あおいはる は れんさする
「あっつ……。」
あの出来事から早3日の昼休み。
季節は、涼しい風が吹きながらも残暑が残る10月。窓を開けていようが、暑いものは暑い。
日光は、毎日勉強や部活に時間を費やす素晴らしき高校生に目もくれずただひたすらに地面をあたためつづける。
この時期となってもまだ、ジリジリと焼きつけるようなアスファルトへの直射日光がゆらゆらと時空を歪ます。
「暑いなんて言うなよ、余計暑く感じるだろバカ立夏。」
暑さに項垂れて机に突っ伏していた立夏の頭をうちわで軽く叩く音。暑さで意識の半分とんでいた立夏を我に戻す、地味に痛々しい音。
「い゛っ……。バカ立夏とはなによバカ奏汰!」
「わりぃわりぃアホ立夏。いくら暑いからって、弁当食わねぇと熱中症になっぞ。」
からかいながら絡んできたのは、日向奏汰。幼稚園からの幼馴染で、それ以来ずっと同じクラス。茶髪のツンツンヘアーにお調子者で、勉強はできないけど運動神経のいいヤツ。何気にモテちゃってるのが気に食わない。
ほら、また無断で隣に座って、もう箸持ってる。食欲についてだけは、素直なんだから。
「へいへい食べますよぉ、だ。……高校2年生にまでなって幼馴染と昼食とは!あなたもまだまだガキですなぁ。」
「ばっ、ばか。お前が可哀想だから一緒に食べてやってんだよ!」
立夏がほっぺたをつついて冗談を言うと、口から米粒をとばしながら真っ赤な顔で否定する。
「あっそうですかぁ!わるうござんしたねぇ!」
なんで冗談言っただけなのにそんな怒るかね、なんて思いながら、立夏も箸をもつ。
夏で腐らないように、お母さんがたくさん入れてくれた保冷剤のおかげでこれでもかというほど固まる米。
ひんやり冷たい固まったご飯を箸でつまみ口に入れようとする。
その時、不意に誰かに肩を叩かれた。
「んあ?」
口を中途半端に開けたまま返事をし、間抜けた声を出す。
「りっちゃん!なんか、あかま?先輩っていう男の人が立夏のこと呼んでるんだけど……。」
「ふぁ!?」
今のはちがう、普通に、びっくりした間抜けな声。
「赤間……?」
奏汰のつぶやく声をかき消すのは、立夏の椅子を引き立ち上がる音。
「せ、せんぱい!?どうしたんですか、って、目立っちゃってますよ……!」
周りを見渡すと、クラスのみながこちらを見つめる。それもそうだ、後輩の教室に先輩が1人なんて、目立たないわけがない。
「いやぁ、お昼ご飯は一緒に食べたいなって。ほら……。」
先輩は一息置いてこう言った。
「僕ら、付き合ってるんだし。」
その瞬間場が凍ったかと思いきや、男子のざわめきと女子の黄色い声に包まれる。
「な゛っ……!?」
奏汰は目を丸くする。そして、心の理解、いや、頭より身体が反応する。
立ち上がると、周りの机に腰をぶつけながらなにより立夏のところに行く。
「おい!誰だか知らんけど、立夏になんのようだよ!」
「……?君は、えっと……。」
「ち、ちょ、バカ奏汰っ!すいません先輩……!」
だめだ、完全に血のぼってる……!
そう思ったのもつかの間、止める間もなく奏汰は先輩のネクタイを掴んでいた。
「どこの誰だっつー話だよわかんないかなぁ?立夏の彼氏だぁ言った暁には、わかってんだろうな?」
「は、はぁ……。」
クラスはもう静まる。
立夏も、さすがに『ヤバい』と思った。
「やめてよ奏汰!なに?奏汰は逆に私の何?先輩と付き合ってるけど、なんか文句ある?!」
その大声で奏汰も我に変える。掴んでいたネクタイを、血管の浮かび上がった手から離す。
先輩は冷静に、大声あげる立夏の右手首を大きな手で包む。
「さ、行こうか。涼しい木陰を教えてあげる。」
「あっ……。」
教室には、立夏の食べかけのお弁当。その隣にはどこかもの悲しげな食べかけのお弁当。
扉の前で立ち尽くす奏汰と、静まり返る教室。
みなが10月の残暑を忘れたひととき。
「奏汰クン。一緒にお弁当、食べたいな……?」
涼しげ風は片付け忘れた季節外れの風鈴を鳴らし、教室の空気を一変させる。
四角い銀色の窓枠からのぞくさわやかな青空は、これまで起こった出来事とこれから起こる出来事をあの純白の雲の裏に隠しているような気がした。
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