第一章 2俺を殺しても誰も喜ばねえぜ!?

 



「アールって実在したんだな ってか中尉とかランク高すぎねえか?姉さんより高ぇじゃん!」


 少年の何気ない一言でこの場の空気が凍り付き、息が詰まりそうなぐらい静まり返ります。


「まずいな、守秘義務に反した者が過去に居たと言うのか」

「ん、何が?」

「アールの存在の事だ」


「ま、本に書いてたからな」

「なんだ、本なら良いや。まだあんな娯楽存在するのか」

「教科書読むのも娯楽なのか?」

「コホン。」


 面接官の咳がキッカケになったのか分かりませんが、座っていた軍人が全員綺麗に揃いながら立ち上がり、敬礼をしてます。


「フィーネ・エルダ!貴様を明日よりギル・スフィア国家内部潜入及びスパイをして貰う」

「はぃ!?明日ぁぁぁぁあ!?」


 面接官の顔は本気です。この徒ならぬ空気を飲み、少年は緩急つけないで話しました。


「ギル・スフィアなんて行きたくねえよ!」

「なら龍人魔のゼロシア調査に変更……」

「やめろ、そんな国境がねえ国の調査とか俺も奴隷になるコースだわ。死ぬ方がマシな」


「冗談だ ゼロシアの調査するとしたらエリス様が同行しねえとな」

「……」

「あ?どうした?イキナリ黙り込んで」


「姉さんに行かせるな。それでも貴様は男か?黙って聞いてりゃあ姉さんを何と思ってる!?俺の嫁だぞ!!聞け。ここに居る軍人よ。姉さんがどれだけ美しいか。それは毎日寝る前に幸せを感じさせてくれ、姉さんがお風呂に入るとなれば俺は命懸けで覗きをする!バレても怒ってこない姉さんは俺にとって女神で、俺にとっての天使……いいや、それ以前に『嫁』だ!!」


 一瞬の間。不穏な空気が流れて、面接官の目が変わりました。


「ふむ、シスターコンプレックスな事は把握した。で、話を戻すがギル・スフィアの国王 龍人魔リュージンマであるルース・ギフィアの動きと軍事力を確認しギル・スフィアの軍に所属して貰う」

「ってかよ、ギル・スフィアとは不可侵条約とヒューマン協定で対等な立場だろ?敵対視する意味が分からんのだが」


「バレる心配はない エルダの知名度は絶望的

 に低い 軍には国籍を変更して寝返り兵として所属して貰う 以上!」


 面接官が如何にも解散オーラを出して、軍人達はパイプ椅子と机を片付け始めました。

 これから他の試験軍人の実技試験だな、とか昼飯先に食べようぜとか話し、少年一人座っています。


「いやいやいやいや!!可笑しいだろ!16歳で寝返り兵って、そもそも俺軍人じゃねえだろ?怪しすぎねえか?」

「それは君の『腕』を飼うよ。あ、やっぱ変更。今行ってもらう!」


「ふぁ!?せめて姉さんに会わせろ!」

「行くぞ。くれぐれも内密に願う」


 面接官が少年を担ぎ走りながら面接室を飛び出しました。他の軍人も数名着いてきている光景は異様です。



 ーーそれから約30分テミルーズに乗せられ移動しました。



「よし、エルダ中尉!ご武運を!」

「よし、じゃねえよ!!」


 ギル・スフィアとパーチェ連邦の国境付近、国境まで徒歩3分ぐらいの場所で降ろされて、竜車は颯爽と去っていきました。


「マジか、どうすんだこれ。」


 少年は服以外何も持ってません。身分を示す物も武器も無い少年は詰んでます。

 武器があったとしても状況は変わらないのですが、


「本で書いてた風景と全く一致してるな ならこの辺りに見張り兵が居るはずなのだが……」


 目と鼻の先にギル・スフィアの領土があります。薄暗くて街灯が無く、パーチェ連邦同様にドームで国が覆われていました。

 真っ黒なドームですが、ガラス張りの部分から内部が見えます。


「……ま、ヒューマンらしくな」


 そう呟き、納得のいかないまま歩くと人が歩いてくる気配を感じます。その気配は段々近付いてきますが、足音はしません。


「ーー何か困ってる?」


 振り返ると二人の少女が居ました。


 声をかけてきた少女は、高級感溢れて艶がある金色の長い髪を降ろし、透き通るような真っ白い肌、瞳は蒼く輝いた目からは存在感が感じられますが、頭には耳が千切れた痕跡が残されています。その少女は小さな赤い杖を持ってます。


 そして横にいる少女は目が黒い髪で隠れていますが、髪の隙間から眼帯を両目にしてる事が分かり、黒い色のフードを被っています、それは正に【獣教】の姿に等しく、剣を腰に装備していました。



「あ?あ、その。」


 言葉必死に探します、しかし言葉が見つかりません。

 ーーこのままじゃまずい、完全に不審者だ。


「あ、ごめんなさい……私はメラサータ・ミュカ」

「ん!?あ、あ……俺は……」


 杖の子ミュカ。彼女は有名人で少年と同じ年なのにギル・スフィアで一番力があるスフィア騎士団所属しています。

 そんな少女と鉢合わせてしまって少年の思考は止まります。本で複数回目にしていた人物だからです。


 その時でした。隣に立っていた少女が鞘から剣を抜き、


「ミュカ様を護衛する義務が私にはあります 敵対勢力と感知、只今より死滅を開始致します」

「お、おい!?待て!待ってくれ!違うんだ!ってかここパーチェ連邦の領土だし!」


 ーー少年の足元は一瞬で氷塊の壁に囲まれ凍てつくような寒さに包まれます。首元には剣先が触れる寸前まで向けられていました。


「何故逃げようとしないのですか?」

「い、いや、こ、ここ、これーー」

「なるほど、不思議な人です。普通は剣先から目を離すと斬られる或いは氷塊に囲まれてるから逃げれないと考えますが」


 ベルネの持っている武器がフォルシオンなのですが、エペやレイピアに似た切っ先をしている事を少年は気付きました。

 喉仏に突かれたら確実に命の保証はないでしょう。


「ーーどちらにせよ」


 剣を右手で持ち、左手で天使の祈りを捧げました。天使の祈りーーそれは『フリーダム』に数百年前まであった『天冥教てんめいきょう』が人を殺す際行う行動です。


「死が怖く無いのですか?最後の最後まで哀れな人です」


 しかし、少年にまだ危害を加えていません。この少年にある物を感じたからです。


「一番懺悔に思える剣技で命を頂戴致します。ラ・ブァルフール!!」


 剣が一瞬消えました。ですが、ベルネは持っています。その早すぎる剣技は『風』を創り、次第にその風は竜巻に変わりました。


 ーーあぁ、ラ・ブァルフールで死ぬのか、と少年は考えています。本で目にしていた『風』属性それも精霊解放術式を用いて行うので、凡人には使えない技です。


 少年はこのラ・ブァルフールを目の前にあまり動じませんでした。

 何故なら本能的に感じているからですーー彼女は敵ではない。

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最弱ニートで超絶シスコンですが、国家スパイやってます〜俺の能力は【察知】スキルだけです〜 ねる @catmimi

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