MAHOTREE

「あっちぃ…にしてもあっちぃよ。地球温暖化だよ…。」

「うらら、焦点が合ってない目でこっち近寄らないで気持ち悪い。」

真夏の蝉の声も、野球部の声も耳を塞ぐ中、5人は5人の世界で無邪気に話す。

「こーんな田舎もういやじゃ、なんもない!しょっぴんぐもーる?れすとらん?うぃんどうしょっぴんぐ?なんもできないそもそもない!」

れもんはそういって、堤防の下に繋がるコンクリートの階段を下る。脇には雑草が暑い夏に負けず生えており、芋虫の死骸にはたくさんの蟻が群がっていた。

「ありょ?こんなところにお店ができたんだねぇ!」

めろの言葉に真っ先に反応したのは、おしゃれに敏感なうららだった。目を輝かせながら看板を読み上げる。さきほどの暑い暑いというだらけはどこへ行ったのやら。

「おおっ!?『アクセサリーショップ・MAHOTREE《マホツリー》…本日より開店』だってさ!」

焦げ茶色の木造の建物に、鮮やかなピンク色の花が描かれた看板が立っていてそのお店の情報がたくさん書かれていた。そして白に塗られた木の階段の先には白に塗られた木の両開き扉。

「おおっと!これは…!行ってみるしか!!!」

強引な感じもするが、うららは目を輝かせて他の者には否定する余地も与えない。

もちろん、先頭を行くはうらら。続いてめろが歩き始める。りんこは嫌々な顔をしながらも、付き合ってあげる。

「ごめんくださーい!」

うららの場違いな元気いっぱいの声。その声は派手に、木造だからといって吸収されるわけでもなくむしろ篭った形でアクセサリーショップに響くのであった。

「って、誰もいない?!」

店員こそ目に映らないが、きらきらと光を乱反射させ輝く数々のアクセサリーに、女の子5人は心を踊らす。

「わぁ…きれい…。」

思わず感嘆の声や関心の声が漏れる。すると奥の方から、太い重みのある声が聞こえた。

「やぁ、綺麗だろ?それは花の甘い香りの香水だよ」

奥から出てきたのは、色白に艶やかな黒髪が目立つ細身のお兄さんだった。声質とは打って変わって、無駄な肉1つもなく手足も華奢だった。白いワイシャツを腕まくりし、黒のカラースキニーパンツだろうか、その上には薄ピンク色のエプロンが掛けられていた。

「綺麗……。」

お兄さんをみて思わず言葉が口からこぼれたうらら。

「ふふっ、ありがとう。僕が香水を作ったんだ。」

自分が褒められているなど到底思わず香水を自慢するお兄さん。

「おにいさん、店員さんなんですか?」

「……店員さんじゃなかったら、店の奥から出てきて犯罪者だね、なんて。」

冗談を聞かせからかうようにおどけて笑った。

「香りもいいんだ。その香水はキュートアップル。よかったら、あげるよ。」

「えっ!?そんな、こんな高そうな香水いただけませんよっ!!!」

うららは目を丸くした。れもんは後ろの方で、貰っちゃえばいいのになどと呟いている。

「……そっか、せっかく、君に似合うと思ったんだけど…。久しぶりに僕の香水が似合いそうな人に出会ったんだけどなぁ、貰ってくれないのか…。たぶんその香水も君みたいなカワイコちゃんにつけてもらいたいだろうに、それを見捨てるなんて香水も泣いてるよ…。」

「なっ……。」

店員さんは悲しげな声で下を俯き、ぶつぶつとつぶやいた。さすがのうららも罪悪感すら感じた。

念を押すかのように店員さんはこういう。

「君に、似合うと思ったんだけど。…せっかくだし、あげようか?その香水。」

「……は、はい」

もうこうなるとはいとしか言わざるを得ないうらら。

りんこはそんなうららの肩を叩き、絶対詐欺とかだって、と訂正させようとするがそんな間も無く、お兄さんの表情はぱぁっと笑顔になる。周りに花が飛び散っているのではないかという具合にまで頬を高潮させ、うららに香水を渡した。

「ほんっとうかい!?よかったよかった!ここはMAHOTREEっていって、宝石や香水、ヘアアクセとかを作って売っているんだ!店員も職人も僕しかいないんだけど、カフェもやっているんだよ!」

「は、はぁ..........」

うららの手を握り、究極の笑顔で詰め寄る。高身長な店員さんは、うららの低身長を圧迫するようにも見えた。

「ち、ちょっと…!」

危ないお店ではないかと警戒し続けていたりんこが、この接客の近さについに止めにかかった。

「どうしたんだい?……わ、綺麗な髪の毛。サラサラだ…。」

「んっ……!?」

店員さんは握っていたうららの手を離してりんこの髪に手を伸ばす。さらさらと髪の毛を撫でるてはどこか気持ちいい気がしたりんこ。はっと我に返り一気に頬が赤くなった。

「あっ!君にはこの香水が似合いそうだ…!これはアクアシャボンの香りで、石鹸みたいなものだよ!ぜひもらってほしい!」

「えっ?あっ、えっ?」

りんこの手には香水が握らせてあった。

「そういえば、うしろのお友達もみんな素敵な子じゃないか!みんな友達なのかい?わぁっ…。」

キラキラと目を輝かせ、何かを思いだしたかのように店の奥へ戻る。こちらへ戻ってきたかと思えば手には3つの香水。3人の方へつめより、

「君にはこれ、ナチュラルレモン!元気な香りがよく似合いそうだ!」

「そして君には、フレッシュピーチ!甘くて優しい香りなんだよ!」

「で、君にはシュガーベリー!甘い砂糖に甘酸っぱい果物のいい香り!」

れもんはうれしがり、めろは照れて、るなは戸惑っている。

お兄さんはもう満足気な顔をしている。仁王立ちで腕を組み、ふふんと笑ってみせる。

「でも、いいんですか…?こんな、かわいい香水を…。」

「作った人が、あげたい人にあげる。なにか、悪いことはあるかな?そんなつまらないことより、はやく香水をふってみなよ!きっと気に入ってくれるいい香りだ。…あ、僕の名前は、ノエル・グランシェ。気軽にノエルって呼んでね!」

うらら達は、見た目が綺麗とかこの人が全部作ったとかに関心して少ししてから香水をふってみた。

「じゃあ、いくよ…?せーのっ!」

うららの掛け声に合わせて5人が一斉に自分の手首に香水をふった。








「………あぁ、美しい、僕の姫君達よ…!」

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MAHO×TEEN 夢楼 @merow0615

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