人共ろくに眠ることが出来ず、気が休まらない日々が続いて彼が寝ぼけることも無くなったのだという。
そんな話を聞き、モアネットが兜の中で溜息をつきパーシヴァルへと視線を向けた。
気の休まらない日々で寝ぼけることも出来なくなったというのなら、なぜ今それが再発しているのか……。理由は簡単、自分が
なんて
しばらくすると馬車が一度大きく揺れ、馭者が再出発を告げると共に再び走り出した。
車輪が道を走る
そんなネックレスを傷付けない程度に握り、モアネットが兜の中でゆっくりと
「なんだか
というアレクシスの言葉にはっと瞳を開いた。
「待ってアレクシス様、それだめっ……」
慌てて起き上がり制止の声を掛ける。
……が、それも間に合わず、一口水を飲んだアレクシスが一瞬にして表情を青ざめさせ、窓辺へと近付いて顔を外に出すや水を
次いで彼は
「モ、モアネット……まさか僕が三
「それはもはや
そう
もちろん今の「この水を……」という言葉は
それでも砂糖
そんなモアネットに対し、アレクシスは礼を告げて砂糖菓子を受け取ると口内で数度転がし、ようやく落ち着いたと言わんばかりにホッと安堵の息をついた。
「ごめんよモアネット、寝ようとしてたところ
「べつに良いですよ、もう寝ますし。あと呪い除けの呪符も用意しておきましたから」
「何から何までモアネットに
ポツリと呟くアレクシスに、モアネットはさして返事もせずに横になった。
迷惑をかけられているのは事実だ。古城から引きずり出され、そのうえ国を
だが今のアレクシスの声は
ガタガタと微かな
護衛も護衛だが
「ごめんよモアネット、僕は君の顔を覚えていないんだ」
という震える声に兜の中で小さく息を
アレクシスが背を丸め、両手で顔を
だが今はそれを気にしている場合ではない。モアネットの思考の中で先程聞いたアレクシスの声と、そして幼い
「……私の顔を、覚えていない?」
「あぁ、どうしても思い出せない。あんな酷いことを言ったのに、その理由さえも思い出せないんだ……」
「ま、まぁ、でも、初対面だったし。あの一瞬だけだし……」
だから仕方ない、そうモアネットが声を
アレクシスは自分の顔を覚えていない、あの言葉の真意も覚えていないという。
いや、覚えていないのは本当に彼だけか?
だけどもしもそうならば、この
顔を
そんなことを考えればモアネットの
何一つ思い出せないと震える声で告げるアレクシスと
足元が
それが
「……モアネット……モアネット!」
グイと肩を
目の前で深い茶色の
そんな彼の唇が、まるであの時のようにゆっくりと開き……、
「モアネット、ごめんよ」
と、苦しそうな
「嫌なことを思い出させてごめん」
「アレクシス様……」
「悪かった。もう話さないから、ゆっくり
そう宥めるように告げ、アレクシスがそっと肩を押してくる。
横になれと
一定のリズムで続く車輪の音が
あまり良い夢を見られそうにない……そう考えながらゆっくりと瞳を閉じれば、
それから数時間後。
「モアネット嬢、
「うわぁ、うざったいよぉ……」
という会話が馬車の中で
言わずもがな、パーシヴァルが
思わずモアネットがアレクシスに視線を向ければ、彼は申し訳なさそうにこちらを見つめていた。……
「あの重苦しい空気から、なぜこんな
「うん。でも窓に寄りかかって寝てたから……それで」
「それで?」
「さっき大きく馬車が揺れて、窓に頭をぶつけて起きたんだ」
アレクシス
そんな話を聞き、モアネットが
「起こしてごめんねモアネット、パーシヴァルもあと五分で元に
「あと五分ですか……え、それってつまり十分くらいあの状態だったってことですか!?」
もっとも、大人しく嘆いてもいられない。なにせ今この瞬間にもパーシヴァルが
「これ、起こす方法ないんですか?」
「んー、どうだろ」
分からないと
油断していた……そう思った矢先にギュウと強く抱きしめられ、彼の大きな手が
そんな
「……穴があったら入りたい。むしろ自分で
「穴なんてあったら真っ先にアレクシス様が落ちますよ」
「そうだな」
そうして再び馬車が静まり返った頃には、
一人起きていたアレクシスが窓の外を
良かった、と、そう内心でひとりごちる。
今の自分に良いことなど何一つないのに。
馬車の中で朝食と昼食をとり、揺られ続けること数時間。なんとか日が落ちきる前には街に着くことが出来た。
ちなみに想定外とはアレクシスの不運死であり、それ以外は
そんなことを考えていると馬車が一度揺れると共に
パーシヴァルとアレクシスがここまでの料金を払いつつ街の情報を聞き、モアネットはそれを横目にググッと背を伸ばす。ギチギチと音がするのは
「まずは宿を決めて、そのあとに夕食。明日は朝から出発したいから、今日のうちに次の馬車を手配して……」
街の地図を片手に、あれこれとパーシヴァルが予定をたてる。
それを聞き、モアネットがパッと表情を明るくさせた。「宿」と思わず
だが興奮するのも仕方あるまい。なにせ宿だ。今日の
そのうえ自分は我が
「さぁ宿に行きましょう! 一番良い部屋が取られちゃう!」
そう
なんて気分が良いのだろうか。思わずモアネットの足取りも軽くなり、カシャンカシャンと
そうして
「二部屋
と受付の者に告げる。どことなく渋るような気配を見せているのは、きっと財布に大打撃だからだろう。
それに対してモアネットはこれ以上ないほどに気分が良くなり、思わず「最上階の部屋で!」と口を
といっても三階建ての宿。おまけに一階はカウンターと食堂しかないので最上階も何も無いのだが、そこで
それが分かっているからこそ、モアネットはこれみよがしにカウンターに置かれていたルームサービスのメニューを開いた。もちろん見せつけるためだ。初日は大人しく馬車で寝てやったが──おまけにパーシヴァルの膝枕と散々だ──
「……最上階か」
「そうです。最上階の一番良い部屋。もちろんルームサービス付きで」
「そうか、この建物を見るに最上階は
「屋根には
この際だ、受付の女性はもちろんカウンターに立つ者達や、それどころか居合わせた客達までもちらと視線を向けてくるのは気にするまい。きっとこの全身鎧が
馬車で一晩といえど国内、きっと『王子に
だがそれが分かっていても
鉄で
鉄の鎧で
だけど何かとは何なのか。それが分からない。分からないからこうなった。
「……モアネット、どうしたの?
そうアレクシスに声を
こちらからアレクシスの瞳は見えるが、彼からはモアネットの瞳は見えない。いくら彼が目を
そう考えれば安堵が湧き、モアネットが深く息を吐いて好奇の視線を
構うものか、どうせ
「モアネット、もし良ければ
「呪い除けですか?」
「うん。僕は部屋に残るから」
大人しく本でも読んでいる。そう話すアレクシスの表情はどこか
何からの逃げ場かなど聞くまでもない。鎧を
これは確かに部屋に
「とりあえずこれをどうぞ。夜までは持たないけど、まぁ効果が切れたら切れたで
「ありがとうモアネット、わざわざ顔面がまっぷたつに割れた生き物の
「可愛いにゃんこ!」
失礼な! とモアネットが
きっと、不運まみれの自分が同行すれば買い物どころではないと考えたのだろう。
そんな彼の
品
そこで
そうして宿の食堂で食事をとる。どうやら季節的に旅客が多いらしく食堂は
そんな食事を終え、明日も早いと部屋に戻る……のだが、そこでモアネットはアレクシスとパーシヴァルの部屋に行きたいと告げた。もちろん、アレクシスの不運がどのようなものかを知るためだ。
「……男が寝る部屋を訪れたいなんて、はしたないぞモアネット嬢。不運を笑いたいのか?」
「九分九
呪い
それが分かっているからこそモアネットが部屋に入れろと食い下がれば、アレクシスが小さく息を
「まぁ結局モアネットが呪符を作ってくれないと不運に
「……アレクシス王子」
「宿の不運にはもう慣れたから」
そう力なく笑い、部屋に戻ろうとアレクシスが歩き出す。その背はやはり
足して二で割ればちょうど良いのに、そんな事を思う。そうなった場合、パーシヴァルの寝ぼけが余る気もするが。
「王子が良いと
「分かってます、呪い除けでしょ。一晩ばっちり呪いを
「約束だからな。……もし
「違えたら?」
「これでもかと寝ぼけてやる」
「いまだかつてない
本気だと言わんばかりの鋭い視線で情けない脅しを掛けてくるパーシヴァルに、モアネットがあしらうように「分かってますよ」とカシャンカシャンと手っ
なにせ
これは本気で呪符を作らねば……そう考え、前を歩くアレクシスを追う。
「モアネットが期待してるのも分かるけど、すぐに何か起こるってわけでもないよ」
「そうなんですか?」
「寝ようとしたら
「そうですね。今夜は無事に過ごせると思った事も何度かありましたね。過ごせませんでしたけど」
そう話しながら歩く二人を、モアネットが
呪い自体は
そう考え、モアネットがギギィと兜を
モアネットが今夜泊まる最上階の一番良い部屋とは
「モアネット、
「分かってます。
わざとらしくモアネットが「ルームサービスも来るし」と告げれば、アレクシスが肩を竦めつつ扉の
そうしてギィと
「サプラァーイズ!!」
という複数の陽気な声と共に、クリームの
アレクシスが見事なまでに顔面にパイを受け、そのまま
そうして
おまけに投げられたパイは絶妙なバランスでアレクシスの顔に張り付いたままである。これがなんともいえず
そんな
「アレクシス様、
「モアネット、本音が
「アレクシス王子、大丈夫ですか? お
「心配しないで、どこも痛めてないから」
「アレクシス様、
「
そう顔面の生クリームを
元々の
そうしてパーティー集団が謝罪の言葉と共に立ち去るのを見送り、アレクシスとパーシヴァルに
中はさして広くもない、いかにも簡素な宿の一室という造りをしている。
二つのベッドに、一応置かれている程度の小さなテーブル。浴室はあるにはあるようだが、部屋の造りを見るに期待は出来ないだろう。
そんな浴室に、いまだ服のあちこちに生クリームをつけたアレクシスが向かう。その表情には若干の疲労が見え、そしてこめかみには拭い
「心配
「念には念をだな…………。そうか、お前もサプライズ
「居るの!?」
ひゃっ! とモアネットが悲鳴をあげれば、ベッドの下からピエロがゆっくりと
だがそんなピエロは申し訳なさそうに身を竦め、数度頭を下げるとそそくさと部屋を出て行ってしまった。そうして数秒すると隣の部屋から「サプラーイズ!」の声と共に
良かった良かった……とはさすがに思えない。
不運を甘く見ていたとモアネットが改めてアレクシスの
髪が
そんなアレクシスは
「何かあった?」
「いえ、ちょっとピエロが」
「あぁ、そっか」
パーシヴァルの「ちょっとピエロが」という搔い
どうやら「ちょっとピエロが」だけで通じているようだ。動じるでもなく
そんな二人を
古城でシャワーを浴びた時は水しか浴びれなかった──というより水しか出ないようにしてくれた──。だからこそ今回の宿でもてっきり水しか出ない……なんて不運に
モアネットがそれを確かめに浴室へと向かう。
そして……、
「あの、水しか出ませんでしたけど」
と戻ってきた。
本当に水しか出なかったのだ。「見た感じは古いけど造りはしっかりしてるんだなぁ」なんて油断していたモアネットが、手っ
だというのにモアネットの
「うん、水しか出なかったけど?」
と返してきた。
震えもせず、青ざめもせず。とうてい水を浴びた直後とは思えない。
「あの……水ですよ? 寒くないんですか?」
「寒いも何も、ここ一年水しか浴びてないから」
あっさりアレクシスが返す。
どうやら水しか出ない状況に慣れきり、それどころか元より水しか出ないものと考えるようになってしまったらしい。これには思わずモアネットもどう答えて良いか分からず「お強いんですね」とだけ告げた。
考えを改める必要があるかもしれない。アレクシスは確かに不運に見舞われているが、それに比例して化け物じみた適応力がある。この旅の結末として『アレクシスの不運死』はかなり可能性が低そうだ。
「まぁ、
「それでモアネット、僕の不運は満足しっ……」
満足した? と聞きかけ、アレクシスの言葉が止まる。座っていた
そうして改めて話を始めようとし、ワァッとあがった歓声に三人
どうやら相当盛り上がっているようで、歓声に続いて歌う声が聞こえ、果てには
「これは一晩ですね」
「明け方には少しくらい収まるかな……。一時間寝られれば良い方かも」
アレクシスとパーシヴァルが
その
それを見せれば、呪い
次いで
「モアネット……」
「
「ありがとう、モアネット。可愛いにゃん……ウミウシ?」
「可愛いにゃんこ!」
「お、これなら俺は分かるぞ。猫が三
「可愛いにゃんこが一匹!!」
なんて失礼な! とモアネットが
去り
大きくふかふかと
運ばれてきたルームサービスのチーズは
種類も当然だが食堂の通常メニューとは
味は深く、香り良く、種類も豊富。一言でいうなら「さすがあのお値段」といったところか。
これは高価なワインによく合う……と、そんなことを紅茶を飲みながらモアネットが思う。ワインを飲めないことが
そんなルームサービスを
もちろん一番良い部屋だけあって浴室は広く、お湯も出る。いや、宿の浴室でお湯が出るのは当然のことなのだが、水を
そうして入浴を終わらせ、買っておいたマニキュアを手の
店員が──
この後はどうしようか、と手が動かせず何も出来ない時間に考える。
明日は早いというから寝ようか。それとも買った羊皮紙に
そうして時折はパタパタと手を
カシャンカシャンと夜中の
ポシェットから一枚呪符を取り出して
「モアネット
と声を
「
「そうですか」
「お湯って温かかったんだな」
常にアレクシスの近くに居てその不運のとばっちりを受けているのだろう、パーシヴァルの声は
「それで、何か用があって来たのか?」
「どうしたって、別に……」
別に何でもないです、とモアネットがギッと
だがその態度は逆に「何か理由があって来た」と言っているようなものなのだろう、パーシヴァルが不思議そうに首を
その瞬間彼の髪を伝って
「……よく私が来たって気付きましたね」
だがそれを言えばパーシヴァルに
「足音には特に
「足音ですか」
「……一年前からな」
何があったかは言わずただ時期だけを
きっとこの一年間、
なにせアレクシスの不運は
そんな相手なのだから、直接手をくださないという保証はない。
不運に
パーシヴァルはきっとそれを案じ、足音一つにも警戒して一年を過ごしてきたのだろう。
王子を守るのは護衛の仕事だ。だけどいったい誰から
はたして
そんなことを考え、モアネットが肩を竦めた。
「確かに、アレクシス様は
「さらっと
「だって事実ですし」と訴えれば「モアネット嬢はレンガで殴っても死ななそうだな」と皮肉が返ってくる。
「失礼ですね、魔女だって造りは同じ人間なんです。レンガで殴られれば死にますよ」
「そりゃ中の人はそうだろうな」
「……ん? 中の人?」
「ところで、そもそもモアネット嬢はどうして来たんだ?」
話を再び改めてくるパーシヴァルに、彼の『中の人』発言に引っ掛かりを覚えていたモアネットがそれでも
そこに何かあると察したのか、パーシヴァルが扉から半身を乗り出すようにして視線を向け……「これは」と呟いた。言わずもがな、扉に貼られている
それを見たパーシヴァルがしばらく瞳を細め、よく観察し、時にはちょっと首を傾げて角度を変えて
「……可愛いにゃんこです」
「それは分かった。いや、いくら見たところでどこらへんが猫なのかは分からないんだが、一応分かった。で、何の呪符だ?」
「…………ぐっすり眠る可愛いにゃんこの呪符です」
「いやだから、何の効果があるんだ?」
絵ではなく効果が知りたいと訴えるパーシヴァルに、モアネットがチラと呪符を
そうしてポツリと呟いたのは「教えません」という一言。我ながら情けないと思える声が兜の中で聞こえてくる。
「教えないって……」
「良い効果の呪符かもしれないし、もしかしたら呪い
「いったい何がしたい?」
「羊皮紙を新調したから
その際パーシヴァルに呼ばれた気もしたが、それはカシャンカシャンと
そうして廊下を曲がりパーシヴァルから見えなくなってしばらく。曲がり角に身を寄せていたモアネットがそっと窺うように角から顔を覗かせた。
シンと静まった廊下には誰の姿もない。もちろんパーシヴァルの姿もない。きっとモアネットが立ち去った後に部屋に
そして
どうやら剝がさずにおくらしい。それがなんだかモアネットをむず
あいにくとそれではこのむず痒さは晴れず、もう部屋に帰ろうとモアネットが静まった廊下を歩き出した。ほんの少しゆっくりと歩くのは、カシャンカシャンと響くこの足音を
「
そう誰にというわけでもなく言い訳をしながら自室に戻る。
なんて落ち着かない、居心地が悪い。
良い夢が見られるように……なんて、そんな
そう自分に言い聞かせ、部屋に戻るや全身鎧を
続きは本編でお楽しみください。
重装令嬢モアネット/さき 角川ビーンズ文庫 @beans
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。重装令嬢モアネット/さきの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます