第24話 エピローグ―そして、安らかなる永久へと―

あの戦争から一年。巷では、第二次星間大戦と呼ばれる、あの戦争。僕と、シルフィは、生き残った。あれから世界、フェリシアを含めた世界は、良い方向に向かっている。「博秋。食事の準備が出来たぞえ」・・・ここは、ヴァルハラ。シルフィの故郷。「美味しい。シルフィの手料理は、いつも美味しいよ」「そうか。・・・リ―ン!汝も、父と食べるが良い!」あれから。僕達は、正式に、リ―ンを引き取った。あの悲劇を体験したこの子は、悲惨な戦争体験の語り手として、地球・フェリシアの都市を回っている。「父様。母様の料理は美味しい?」「もちろん。さ、リ―ンもお食べ」「は―い。」「良き子に育つであろうな、リ―ンは。・・・成長した姿、両母に御見せしたかった」もちろん、それは出来ない。・・・僕が居た軍が、リ―ンの母親を殺してしまったからだった。・・・僕の、償いの道は、まだまだ先が見えない。けど、シルフィと一緒なら。何だって乗り越えて来たんだ。いつか、僕も、あの戦争の悲惨さを、形に残そう。僕の得意な、研究論文で。

・・・あれから、機動強襲軍は解体され、新たに日本国防軍が発足した。もっとも、上級指揮権は、『地球・フェリシア合同平和維持騎士団』が持っているから、もう、軍の暴走は見ないで済むだろう。東郷さんは、戦犯収容所にいる。時々、手紙が来る。あの人なりの、大義。それを訴え、自分の部下達の責任を、一身に受ける覚悟だそうだ。桜会も、新たな首相の諮問機関の指示の下、解散していった。切腹した一ノ瀬先生は、一命を取り留め、今は慶應義塾大学病院に入院している。回復を待ち、新政権から、事情聴取が執り行われる予定だ。・・・かつて、軍に所属して、桜会の先兵として戦った、僕。その責任も、果たさねば成らない。二度と、地球とフェリシアが、戦争と言う愚挙に突入しない様。

憲法九条は、国民投票の結果、僅差で存続した。誰かからの押しつけではなく、日本国民自身が選び取った、憲法。守っていくのは、国民の強い意志。地球、フェリシア、二つの星の平和の為にも。

・・・まあ、桜会の一員だったと報道された、双星模型の製品は、僕的に少なからずショックを受けはした物の、模型制作の趣味と戦史執筆の実務を兼ねて購入している。・・・先日、ヴァルハラの模型店を覗くと、僕の夜天と十六夜ver.2、シルフィのシルフィリア、沙織の蒼天、フェリア陛下のシルフェリアまで、スケールモデルコーナーに並んでいた。商売も色々だと思う日々。

フェリシアの側の「闇」、アドルフ・ジークフリード卿は、大逆の罪で一度は極刑が決まったが、聖皇女フェリア陛下の、「私にも、戦禍を止められなかった責任はあります」との御言葉で、幽閉の刑が決まった。寧ろ、フェリア陛下の「嘆願」に近い願いであったと言う。そして、彼の愛娘、リニス・サリスさんが、父の世話を申し出た。・・・多分、ジークフリード卿と言う人も、悪い人では無いのだろう。恐らくは東郷さんと何処か似ていて、自身の理想、大義に、両星の民を巻き込んだ。後生からは、東郷さん、一ノ瀬先生、アカシのラッセル教主と並んで、第二次星間大戦の主要な戦犯と言われるのだろうけど。シルフィから聞く限りでは、ジークフリード卿と言う人は、元々は、愛国心溢れる元老院長だった様だ。・・・きっと、地球圏に来て、そして。シルフィから聞いた様に、彼は桜会と通じて。なにかのきっかけで、愛国心が、歪んでしまったのだろう。聖皇女フェリア陛下を危険な目に遭わせたと知って尚、僕は、彼を恨む気持ちにはなれなかった。正義、大義は人、国それぞれ。じいちゃんも、昔そう言っていた。だから、僕も彼を恨まない様にしよう。それに。僕とシルフィも、戦う事でしか、あの第二次星間大戦を止める役割を果たす事は出来なかった。それも、僕達を支援してくれた、多くの賛同者の皆の御陰だ。だから、彼のみを恨むのは、筋違いだ。・・・地球のマスコミには、ジークフリード卿の責任を追及する声が未だ多いが、時が経てば、フェリシアとの不幸な戦争も、地球の側の責任について、語られる様になるだろう。いや、僕達の世代が、そうして行かなきゃいけないんだ。

地球・フェリシアの、両星の歴史の一幕となりつつあるが、僕たちが戦ったあの悲惨な戦いは、今では第2次星間大戦と呼ばれる様になった。それにともない、フェリシア戦役は、第一次星間大戦と呼び改められた。

 「汝。今日は、地球・フェリシア合同外宇宙探査船団の出航式ぞ。見に行かぬのか」「ああ、論文の資料を整理してたら、もうそんな時間か。もちろん、見送るよ」地球・フェリシア合同外宇宙探査船団。シルフィリアⅡ、シルフェリアⅡ、アマテラス。三隻の巨大船で、外宇宙を探査するのだ。沙織は、その内の一隻、アマテラスの乗員として、今頃操縦桿を握っている筈だ。・・・沙織は、あの戦いの後、軽度の心の病が見つかり、治療を兼ねて、修道女になっていた。が、彼女が言うには、シスタ―の説教が長くて、治療どころではなかったとか。

 僕の母さんも、ヴァルハラに来ている。ここの医療技術なら、足も、心の病も。かなり、回復するらしい。それ以上に母さんが喜んでくれたのは、僕がフェリシア皇立大学に、留学した事だ。義塾で習った事を、活かせる形で。

 ・・・フェリア聖皇女のお陰でもあった。シルフィの姉上、フェリア皇女は、今、地球各国を歴訪中だ。もう二度と、あんな戦争が起きない様。各国と、友好の輪を広げておられる。 

 ヴァルハラの宇宙港に着いた。ここなら、探査船団を見送れる。それにしても。リ―ンとシルフィ、そして、彼女のお腹にいる、新しい家族。

 「シルフィ、僕は最近思うんだ」「ほう。なんじゃ?」「何何、父様?」「世界は、こんなにも輝いていたんだ。」「うむ、確かに。あの戦争を体験したからこそ、平和な世界がより一層、美しく見えるのじゃな・・・」

 「地球人類は、徐々に巣立って行く。フェリシアとの友好の力を得て。」

 「そして、安らかな永久へと。―願わくば、この平穏が、悠久に渡って続きます様に―」

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アーシアの騎士 @neutral2017

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