第10夜 織姫の花

 ひんやり

 てるが握ってくれた手から人の温もりではない、ひんやりとした感触がした。繋がれた手をみると輝の薬指に光る指輪しあわせだった。

 そっか、そうだった 

 今年の夏を思い出して思わずにやける。

『婚約指輪…買いに行こう』

 輝が唐突に言い出した時はびっくりした。その日は毎年恒例、花火大会の日だった。いつも通りシートの上で二人一緒に空高く咲く花火を、祭りと人と花火の音をBGMに互いの近況報告をしながら見ていた。そして、最後の花火が散ると、

「…行こ」

 そういって私の手をとった輝は歩きだした、いつもとは違う方向に。

「輝?どこ行くん?帰り、こっちじゃないよ?」

 戸惑う私に輝は立ち止まって言った。

「婚約指輪…買いに行こう」


 そんなことを思い出していると、とてつもなく愛しさが込み上げてきた。

 ぎゅっ

 繋いでいた手に少し力を入れて握った。すると、驚いたような顔した輝はふっと優しい目をして、その大きな手で私の手をそっと包むように握ってくれた。

 輝も自分と同じ幸せを感じてるのだと思うと、心の中で小さな花がぽんぽんっと咲いて弾けた。

 

 私の隣を一緒に歩いてくれてありがとう。

 私の大好きな彦星様。


 





 

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織姫と彦星の恋 お鈴 @suzunone

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