第9夜 彦星の雪

「さむっ!」

 白いワンピースに薄手の上着を着たことは両腕をさすりながら言った。

「だからあったかい格好でって言ったのに。」

 そう言った俺は黒のダウンに分厚いマフラーをして完全防寒。季節はもう雪がちらほらと舞う冬になっていた。

「いや~、まさかこっちがこんなに寒いとは思わなかったなぁ~、失敗、失敗。」

 俺は上着着てても寒いのに、のんきに笑う琴を見て苦笑まじりのため息をついた。

 あれから4年が過ぎた。俺も琴も第1志望の大学へ進学し、それぞれの道を歩き始めた。俺たちの大学は同じ県ではあるけど、その北端と南端だ。しかも、二人共寮に入ったから高校の時と変わらず、あまり会えていない。でも、あの頃よりは確実に、互いを近くに感じるようになった。

「…ほい。」

 俺は自分の首に巻いていたマフラーを差し出した。琴の着ている服は首もとがまだ秋、いや夏だ。見ているこっちまで寒くなる。

 無造作に差し出されたそれに琴は一瞬びっくりして、でもすぐに

「わ~い、あったか~い!ありがと!」

 と、心地よさそうに首をうずめた。そうやって笑う琴は、高校生の頃と変わらないあの琴だった。

 はぁ~ はぁ~

 手も寒いのだろう、琴は自分の両手を息で温めようとしていた。

 さすがに手袋は持ってきていない。じゃあ、どうするか。

 ぎゅっ

 こうする。

 琴はくるっとこっちを見た。そして、うれしそうに、照れくさそうに笑った。

 あぁ、あったかい。

 なんだか胸に雪がじんわりと広がるような感じがした。多分、これが俺にとっての幸せなのだと、隣に並ぶ琴を見て思った。

 

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