最後の楽園へ
卯月ふたみ
第1話 人類最後の楽園へ
世界は終末を迎えた。
比喩でもなんでもない。
正真正銘、人類は終わりを迎えたのだ。
絶滅はしていないが、近い未来地上から人間は消え去るだろう。
詳細は、もう覚えていない。
なんだったか、けっこう有名なウイルスだったと思うのだけど、それが突然変異したらしい。
そして、それに感染した人間は、生きる屍と化した。
水際作戦はどの国も失敗に終わった。
感染力は爆発的だった。
多分、文明が存続していれば、今年の流行語はパンデミックで確定だっただろう。
というわけで。
感染者は死ぬか、ゾンビとなる道しかなかった。
感染後、発症までは24時間という短時間。
それまでに、生命機能を停止させれば、生きる屍化せずに済む。
つまり、感染者は自ら死ぬか、殺されることで安らかな死を迎える事ができるのだ。
でも、それが判明した頃には半分くらいの国が壊滅していた。
時すでに遅し。
研究者も頑張ってはいたのだけど、
抗ウイルス剤が開発される前に、文明は崩壊してしまった。
親も、兄弟も、友達も、お隣さんも、有名人も、先生も、偉い人もみんな感染した。
しかし。
ほんの少し。
僅かに存在した”抗体”を持った人はゾンビ化を免れた。
神に選ばれた者――
いや、神に見捨てられた者、と言った方が正しいだろう。
生き残った人間たちが地獄を味わう事になったのは、言うまでもない。
なんたって、ゾンビは食欲旺盛だ。
何の欲求よりも、食欲が優先されている。
何でも食べる。
動物も、草も、虫もなんでも食べる。
当然、人間も食べる。
新鮮な生肉は特に人気だった。
そのため、生き残った僅かな人間の多くがゾンビに食べられ死んだ。
そして、世界中の人は一カ月で死体かゾンビになった。
こうして、人類はあっけなく終焉を迎えた。
と、まあこんな感じで、もう人類の文明が再興することは不可能となったそんな人類史のエピローグ見たいな時代――
そんな世界で俺は今、最後の楽園と呼ばれている土地へと向かっている。
噂で聞いたのだが、そこは堅牢なつくりの要塞でゾンビの侵入を許さず、中にはまだ生きた人がいて社会が存在しているのだという。
人類最後の土地。
希望の土地。
世界各国からそこへ人が集まっているらしい。
その噂が本当なのかはわからない。
たまたま出会った爺さんからもたらされた情報でしかないからだ。
もしかしたら噂に過ぎず、そんなところは存在しないのかもしれない。
本当にあったけど、すでに誰もいなくなってしまっているかもしれない。
悪意ある者の罠かもしれない。
それでも、その情報は最後の希望で、俺はその噂を頼りにするしかなかった。
向かうしかなかった。
そこにしか、希望はなかったから。
道中、仲間ができた。
彼もその噂を聞き、最後の楽園へと向かっているのだという。
どうやら、人類最後の土地の噂は広く、多くの者に届いていたようだ。
そして、目的の地に近付くにつれ、少しずつだが仲間が増えていった。
本当は……本当にあるのかもしれない。
近づくにつれて、俺はそう思うようになっていった。
気付けば5人。
共通の目的に信頼関係が芽生えるのは早かった。
道中は驚くほど長く、たどり着くまでに斃れてしまうのではないかと心をよぎったりもした。
しかし、俺達にはほかに何もなかった。
最後の楽園は、最後の希望だ。
道路に設置された案内標識を頼りにもくもくと進み続けた。
そして、ついに目的の地の近くまで来た。
あと、ひと踏ん張りだ。
あともう少しで、最後の楽園にたどり着く。
夜。
少し離れた所の空が明るい。
それは懐かしい、人工的な明かりだった。
確かにあそこには文明がある。
そう、楽園の噂は本当だったのだ。
最後のひと踏ん張りだ。
皆のやつれた顔にも、心なしか生気が戻ってきたように感じる。
俺たちは互いに見つめ合った。そして、
「ああ」
とだけ言う。
心は一つだった。
翌朝。
日が昇るのと同時に、俺たちは歩き始める。
希望を胸に。
しばらく歩くと、昨夜、光を放っていたであろう建物が見えてきた。
ゾンビの侵入を防ぐためだろう。
禍々しく、頑強で、人類の力を感じる建造物だった。
近付くほど、ゾンビの死体が増えていく。
この建物の防衛力の象徴だ。
もしかしたら、転がっているゾンビの中には、まだ動くヤツがいたのかもしれない。
でも、俺たちは目の前の希望の光に、盲目的に走った。
走る。
駆ける。
風を切る!
あと少し!
あと少しで楽園なんだ!!
あの楽園には、まだ
俺たちは半ば腐った肉体を限界まで動かし、最後の楽園へと向かっていった。
最後の楽園へ 卯月ふたみ @uduki_hutami
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