三刷.ギャルとオタクと秀才と
学生が図書室を利用する目的で一番多いのはやはり勉強のためだろう。
入学からひと月余りが経ち、中間試験が近づく。
テストが近づき始めると図書館の利用者数は伸びる。
反対にテスト期間が終わると利用者数は激減し、
ひと月近く中間試験まで
仕事中ではあるが図書室を閉めるまで特にやらなくてはいけないことはないだろう。
勉強中は皆静かだ。強いて問題があるとすればカリカリとノートを取る音が耳につくことくらいだ。
図書室には親友の
玲子と総理は今日はセイジではなく学校の勉強をしているようだ。
エースは野球部の練習をサボってきているらしく入室時に「先輩来ても黙ってて」とお願いされていた。
いつものように連れ戻されるのは目に見えているのに懲りない男である。
3人組の方は、入試トップがギャルとオタクに勉強を教えているのだろうが、なかなかに
ギャルとオタクが参考書を選びに席を立つ。
二人が席を立っている間に入試トップが机の上に教科書とノート、そして、この間借りて行った参考書とを並べる。
教科ごとに色分けされた大学ノートは遠目からでも丁寧に書かれていることが窺える。
見た目からして几帳面で、真に血来ている制服には皺ひとつ見当たらない。
「ごめーん。いいの見つからなかったー」
ギャルが私語厳禁という張り紙を無視する。
「
オタクが少し遅れて参考書を片手に姿を見せる。
「うっさい! フルチン」
「フルチン言うな!」
「でもー、フルチンはフルチンでしょ?」
「
「でもー、昔からフルチンだしぃー」
「誤解しか生まないからやめて」
オタクの悲痛な叫びが響いた。
ギャルとオタクは幼馴染のようだ。だとすると入試トップも同様に古い仲なのだろう。
だからこそ勉強に付き合わされているのだ――と数日前までは思っていた。
話は4日前に
♢♢♢
普段は閑散とした図書室にも疎らではあるものの生徒たちの足が向き始めた頃―。
いち早く図書室の利用を始めたグループがあった。
入試をトップの成績で通過した秀才――
目的は言うまでもなく勉強である。
「ねぇ、あたしもいなきゃダメなの?」
「つれないなぁ。僕たちの中じゃないか」
「つまりは他人ってことでしょー?」
どうやら見た目完璧なギャル―
「勉強はしておけ、損はしないぞ」
オタクは言う。
正確には、オタクのふりをした幼馴染――古谷祥吾が言う。
「うっさい! オタクは黙ってな」
「何、上から目線で言ってくれてるんだよギャル
睨み合う二人を宥めながら席に着くように促す。
「頼むから目立つ言動は避けてくれよ」
秀才と呼ばれる男も二人の前では形無しである。
主導権はギャルとオタクが握っていた。
何せ、この2人、入試試験(国、数、英、社、理)5教科500点満点の250点で入学を果たしている。
しかも正誤は問題の奇数と偶数とで分け、寸分たがわず同じ点数。全5教科50点。
二人の最大の目標は普通の学生生活を送ること。
そんな目標を立てる人間はもうすでに普通の生徒ではないと思うのだが、あえて言及はしない。
多分、本人たちが一番よく判っているから。
「図書室で勉強とか優等生ぽーい」と
「勉強は暇潰しでやるもので真剣にやるのはなぁ」と図書室での勉強に難色を示す
二人は勉強のために時間を取ることをしたことがないらしく。初めて勉強を教えてくれと頼んだ時には盛大に疑問符を浮かべていた。
二人を専属家庭教師として勉強を始めたのは小学4年生の頃だった。
その頃の二人はまだ自分の実力を隠してはいなかった。
テストでは毎回のように100点を取り神童として名を馳せていた。
そんな二人に柳田勉は尊敬でも憧れでもなく、ただただ嫉妬心を抱いていたのであった。
理由は簡単である。
本来は勉が2人の立場にいなくてはならないからだ。
勉の家は代々医者の家系で、地元で一族を知らない人はもぐりとまで言われるほどだ。
テストは平均95点、90点以下など取ったことは無かったが、それでも二人に次ぐ三番手であることに変わりはない。
父は一番という称号が欲しいのであって高得点が欲しいわけではない。
どれだけ努力しても勉が二人に追い付くことは無かった。
ところがある日突然2人が輝きを放つのをやめた。
そして勉に言ったのである。
「勉強教えて(あげる)やるよ」と。
二人に何があったのかは判らない。
でも二人に教わる勇気も覚悟も勉にはなかった。
結局、なんで3人で勉強を始めることになったのか記憶は定かではない。
それでも結果として、成績は右肩上がりの急上昇である。
それからは周囲の反応も変わり、神童と呼ばれるようになった。
学習書など気にして選んだことは無かったのだが出版社によって傾向があるらしい。
基礎固めを目的としたもの。
応用力を身に着けさせることを目的としたもの。
発想力をつけさせようとするもの。
選び始めるとなかなか決断できない。
そこで2人に選んでもらうことにしたのだ。
思いのほか時間がかかっているな、とは思っていたのだが――
戻ってきた2人は大量の書籍を抱えていた。
「ほれ」と言って渡された学習書は2人合わせて2冊。
残りの抱えられた書籍は……。
◯◯ギャルとか◯◯オタクといった文字の躍っていた。
その他にも似たようなタイトルの書籍が並ぶ。
漫画や一般書かと思っていたら「◯◯大学出版」と言ったお堅いところから出版された専門書籍まであった。
ギャルもオタクも勉強して成るものではない気がするのだが。
あえて言うまい。
「借りてくる」と2人はカウンターへと向かう。
その様子を眺めていると、カウンターにいた図書委員が驚いた表情を見せていた。
2人は人差し指を立てて「内緒にして」とデスチャーで伝えている。
ギャルとオタクの秘密を共有する人間が3人から4人になった瞬間である。
それからしばらく雑談を続ける3人が一斉に柳田の方を見た。
ギャルが指を指しながらなにゃら話している。
カウンターの下に姿を消した図書委員が1冊の本を手にして再び姿を現す。
その本を受け取ると借りた書籍と一緒にギャルとオタクが戻ってくる。
「何か楽しそうだったな」
「そう?」
「いい子だったよ」
「はい。これ、あの子から」
そういって差し出されたのは聞いたことも無い出版社が出している参考書だった。
「医学部行きたいならこのくらいできた方がいいって」
「でも一応俺の方が入試の成績上だよね?」
実質
「ああ、大丈夫。あの子、東櫻学園の入試トップだった子だから」
「東櫻入試トップ!? ホントかよ?」
「うん間違いなよ。確認したし」
「なんで東櫻学園に受かってて
柳田自身も受験して落ちた、超が付くほどの名門校であった。
「そう言えば、
「うん。俺は次席だったらしい」
「ふーん。本気だった?」
「……割と……な」
「本気だったんだー」
悪戯っぽく微笑むギャル。
柳田勉――15歳。
世界には天才が其処ら中にいることを痛感した一日となった。
つまりあの図書委員――三つ編みメガネの文学少女も天才と呼ばれる人種なのだ。
現実に目の前が真っ暗になってしまいそうになる。
―瞬間。
図書室に似つかわしくない怒号が飛び込む。
「真田! お前何サボってんだよ!」
そのまま一人の学生が引きずられていく。
確か野球部の天才1年生エースだったか。
「勉。お前、才能とか気にしてるみたいだけど天才なんて大したことないぜ。アイツも天才って呼ばれてるし。確かにすごい奴なんだろうけどさ、あんなみっともない姿晒してるぜ? あれ目指してるとかお前どうかしてるぞ」
遠ざかる天才の姿は滑稽でああはなりたくないと思った。
「だな、あんな天才は嫌だな」
「だろ?」
満足気に
(いつも気を使わしてばかりだな……)
柳田は少しだけ素直になってみる。
「俺はお前たちみたいになりたいよ」
ギャルとオタクが同時に赤面する。
三人で訳も分からず笑っていると図書委員が眼の前に来ていて、こっ酷く注意された。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
※次話は間隔空きそうな予感。プロットが全然できてない。
次話までしばしお待ちください。
三つ編みメガネの文系女子です 小暮悠斗 @romance
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