第二章

第16話

「どうして、こうなっちゃったかなあ・・・」


俺の隣を歩く凜香がぼやく。

玲央は苦笑すると、ぽんっと彼女の肩をたたいた。


「人助けだと思って。ね、湊」


「お、おう。なんてったって、お前のおかげでクイズ研究部は登録されたんだからな」


「ってか、クイズ研究部ってなんな訳・・・栞里さんが、こんな趣味だったとは知らなかった・・・あんなに可愛いのにもったいない・・・ぶつぶつ・・・」


そりゃそうだ、俺だって驚いたわ。

だが、その彼女に俺は近づきたいと思ってしまった。

もっと近くにいて、栞里という人間を理解してみたい、そう思ってしまったところでもう、俺は末路を辿るのだろう。

しかしもう、それでもいいような気がしてならないのだ。



===


先ほどまでの出来事。


どんっっ。



効果音がしそうなまでに、強力なオーラを放ちちながら整列した俺たち五人を前に、理事長は固まった。


「な、なんだね君たちは…」


「はいっ!5人集まったんだよ校長先生~!すごいでしょ!」


栞里がほこらしげに胸を張る。

___いや、集めたのは俺なんだけど。

と思いつつ、俺は頷いた。


「これで、いいでしょうか。あのー・・・クイズ研究部兼お悩み相談部として活動させてもらっても・・・(僕は嫌ですけど)」


部長、永田栞里。

副部長、今泉星来。

平部員、川村玲央、矢野凜香、望月湊。


理事長はため息をつくと、なぜか俺を睨みつけた。


「表向きは、お悩み相談部、じゃぞ。それでよいのなら」


栞里がこくんっと満面の笑みを浮かべながら頷くと。

申請用紙には、赤いハンコがぺたりと押された。



帰り道。


「なあ、なんで理事長って、クイズ研究部をそんなに嫌うの?」


俺が純粋な疑問として言葉を発する。

それに即答したのは意外にも栞里だった。


「そりゃ決まってるわよ、理事長がクイズを苦手だからに決まってるでしょ」


「「「は!?」」」


星来を除く、他三人の声が重なった。


「そうなの・・・?へえ・・・」


凜香が怪しげなつぶやきを漏らす。


「なんだよ」


「いや、そうならホントにムカつくわあ・・・自分の都合だけで人を振り回しやがって・・・ふふ・・・」


いや、怖いわお前。

普通に怖い。

正義を掲げる彼女の逆鱗に触れてしまったようだぞ、理事長よ。

俺は理事長の無事をひそかに祈った。


「…とにかく、ほんとにありがとーございます、皆さん!助かりました!」


栞里が柄にもなくそんなことを言うので、目をぱちくりさせてしまう。

固まる俺の目の前に進み出た凜香は、にこっと栞里に笑いかけた。


「いーんです。憧れの栞里さんと一緒に部活できるとか、もう幸せです♪」


___え、そうなのお前?幸せなん?

俺の疑問符を打ち破るように、玲央のぼそっとしたつぶやきが耳に入る。


「嬉しい相手が違うだろ・・・」


それを聞いた星来さえ、にやっとした。


「…そーいうことなんだ、あのふたり」

「そーっすよ。いやぁ、モテる男は大変っすよね」

「そーね。まあ、星来には関係ない話」

「あはは、セイちゃんはクールだなあ」


何の話だ。

そして、なぜ4人は俺をチラ見しているのだ。


「勝負ですね、凜香ちゃん」

「はい、受けて立ちますよ・・・」


なんの勝負だ、俺は殺されるのか。


「さあ湊、帰ろうっ!」


やけに凜香がくっついてきたので、俺は身動きが取れなくなる。

玲央は俺の反対にくっつくと、星来と栞里に手を振った。

ここでお別れらしい。


「じゃあーねぇー、湊くーん!」


ぶんぶん手を振る栞里に一応笑い返しながら、俺は家路を辿った。




「…シオ、そんなに好意的に接したら、ばれる」

「…大丈夫だよ、セイ。別にバレてもいいし」

「…星来たちの関係も、同時にバレるかもしれない」

「…それは困るね」

「…ひとつが崩れると、その他すべてが崩れだす。この世界は脆いよ、シオ」


ふたりの会話を聞いたものは、誰もいない。


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