オークニーの兄弟達

エニシ

第1話

父が王の死を知らされた時、私は海でボートを漕いでいる最中だった。私は11歳で兄と共にいた。戦士とならなければならない定めから逃れる為に時折兄弟と海に出掛けていたものだった。そこは大変美しく、Llyn Gwalchー英語で鷹の風を意味する名を授けるとしばしばそこへ竪琴を持って行き歌った。私がその頃一番夢中になっていたのは小舟を作り灰色の海へと浮かべる事。Lyln Gawlchという土地を心から愛していた。しかしまだ幼い弟が密かにここを訪れていた事を崩れる石の音で察知してしまった。私は子馬を頂上へと繋げると誰にも見つからないよう願った。

崖の上から兄の声がする。

「今行きますよ」

私は急いで呼び掛けて応える。

「急いだ方が良い」

その声色には怒りが滲んでいる。

「父上が我々を待っているのだ。彼はお前を呼びに私を此処へ寄越した」

私は髪を撫で付けると兄を見上げる。父は待たされる事が嫌いだ。私が戻ったと同時に怒りに触れるだろう。兄は父の怒りの矛先が向かう事を恐れている。

「急いでいますよ」

子馬の綱を緩めながら私は話し掛ける。

「答えなど聞いていない!そんなお前を客人に出す事を父は厭うに違いない、可哀想な事だ」

「客人ですか?戦士ですか、何処から来たのです」

「ブリテンだよ」


ブリテンは重要な言伝を持って来た。父は常に情報を伝達する間諜を数名雇っていたが客人は多くのサクソン人により王達に死が齎された事を伝えたのだった。若き王もたった一年で崩れ去ったという。

私は子馬を急がせる。今や心は不安と悲しみに覆われていた。父は私に計画を与えてはくれたものの、ほんの一端に過ぎなかった。海風が私の髪を急速に乾かしていき子馬も波のリズムに応える。終いまで兄がLyln Gawlchで何をしていたか尋ねては来なかったのは幸いな事だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

オークニーの兄弟達 エニシ @kamuimahiru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ