第15話 結局は

どうしようどうしようどうしよう__


頭の中でホイッスルが鳴りひびく。

俺のせい?俺、なんか言った?ちょっとでも力になれるかなって、そう思って話しかけただけなのに__


焦りがじんわりと熱を持って身体中を駆け巡る。

とりあえず、止めなければ__凜香はどこにいるのだろう?

いや、それより先に警察だろうか。

でも、今書き込まれたのはクラスラインだ。

既読数がどんどん上がるものの、返信は何一つ出てこない。

みんな戸惑っているのだろう_だが、ぴろん、という音が鳴った。


【マジ?楽しみぃー☆】


バスケ部員の女子だ。

それに続くように、バスケ部女子のメッセージの羅列が始まって__


目を背けたい。

背けたいのに、目が凍りついたように動かない。

これを、凜香も見ている?

凜香は、なんで自殺するなんてメッセージを_おそらくだが、バスケ部ラインに送ったのだろう。


その時、心臓が凍りつくようなメッセージが通った。



【この事、学校とか警察に言ったら承知しねーから】



息が、止まる。

クラス全体を凍りつかせておいて、そのまま。

無視しろと?

でも、この重いメッセージを打ち破って連絡する勇者は、


このクラスにはいない。


「くっそ・・・思惑道理にさせてたまるかよ・・・」


ぎりっと歯ぎしりをする。

結局春陽中心の女子部員たちは、皆の恐怖心をあおりたいだけなのだ。

このメッセージが言っている。

連絡すれば、次はお前だと。


それに答えるよう、文字化けの羅列のような悪罵のメッセージの既読が少なくなっていく。

俺もとうとうそれから目を背け、ラインを閉じた。

高速で凜香の携帯番号をタップする。

コール音が、やけにうるさく、長く聞こえる。

___頼む、でてくれ・・・!!


『…はい』


「凜香!?凜香か!?」


『うっさい。…何?』


「凜香、おまえどこにいる!?」


『…中央橋だけど』


橋だと!?

何でそんな所に__なんて、野暮なことは聞けなくて。


「今すぐ行くから!動くなよ!何もすんな!!」


ぶつっと電話を切ると、がむしゃらに走り出す。

くっそ、悔しい__。

なんでこんなことになった?

なんで俺は、あいつのことを何もわかってやれなかったんだろう。


凜香は、まだ死んだわけじゃない。

分かってはいるけれど、今にでも彼女が消えてしまう気がしてならない。


好きじゃない。

恋愛感情なんて、これっぽっちも持ったことないけど__っ、


大切な、幼馴染なんだ。



中央橋は意外と遠距離。

運動部でもない俺にとって、永遠にも等しい距離。

ぜえぜえと息が上がってくるけれど、足を止めるわけにはいかない。

その時、携帯が鳴った。


玲央からである。


『もしもし、玲央だけど』


「もしもし__っ!?ぜえ、はあ…」


『え、なんでそんな息上がってんの』


「走ってんだよ!!」


呆気にとられたような間の後に、くすりという笑声。


『やっぱね。湊はだれよりも行動が早い』


「お世辞はどうでもいいから_お前も、ライン見たわけ?」


『見たけど_あれって、マジなん?』


そうか。

冗談だと思うやつの方が多いのか_。


「残念だけど、っ、冗談じゃねえだろうな!お前にはあとでなんかしら話すことがいっぱいあんだよ!とにかく、中央橋に来てくれ…っ」


『中央橋ぃ?なんで・・・あ、ああ・・・でも、お前が向かってんなら大丈夫でしょ・・・』


「無理だから!俺じゃダメな可能性が90パーだから!お前も来い!!」


『はいはい…』


ため息とともに電話が切れる。

俺ではだめなのだ。

それだけは分かる。


中央橋の真ん中に、彼女の姿が見える。

手すりに身を預け、じっと俯いている凜香が。


「凜香!!」


「!!??」


これ以上の驚愕はないと言った表情で俺を注視した凜香は、へなへなとそこにしゃがみこんだ。


「っ、おい!?」


「なんで、来るかなあ・・・」


「はあ・・・?てかお前、こっちこい」


「は・・・?」


大急ぎで凜香を橋の手すりから引っぺがし、道路脇まで引っ張ってくる。


「ちょ、ちょっ・・・」


とりあえず今すぐ死ねるような状況から回避し、俺ははあっと息をついた。

カッコいい一言でも言いたいが、いきがすっかり上がってしまっていて何も言えない。

だが何かしら言わなくてはと思い、口を開き_


「はぁ・・・ほんとに自殺なんかするとでも思ったの?」


「・・・へっ?」


「するわけないでしょ・・・っ」


「・・・ええ・・・!?」


驚愕に見舞われ、俺は今度こそ地に這いつくばる。


「お前、冗談とか言えないヒトだと思ってたから、マジだと思ってさあああ・・・!駆けつけてきたのに」


「なによそれ。でも、まああんたが来なくちゃ死んでたかもね」


「え?」


「じょーだん」


ぷいっと顔を背ける凜香の頬は赤いような気がした。

まったく、わけがわからない。

ほんとうに、訳が分からないけれど。


「お前、、そういうやつだよな」


「はあ?」


「うーん、べつにこっちの話だけど。ってか、虐めに負けるとか凜香のキャラじゃないしな!考えてみれば!」


「いっ、意味わかんないし!あたしだって女の子だよ!?普通に傷つくよ、あんなことされちゃ・・・」


「へえ、やっぱそっか」


「でも、あたしバスケはやめたくないから」


にこっと笑って彼女はそう言って。

その笑顔は今まで見たことも無い純粋なものだった。

そしてそのまま、ぎゅうっと抱きついてくる。

普段の凜香しからぬ行動にどっと脈が上がる。


「う、うわぁ!?な、何してッ・・・」


「いいじゃん、べつに・・・!」


そう言った凜香の声は、心なしか震えていて。

ああ、こいつもやっぱり女の子なんだ、と改めて実感したりして。

息をつきながらもやっぱり俺は、このぬくもりを引き離すことができずにいる。


ドラマのワンシーンのような情景の中で、ぱしゃり、というシャッター音が鳴り響いた。


「!?」

「な、今の撮られた_」


そこには、、やはり。

カメラを構えた、


「僕が来た意味なー。一生恨むぞ、湊」


「れ、れお・・・う、うわああっ」


状況を再確認した凜香がどんっと俺を突き飛ばす。

顔を真っ赤にした彼女は俺を睨み見た。


「み、湊ぉ・・・これ、どういう・・・っ」


「す、すまん玲央!てかなんで今撮ったんだよ!?犯罪だぞ!!」


「はいはーい、ちょっとこっち来い、湊」


手を引かれるがまま耳にささやかれた言葉。


「う、うお・・・お前、なかなかの策士・・・」


「別にいいだろー。これですべてが解決しますよ」


「この黒王子め・・・だがまあサンキューと言っておこう」


座り込んできょとんとしている凜香に詰め寄る。

凜香はぎょっとした様子で半歩後ろに下がりつつも、なに、と言った。

俺はできるだけ堂々とした言動で言った。



「脅迫する、矢野凜香。クイズ研究部に入れ。言うことを聞かなければ、この写真を校内中にばら撒こう」


「はっ…!?」


「もう一度言うぞ、凜香。俺たちと一緒に、クイズ研究&お悩み相談をしていこうじゃないか!」


「はあああああ??」


これでいいのだろうか。

俺自身よく分からないが、まあとりあえず舞台は整った。

あとは栞里にすべてを報告しよう__




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