第23話 アーシアの騎士

―神聖フェリシア皇国、首都船ヴァルハラ―

 「閣下!首都防衛近衛騎士団に、謀反あり!」「何?」帝都は全て儂が抑えたと思ったが。・・・フェリスめ、わしにあくまでも歯向かうか・・・!!「フェリスを討て!討ち取った者は、褒美は意のままぞ!」「御意、謀反人、フェリスを討ちます」 

 これで良い。後は、我がヴァルハラが月近海に転移し、フェリアスの収束魔力砲で、ア―シアごとこの星系を討ち滅ぼす・・・!!

 「イチノセ。貴殿との密約、果たせなくなった」「どう言う事ですかな、ジークフリード卿!?」「儂の大義が、アーシアとの共存を拒んだのだ。ただ、それだけの事」「なんと・・・!日本とフェリシア皇国が共に世界を二分出来る好機であると言うに!」「無駄だ。最早、儂を止められる者はおらぬ。サクラカイにも滅んでもらう」「それは、一体・・・!」「先程、神聖フェリシア皇国元老院長アドルフ・フォン・ジークフリードの名において、アーシア各国の政府とマスコミに、貴殿と儂の密約、サクラカイの名簿リストを送った」「な・・・!」「万が一にも、儂が破れる事があっても、汝等も地獄へ連れて行く。では」そう言うと、ジークフリードは通信を切った。

 「おのれ、ジークフリードめ・・・!!この儂を、たばかりおったな!!」一ノ瀬がテレビをつけると、戦場のニュースとは別に、ジークフリードが起こした、この混乱が、桜会との密約によるものだと、報じられていた。

 「この儂が、日の本に害をなす存在となろうとはな・・・」一ノ瀬は、書斎に向かった。そして、奥座敷の日本刀を取り出すと、「日の本に・・・栄光あれっ!!」・・・切腹した・・・。「先生、大変です!マスコミ各社が・・・!?先生!!」秘書の萩善一光が駆けつけて来た。「大変だ、先生が!」次々と、一ノ瀬邸の警備員が駆けつけて来る。一光は思った。「先生を失っては、日本はフェリシアとの戦争に・・・!」その頃、宇宙では。

 戦場は、既に混沌の様相を見せていた。僕は、東郷元帥の旗艦。大和へ向かう。武蔵と、空母「飛龍」「大鳳」艦載騎の雷光、睦月、震電、流星、少数の白夜が、僕の後ろに続く。シルフィリアが、シルフィ親衛隊の「ノイエ・フェリス」と共に先行する。やはり、あの機体は早い。

 「大和へは、行かせないわ!!」「沙織!?」「任せよ!!こやつは、我が聖剣が相手を致す!」「シルフィ皇女!!貴女さえ、貴女さえ居なければ・・・!!」「憎しみに染まりし剣で、我に敵うと思うてか!!」「思うわよ!!村正、往くわよ!!」沙織の村正・・・あれか!!群雲並みの大きさだ。本来なら、僕が沙織の相手をしなきゃならない。けど、シルフィリアに追いつくには、後少し、時間が掛かる。

 「シルフィ皇女!!」「我は、皇国に弓引く身!!シルフィと呼べい!!」「なら、シルフィ!!博秋君を返しなさいよ!!彼は、私の・・・」「私の、なんじゃ!?」「・・・ッ、幼馴染なんだから!!」村正が、シルフィのエクスカリバ―と切り結ぶ。デュランダルでもう一撃。・・・受けられた。殺さない、と言うシルフィの意思が、沙織の殺意に気圧される。「沙織とやら!我を討てば、博秋が戻ると思うてか!!」「当然よ!彼は、私の幼馴染みなのよ!それを、貴女が・・・!!」「今は、その様な感情で戦って良い時分では無い!」「五月蠅い!!」シルフィリアと蒼天が、距離をとる。

 「こんな物なの!!フェリシアの力は!!」・・・追いついた!「沙織!!」「博秋君。ふうん、シルフィの危機には駆けつけるんだ。」「シルフィ、彼女の相手は僕がする!いや、僕じゃなきゃいけないんだ!君は、フェリアスへ!収束魔力砲を止めて!!」「解った。討ち死にするでないぞ、博秋!!」そう言うと、シルフィは、月の巨艦―フェリアスの下へと飛ぶ。・・・沙織は、僕が、僕こそが止めなきゃならないんだ!!・・・一方その頃。

 シルフィの眼前に、ヴォータンの巨体があった。「・・・ジークフリードか」「如何にも。皇女殿下、我が軍門に下るが良い。丁重に扱おう」「誰が・・・!貴様に等ッ!」シルフィリアの二刀流と、ヴォータンの巨剣。外見上は、ヴォータンが圧倒している様に見えるが、機動性に勝るシルフィリアは、徐々にヴォータンを追い詰めて行った。

 「くっ、殿下、やりおる・・・!ヴァルハラに参られよ!そこで全ての決着をつけようぞ」そう言うと、ジークフリードは前線を配下の騎士達に任せ、ヴァルハラへ帰艦していった。「おのれ、ジークフリード!逃すか!」「この路は、お通し致しませぬ!!」眼前に、ジークフリード配下の騎士達が集う。それをワルキューレで戦闘能力を一瞬にして奪い去ると、シルフィもヴァルハラの航路へと、進路を修正した。このまま加速すれば、木星のヴァルハラまで転移出来る。勿論、その前にフェリアスを無力化せねば。

 ヴァルハラでは、フェリス率いる首都防衛近衛騎士団が、元老院へと向かっていた。「ゼー・リッター、ルフト・リッター共、逆賊アドルフが占拠せし皇国元老院に向かっております」「各『オルデン」司令部も、我々に参加致しました」

「・・・目指すは逆賊、アドルフのみ!皆、士気を上げよ!」フェリスが剣を掲げると、他の騎士達もそれに倣う。「我がワルト・リッタ―、逆賊アドルフを討つ!!」時の声が挙がる。・・・士気は十分。アドルフが占拠せる元老院まで、今一歩!!

 フェリアスを目指すシルフィの前に、騎士達が立ち塞がる。

 「汝等、アドルフ配下の騎士達であるな?」そうシルフィが問う。「ジ―クフリ―ド卿が騎士、エリ―ゼ。参ります」そう言うと、エリ―ゼは剣を構えた。「エリ―ゼ!!汝、何故にアドルフに忠誠を誓うや!?答えよ!!」「復讐の機会をお与え下さったから。・・・これで満足ですか、皇女殿下!!」

 シルフィが戦うのを見ながら、タイミングを見計らう。・・・沙織と距離を開ける。「今です、猪口艦長!!」「了解。太陽光収束砲、照準。目標、敵旗艦、大和」「大和はやらせないわ!!」くっ、沙織・・・!!今は、僕達が戦っている場合じゃないんだ・・!!と、大和の方に動き。「少佐、退避せよ!大和が、主砲を撃つ!推定目標、フェリアス!!」「沙織、退避を!!」「うるさい、この馬鹿!!」

 「エリ―ゼ!敵の方で動きじゃ!」「そんな事で・・!」「ええい、道理の通じん奴じゃ!」シルフィリアが、エリ―ゼの騎士を抱きかかえる。・・・間に合うか!?その瞬間、巨大な閃光が、宇宙を貫いた。大和の、太陽光圧縮収束砲であった。 

 「いかん、フェリアスは・・・!?」シルフィは、フェリアスの様子を調べた。地球から目視出来る、巨大な艦体のあちこちから、蒼い焔を噴出していた。・・・あれでは、収束魔力砲は、もう使えまい・・・艦内都市「ワルキューレ」は、無事じゃろうか・・・と、下方から、猛烈な弾幕。「アドルフ・フォン・ジークフリード」の対空砲だった。「ファリエス」の無数の火砲と、聖巫女が操る艦載機のワルキューレ・システムも加わる。・・・と、すかさずエリ―ゼが斬りかかる。「殿下!私は、殿下の思い人の友に、最愛の姉マレ―ネを討たれたのです!」「それは確かに悲しかろう!しかし、あやつも!」シルフィリアが、ワルキュ―レを射出する。「あやつも、己の大義の為に戦っておる!フェリシアと地球、二つの星の闇を打ち払う為に!」

 蒼い光芒が、エリ―ゼのフェリスを包み込む。彼女の騎士は、明らかに戦闘不能であった。「我がフェリシアと・・・ア―シアの闇・・・それを、打ち払う・・・!?」「そうじゃ。あやつの友は、確かに汝の姉君を手にかけたやも知れぬ。しかし、憎しみ続けて、それで汝の姉君は天で喜ぶと思うてか!?」「殿下、後は私にお任せを。殿下は、一刻も早く、フェリアスの砲を!」「フェリエル!すまぬ!エリ―ゼを頼むぞ!」・・・戦況は、刻一刻と、混迷の度を深めていた・・・

 ―ヴァルハラ艦内、元老院長執務室―・・・エリ―ゼが敗れたか・・・む、誰ぞ。「ワルト・リッタ―が騎士、フェリス、お初にお目にかかります」「初ではない。以前、ワルト・リッタ―が任命式。貴様を騎士団長に任命したのは、この儂だ」「御記憶下さっておられたのですね。しかし。今日は!元老院長・アドルフ・ジ―クフリ―ド閣下。貴方の御身を捕縛致します」フェリスが静かに、しかし決然と述べる。

 「もう遅い。ヴァルハラは、月近海に転移する。アーシアへの照準も、今ここに定まった」「そんな・・!短距離転移では、ヴァルハラに、民に傷が!!」豪音と地響き。転移が始まった。その瞬間、ヴァルハラが、月近海に、その威容を現した。

 「あれは・・ヴァルハラではないか!と言う事は・・・フェリアスは!?」見ると、フェリアスは地球へ向け、回頭していた。「いかん!ユグドラシルよ!ワルキュ―レに力を!!」ワルキュ―レが、次々に、フェリアスに蒼い光芒を叩きつける。フェリアスの動きが止まった。戦闘機能が停止したのだ。(今度こそ、収束魔力砲は使えまい・・・後は。)

 「ヴァルハラを止める!アドルフめ、覚悟しておれ!」

 シルフィは、ヴァルハラへ飛び込んだ。・・・アドルフを討つ!!・・・・姉上、御無事であろうか!?

 その頃、ヴァルハラ艦内。「これは、種の尊厳を賭けた戦いなのだ。否、であった、か。今や。」「それは、どう言う・・・。」「かつて、フェリシアが未だそう呼ばれておらぬ頃。統一戦争の時代。当時の我が母星、後のフェリシアは、「男」が指導的立場にあった。我がジ―クフリ―ド王家もその一つ」「閣下は、かつての男中心の社会への回帰を目的に・・・?」「正しく。種の維持に、男の存在は不可欠。ア―シア人がそうであるようにな。だが、当時の我が母星は、禁忌の科学で、「女」中心の社会を築いた。望むと望まざると、結果として残ったのは、フェリシア皇家の支配。我が先祖が気づくと、母星はいつのまにか「神聖フェリシア皇国」と呼ばれる様になっておった」「それは必要だったからです・・・!フェリシア皇家の統治も、女性主体の社会も!」「確かに。あの統一戦争で、男は死に過ぎた」

 「老いたな、アドルフ。」「む・・・、始祖か」「いかにも。始祖にして聖フェリシアが騎馬、フェリシオンなり」「そして、後ろにおわすはシルフィ皇女殿下。・・・わしを捕縛するのに、随分と大仰な物だ」「アドルフよ。此度のいくさ、やはり汝が背後におったか」「如何にも。ア―シア人との戦乱は、我が星に、正しき秩序を回復する好機と考えたのでな・・・それと、我が妻サリスへの罪滅ぼしも、であった。」・・・誰も口を挟めない雰囲気。その中で、始祖が口を挟む。

「アドルフ。我も男ではあるが。我がフェリシア、汝ほど住み辛くはない。」「貴方はそうなのだろう、始祖。しかし、儂は―」「フェリア陛下をたぶらかし。我にア―シア人を討たせて。そこまでして、男中心の社会に回帰したいのか」「全ては運命であったのだ。ア―シアとの邂逅も、このいくさも!」「アドルフ。口を挟むが。姉上は、フェリアは何処や」「聖皇女か。あの女なら、今頃いくさばよ。」「何・・!?貴様!」「我が配下の騎士達の、戦意高揚の為、重騎士・シルフェリアに乗せた」「くっ・・・!始祖よ、こやつをお頼み申す!我は姉君を!」「うむ、往け、皇女よ!!」・・・待ってていて下され、フェリア・・・姉上・・・!!

 「畝傍、接近!」「CICより各艦、敵陣に畝傍、特級ステルス艦の畝傍がいる。警戒せよ」「その艦は、我が「シルフィ」で抑えます!武蔵は、大和を!!」艦隊戦が開始されて、既に三時間が過ぎようとしていた。「敵艦隊、全兵装射程圏内に捕捉。駆逐艦を先頭に、我が方の中央突破を図る模様」「ふん、常勝の東郷と言っても、実戦では消極的だな。図上演習と実戦では違うと言う事だ!この戦い、勝機は我が方に有り!」山口大将はそう言ったが、仕方がないとも思う。なんせ、敵側の元自衛官や、機動強襲軍には、フェリシアの皇女の艦隊が、僕達に参加する事等、データに無いのだろう。

 「旗艦、発砲!」「打ち方初め」第一艦隊の『扶桑』艦長は、妙に面白く無さそうな表情で下命した。無理もない。今、第一艦隊の全ての艦は、『大和』からの『艦隊射撃統制機構』の指揮下にある為だ。そうこうしている間に、三陣営の艦隊戦は、終演を迎えようとしていた・・・。

 ・・・敵陣の中に、十六夜がいた。僕の、かつての乗騎。今は、名も知らぬ操者の機体。でも、僕は。十六夜を傷つけたくない。・・・十六夜が、虎徹で切りかかる。・・草薙で、斬り返した。操縦席下方、そこから真っ二つになる。操者は・・・脱出していた。いつの間にか、沙織の姿が無い。大和の防衛に向かったのだろうか?僕も、大和に向かわなきゃ・・・!!」

 ヴァルハラを飛び出したシルフィは、第一戦隊の只中にいた。「対魔法力場、「ウィザード・イエーガー」展開!」大和、扶桑、長門が、強力な対魔力力場を形成する。・・・しかし。「我がシルフィリア、この程度で引きはせぬ!」シルフィリアには今一歩、力不足であった。

 「シルフィ!沙織を見なかった!?」「あの騎士ならば・・・」いた!沙織!「シルフィ、君は―」「我は姉上の下に向かう!!幼馴染との決着、汝がつけよ!!」・・・言われなくったって・・・!「沙織は、僕が止める!!」

 蒼天の村正と、夜天の群雲。共に、強大な力を持つ霊剣。それ故に、僅かの油断が即、死を招く。その状況の下、幼馴染の二人は斬り結んでいた。

 「沙織!もう止めるんだ!」「私は・・・君と違って!いる場所が無いの!」「どう言うことだい、沙織!?」「私は、あの自衛隊との決戦の日。・・・同胞を、日本人を!!沢山、沢山殺したの!!仕方が無いのよ!!命令だから!私には、元帥のお側しか、居場所がないから!!たとえ閣下の駒でも!狗でも!!そうするしか!私には、戦う力があるから!」「・・・・沙織。よく聴くんだ。・・・今から君を呪縛する、戦いの力。それを奪う」「奪ってよ!私の命も!!」「それは出来ない。僕は、君を殺したく無い。・・・それに、君の罪。僕の罪。フェリシア人を、沢山手にかけて来た罪。・・・償おう。僕と一緒に!!夜天!」「了解。鬼火、射出」ああ・・これで楽になれる。愛しい博秋君の手で、殺される・・・

 「貫け、鬼火!」紺の光芒が、蒼天を貫く。・・・沙織は!?「生体反応確認。藤咲沙織、生存」「やったぞ、夜天・・!」

「博秋君。私に・・、止めを刺さないの?」「当たり前だ!今日からやり直すんだ!藤咲沙織の人生を!!」「もう・・・。終わっても、」「沙織?」「もう、終わりたいの!私の人生を!藤咲沙織を!だから・・・来ないで!」沙織は、頭に銃を突きつけていた。・・・自殺する気か!?駄目だ、絶対に駄目だ!!!「私…、自決用に、この銃、持ってきたの。訓練中、1発だけ残して。立派でしょ?…えへへ、可笑しいね?なんで、こんな事になっちゃったんだろう?」(ーその笑顔を覚えてる。ー今の彼女に悪意は無く。同朋を手に掛け、罪の重みから解放されたがっている、悲しい沙織。)

 「沙織!その携帯、君の御両親の、君への愛情の証だろう!!」瞬間、沙織の、引き金にかけた手が止まる。僕は続けた。「沙織。例え君が、かつてアカシにいたって。機動強襲軍の一員として、沢山の血を流したって。・・・僕は、君が、藤咲沙織、君が!大切なんだ!!」・・・しばし沈黙。そして。・・・沙織は、笑っていた。狂気ではなく。優しい沙織の笑顔。涙が伝い落ちる。「・・・馬鹿。恋人が皇女様なんて人が、幼馴染を戦場でナンパするなんて。・・・あはは、君って、やっぱり、変。」「変でいいよ。君が生きていてくれたら。」「その言葉、シルフィ皇女にあげるわ。・・・博秋君。」「なんだい、沙織。」「・・・早く、自分の恋人を、助けに行け―!このナンパ男!朴念仁!」「わ、わかったから、物を投げないでよ・・・宇宙だと、ゴミでも致命傷になる。」「解ったら、さっさと行く!!ほらほら、愛しい皇女様が、君を待っているわよ!!」「解ったよ、沙織。・・・もう、自分を傷つけないよね?」「もちろん!せっかく命拾いしたんだもの、元気に生きるわ。・・・それが、私に出来る、精一杯の、私が殺めた人達への、手向け。・・・さあ、行きなさい、博秋君」「解った。この戦いが終わったら、また合おう!」「はいはい、君よりいい男を見つけて、自慢してやるから。・・・ああ、フェリシア人との禁断の恋、ってのもアリか。」「いやいや。それは僕としても複雑・・・」「シルフィ皇女、幸せにしなさいよ。さもないと、」「さもないと?」「皇女様を、私がナンパするわ!玉の輿よ!」・・・いろいろ言いたい事はあるけど、いつもの沙織だ。ちょっと口が悪いとこも、勝気な事も。「じゃあ、僕は行くよ。沙織。村正の力を貸して。決着を付けに行く。」「うん。気をつけてね。行ってらっしゃい」バイバイ、僕の大事な沙織。・・・シルフィと出会わなければ。僕は、君に告白していた。・・・初恋だった。

 「姉上、何処におわす・・・!!」と、眼前に超重騎士の巨体があった。その宝飾は、見まごう事無き、フェリシア皇家の紋章。始祖をあしらった、羽ばたく有角天馬の彫刻。間違いないな。この機体、アドルフが言うた「シルフェリア」か。

・・・我と、フェリアの名。その二つがついた、優雅な名。しかし、この騎士は、名に相応しく無い。禍々しい気を発し、姉上を捕らえておる。・・・姉上、今すぐお助け致す・・・!!

親衛隊のシルフィアを、ワルキューレで一網打尽にする。と、シルフェリアのワルキューレ、機体本隊の魔導砲が、我が親衛隊のノイエ・フェリス数騎を撃ち抜く。

「シルフィ。私、フェリアです。解りますか」「姉上。何故、アドルフの言葉を聞き入れたのですか!?」「此度のいくさ、止められなかったは、我が責。少しでも償う為に。私自ら、いくさばへと赴きました」「姉上が、その様な事・・・!!

「シルフィ、優しいフィ―。もう戦うのは止めて。・・・私の罪は、もはや償い切れる物ではありません。せめて、我がフェリア・リ・フェリシアが死をもって、皇国とア―シアのいくさの責を取ります」・・・それは駄目だ。フェリア、姉上。貴女が身罷られても、何一つ解決しない!

 「我も、ア―シア人を手にかけた。その罪、償う事は困難なり」「はい。ですが、貴女の罪は、私が赦しましょう」「ならば姉上、貴女の罪は、我が背負う。」「その覚悟、固いのですね?」「無論。ア―シア人を愛すればこそ、尚の事」「ならば。」「はい、陛下。」「シルフィ、貴方の罪は!私が償う!」「フェリアよ!汝が罪は!我が償う!」『フェリシアと、ア―シアの和解の為に!!!』

 博秋は、東郷を討つべく、再び大和に接近した。夜天の人工知能が、立て続けに、「敵対空砲の射程内」と警報を繰り返す。・・・どこかに隙は無いか?弾幕の嵐をかいくぐる。ふと、博秋は気づいた。

 「あの主砲・・・太陽光圧縮収束砲。あれの充電中は、弾幕が薄い・・・!!確か、さっきもそうだった!!」機会を窺う。「今だ!鬼火!!」鬼火が、大和を貫く。武蔵の太陽光収束砲が、それに続く。流石の大和も、武蔵の主砲の前に、沈黙した。・・・次々と、脱出艇が吐き出される。

 「黒巖君。良くやった物だ。私は君を、過小評価していたよ」「この力、夜天の力は、貴方に託されたものです。」「蒼い血の投与も無しに。見事だ」「蒼い血は、僕の体内に流れています。・・・シルフィの、彼女の血が。」「ほう。擬似ではなく、純粋血液か。だが、それを差し引いても、見事と言っておこう」「東郷元帥。降伏して下さい」「否。脱出中の我が部下達の安全を、私自らが確保せねばならん!!」東郷がそう言うと、大和の船体が、大きく裂けた。その中から、機動戦艦が、その姿を現す。

「「三笠」だ。あの日、君に告げた艦名。それが、この三笠と言う訳だ」「これだけの船・・・まだ戦うつもりですか!!あなたは、乗員を危険にさらしてまで!!」「私一人だ。」「え?」「統合脳波制御機構。通称、「ワンマンフリ―ト」。今、この空域の艦は、私の意志通りに動く」「な・・・そんな狂気じみた物・・・!」「黒巖君。君と私は、遠い親類なのだよ」「な・・何を?」「君の家系は、あの大東亜戦争までは、名門軍人一家だった。機動部隊の参謀だった、君の祖先。彼が、米帝のGHQによって放逐された。・・・遺されたのが、没落した君の家と言う訳だ」「いきなり、そんな話・・」「事実だ。名前に四季の名を入れる事が、その動かぬ証」

 ・・・そう言えば。僕は、博「秋」。ばあちゃんが、「春」乃。じいちゃんが、「義四季」。母さんが、「美冬子」。・・・元帥が、「春」樹。確かに。でも。だから、何だと言うんだ。

 「君の御爺様は、フェリシア人の事を御存知だった筈だ。なにせ、桜会の大幹部でいらっしゃったのだからな!!」「な、何!?」「米英との共存路線を唱えた方だった。だから、東京を追放されたのだよ。折角、没落した黒巌家の為、帝大まで登り詰め、キャリア官僚までになったと言うに!!」「それは、じいちゃんが平和を愛していたからだ!支配しか考えない桜会とは、決別する定めだったんだ!!」「平和・・・か。随分と、大衆に好まれる言葉だがな。これ程戦争を生んできた言葉も有るまい」「じゃあ、貴男は、何故戦うのですか!?もう、大勢は決したと言うのに!この空域の艦隊の火力だって、夜天なら、受け流せる!!それを一番よく知っているのは、建造に携わった貴男自身の筈だ!!」

「フェリシアの蛞蝓どもが、我が部下を撃たぬ様。私が、この空域を抑える。・・・お前達は、私に良くしてくれた。良い部下を持って、私は果報者だよ」「フェリシアとの戦争は、もう終わったんだ!誰も、貴方の部下を撃ったりしない!」

「信じぬ。君も消えるが良い」空域の艦隊から、猛烈な砲火。精神波力場で、受け流す。シルフィの蒼い血が、僕に力を与えてくれる。三笠の艦載機の月夜隊だって、今の僕には指一本触れ指せやしない。この血の力は、シルフィの蒼い血の力なんだ!!!

 「いい加減に・・・しろおっ!!鬼火!!」「了解」僕の鬼火が、艦隊と月夜を薙ぎ払う。既に乗員のいない艦。手加減は要らない。そして。「三笠、アレを落とせ!鬼火!!」鬼火の紺の光芒が、三笠を貫く。撃沈か?いや、まだだ・・!!

 「生き恥をさらす気は無い。撃ちたまえ」「だれが!」「「生きて、虜囚の辱めを受けず。」・・・皇軍時代からの伝統だ」

「生きて、罪を償う事の方が、真の戦いだ!」「そうか。では、私の罪は、どうすれば消える。答えたまえ」

 「東郷春樹!元帥、貴方の罪は!僕が償う!そして、僕自身の罪も、背負って生きていく!」「良い覚悟だ。・・しかし」東郷は、切腹しようとした。「させるかあっ!!アンタは、生きて罪を償うんだ!そして、僕も!!」「君の覚悟。確かに見極めた。・・・皇女が待っている。往きたまえ」「死ぬ気じゃないだろうな!?」「私が死ねば、部下達への責任追及を、誰が受けると言うのかね。・・・生きて、責任を取る。あの戦争の指導者達がそうであった。敢えて、生き恥をさらし、その責を全うしたのだ」「・・・じゃあ、僕は行く。シルフィの下へ」「うむ。そうしたまえ」「東郷さん。・・・僕を拾ってくれた事には感謝している。・・・それじゃ。もう合う事も無いだろうけど」「往きたまえ、皇女を待たせてはいかん」「それじゃ・・・さようなら、元帥。・・・東郷さん」「さらばだ。我が血族」

 シルフィは、戦闘が終わった月近海で、必死に博秋の姿を捜し求めた。「博秋・・・ヒロアキ!!」汝、死にたもう事なかれ。そう、創星神フェリシアに祈った。「博秋・・・あやつ、死に急いでおらぬであろうな・・・!!赦さぬぞ。我を残して死ぬ等!・・・子を、産むと約束したではないか。・・・約束を違えては、遺された我は。生きる意味等無いではないか!!」シルフィ皇女が、そう思った刹那。・・・声がする。温かい。優しげな、あの男の声。・・・どちらだ?ふと、月明かりに誘われ、上を見た。すると。そこに、夜天の勇姿があった。と言うことは。つまり。

 「シルフィ、僕だよ・・・。博秋だよ。やっと、君に合えた」「博秋・・・!!汝、我に心配ばかりかけて!!」              

「ごめんよ。沙織と元帥、手間取ったんだ」「沙織・・・、手に?」「いや。彼女は無事だ。今、フェリシアの人に助けられていた」「東郷は・・・あの男は。」「無事だよ。殺していない。・・・生きて、罪を償う。そう、沙織も、東郷さんも、言ってくれた」「そうか。大義であったな」「シルフィ。富士の同胞を、先に助けに行かず、良く戦ったね。感謝するよ。君に出会えて、僕は、地球の闇を。」「我は、皇国の闇を」『共に打ち払う事が出来た。』

  ―そうか、―シルフィは想った。彼はア―シアにとっての、『ア―シアの騎士』なのだな・・・と。

  

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