第2話 明滅

 暗闇の中、明滅を繰り返す不気味な光が見えた。

 闇夜の山を彷徨ってどのくらいの時間が経ったか、憔悴仕切った肉体が悲鳴を上げ、もはや一歩も動けぬという矢先に見た光源であるのに、喜びは湧き上がってこなかった。

 あれは、違う。

 疲弊した精神は感覚を鋭敏にするのか、光が己に利するものとは到底思えなかった。

 明滅する光は近づいて来る。

 俺は肉体に鞭打って来た道を戻った。

 意識が朦朧とし、足下もふらつく。

 本当は、一歩も動きたくないのだ。

 ぷつりと、緊張の糸が切れた。

 暖かいベッドに横たわるように自然に地面へと倒れこんだ。

 半開きの眼には、闇しか映らない。

 はずだった。

 森の光景が照らされてゆく。

 強い光が近づいて来るようだ。

 オン・・・オン・・・

 羽音が耳の近くで聞こえる。

 こいつは俺の近くにいる。

 耳が妙に熱い。

 まるでたき火をしているかのようだ。

 そして、そいつが姿を顕した。

 それは炎の蝶だった。羽が炎であり、銅は蝶そのものである。幻想だと、思った。

 蝶は俺にまとわりつくとどこかへ行ってしまった。

 再び、闇が戻って来た。

 なんだ、あれは危険ではない。

 ただの、未知の生物だ。

 そんなことより、山奥で飢餓状態で一歩も動けない自分のこの先の事・・・いや、考えるのはよそう。今は眠い。

 俺は眠りについた。

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短々編集 chocolateSphinx @chocolateSphinx

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