第22話 神々の黄昏
西暦二一〇七年、八月二十日。「シルフィ」艦内。「シルフィ、最近リ―ンを見かけないけど・・・あの子、どうしてる?」「健やかに日々を送っておる。なにも心配はいらぬぞえ」・・・そうか。リ―ン、元気なんだ。あの、忌まわしいウルルでの戦い。そこで保護し、シルフィが引き取った少女、リ―ン。4歳くらいだろうか?母を亡くして、辛いだろうに。あの地で虐殺を行った軍、そこに居た、当事者の僕。彼女は、ア―シア人の僕にも心を開いてくれる。・・・本当に、いい子だ。シルフィが言う通り、あの子の両母は、立派な人物だったのだろう。そう思っていたら、「・・と、危ないよ。子供?」リ―ンだった。「博秋おにいちゃん。シルフィさまは?」「さっきまで、僕と話していたけど・・・一緒に探そうか?」「ほんとう!?」「うん。シルフィは、リーンの憧れだもんね」「うん。シルフィさま、わたしをたすけてくれた。あ、おにいちゃんも、わたしをたすけてくれたもんね。うれしかった」
・・・言葉が出ない。彼女の母を殺したのは、多分アカシだ。しかし、それで僕の罪が消える訳じゃない。聞けば、この子の母は、ピンクの飛行機に撃たれたと言う。間違いなく、桜花だ。それと友軍だった僕。桜花は、シルフィの聖剣に討たれたが、僕も、その場に居たのだ。機動強襲軍の一員として。だから、僕は―
「おにいちゃん。このおはな、あげる。」・・・花?「フェリシアのおはな。あおくて、きれいでしょう?」「うん。蒼い花は、ア―シアには少ないからね。とても綺麗だ」「よかった、よろこんでもらえて。そのおはな、おまもりなの」「お守り?僕にかい?」「うん。おにいちゃんが、まいにちぶじにかえってきますように、ってフェリシアさまにおいのりしてるの」
・・・この僕に、蒼い血で穢れた僕に・・・うれしかった。「じゃあね、おにいちゃん。シルフィさまと、いっしょにおふろはいるやくそくなの」「そうかい。じゃ、頑張ってシルフィを探さないとね!」「わたしね、あの・・・」「なんだい?おにいちゃんのこと、だいすきだよ!えへへっ」そう言って、リ―ンは駆け出した。危ない、と言おうとした時には、角を曲がっていた。・・・僕のことを、大好きと。この手で蒼い血を流し続けた、この僕を。リ―ンは許そうと言うのか。・・・言葉が出ない。フェリシア人が、対話で事を成そうと言うとき、地球は2回とも、核の焔に頼った。僕の故郷に落ちた、原爆。過ちは繰り返しませんと書かれた碑文。碑文の著者は、異星人に、地球が二度も核を撃ったと知ったら、どんな気分だろう。
と、シルフィと出会う。「リ―ンとのお風呂、楽しかったかい?」「うむ。我の頭を洗ろうてくれた。良い子じゃ、リ―ンは。」「僕は、あの子にかける言葉が無いよ」「そうか。ウルルの件、リ―ンは汝を恨んではおらぬぞ?」「僕の良心の呵責が、自分を許せないんだよ。」「そうか。悩むのも生ある証。リ―ンの両母の為にも、大いに悩むがよい。それが、彼女等への、汝が今出来る、せめてもの手向けであろう」「そうだね。大いに悩むよ。」「うむ、悩め。若人よ」と、シルフィが、何か言いづらそうにしていた。
「何?シルフィ」「いや、汝。例の、擬似蒼色血液を、欲しくはないか?」「え、・・・それって、どう言う・・・」「擬似では無く。純粋のフェリシア皇族が血、汝に託そう」「それって・・・」「要らぬかえ?」「いや、君の気持ちは嬉しい。けど・・・」「気に病むな。我の血。我が騎士達の犠牲の下の、擬似血液とは違う」「・・・じゃあ。君の血、・・・少しだけ。本当に、少しだけ、貰っても良いかな」「うむ。・・少し待たれよ」そう言うと、シルフィは、宝飾が施されたナイフを取り出す。指に、少し、突き立てる。「つっ・・」シルフィの蒼い血が、流れる。「舐めよ」「・・・解った」シルフィの指先、その先に流れる蒼い血を、少しだけ舐め取る。「これで、汝の夜天、本来以上の力を示そうぞ」「・・・ありがとう、シルフィ。君は、あの擬似・・・」「アレは、忌まわしき物。これは、我が血、誰の犠牲も無い。よいな?」・・・お礼の言葉が見つからない。
「シルフィ。君の血の力、戦いを終わらせる為に使う」「うむ。我も、汝の為ならば、この程度の血、惜しくは無い」・・・・ありがとう、シルフィ。君の思いやり、決して無駄にはしない。
・・・と、端末に電文が着信した。件名は。「聖剣、光臨!!」・・この微妙なセンスは・・・彼しかいない。「シルフィ、武蔵へ向かおう。あの刀が、完成したみたいだ」「うむ、ムラクモと言ったか。あの巨剣、扱いこなす自信は如何に?」「実際に、手に取って見ないと解らないよ」そんな事を言いながら、武蔵への小型艇に乗る。格納庫から、機密格納庫へ。結構遠い。
「よく来てくれた、諸君」笹野中佐だ。「群雲の調整、先程完了した。メ―ルは見たかね?」「はい。」「それだけ?軍の人間は、ユ―モアのセンスが無い。残念。」・・・この人は、こう見えて、天才肌の技官だ。予備パ―ツも無い群雲を、ミス一つ無く組み立てたのだから。
「群雲の構造は、理解しているな?少佐」「はい。原理的には、シルフィリアのデュランダル、エクスカリバ―とほぼ同じ物と。」「うむ。その二振りの剣ほどの威力は無いが。敵には蒼天が居る」「沙織・・・蒼天が、何か?」「あの機体。この群雲と同系統の技術で組まれた、「村正」を扱う能力がある。あの機体の、近接戦闘特性と合わせると、かなり手強いぞ」「なに、いざとなれば、我が。我が聖剣で、切り伏せようぞ」「シルフィ、なるべくなら、彼女は殺さないで欲しい」「難しいな」「許せない?沙織が。」「否、その様な理由ではなく。純粋にあの騎士、手強い。ウルルで切り結んだからな、我は」「そうか・・・出来れば、僕の夜天で止めたいけど・・・」と、突然、艦内警報。「猪口だ。会敵が、予測より早まった。フェリシア艦隊、機動強襲軍艦隊、共に月軌道に展開。両者は既に、臨戦態勢にある模様だ」
「猪口艦長。会敵は明日のはずでは?」「両軍が、急接近しおった。我々と戦う前に、それぞれ自分の敵を料理する腹だろう」「博秋。往くぞ」「ああ。この戦争を、終わらせる為に!!」「闇を、薙ぎ払う為に!!」『今日を最後の戦いとする為に!!!』僕達の決意は固まった。と、笹野中佐が一言。「熱血だねえ。若いのは良い」
中佐を置いて、それぞれの船へ向かう。僕は武蔵の格納庫、シルフィは「シルフィ」へと向かう。・・・いよいよ、両星の闇との決戦だ。「シルフィ、気をつけて」「汝もな。我だけ生き延びるは嫌ぞ」「はは、その意気。・・・じゃあ。」「うむ。次に会う時は、闇を払いし後ぞ」「また言うけど。本当に気をつけて」「我にはフェリエルの下、フェリス隊がついておる。汝こそ、蒼天、沙織と、無事に決着をつけよ。殺さず、な。」「ああ。生き残ろう。そして、この戦争が終結したら。」「汝の子を産もうぞ」「僕も、君との子が見たい。その為にも、生き残る!!」「うむ!!」そして、彼女は「シルフィ」へと向かった。僕も、格納庫の夜天に搭乗する。シルフィリアは、もう準備が出来ていた。「夜天、発艦!!」「シルフィリア、発艦!!」・・・二つの騎士が、漆黒の宇宙を駆ける。向かうは、混沌の戦場。この戦争も、終わりの時が近づいていた。
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