蝉の声

離理

蝉の声

 精神科の病院に私は入院している。

 消灯が21時のためよく目が覚めてしまう。

「はっ…」目が覚めて時計を見たら午前2時。トイレに行こうと思い部屋の外に出たが、夜中は食堂のエアコンは切れてしまうためとても蒸し暑い。

 トイレを済ませ部屋に戻ろうとした時、蝉の鳴き声が聴こえてきた。

 ジジジジジジ

 ジジジジジジ

 こんな夜中に蝉が鳴くはずがないし、そもそも窓も開いてないのに聴こえるはずもない。

 ただの耳鳴りだろうと部屋に戻ろうと歩いていると「俺の鳴き声が聴こえてるのに無視するのか」そう聴こえてきた。

 あぁ幻聴か。私はそう思いながらも「蝉の貴方に話すことなんて何もないわ」と答えた。

 するとそれは「こんなに必死に鳴いているのに無視するのか、こんなに生きたいと泣いてるのに無視するのか」

 はっ、とした。

 この蝉は、うるさい蝉は私の心の叫びなんだと。

 死にたくない、生きたい。誰にも気づかれなかった過去の叫びなんだと。

 涙が流れた。

 ――――――――

「ごはんが来ましたよー」…いつの間にか部屋に戻ってベッドで眠っていた私はその声で目を覚ました。

 夜中あった出来事は私だけの秘密だ。

 あの蝉の声がまた聴こえることはないだろう。


 そう思った。




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蝉の声 離理 @riri16_ka

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