第3話 学校の地下には地球がいる

俺、赤兎烈は今日、学園長室に呼び出されていた。何でも昨日の事で、学園長先生直々に話があるそうなんだけど……。

色々あった昨日は、まだ嘘なのではないかと思うほどだ。ただ、学園長室にいた兄ちゃんだけが、昨日の事を証明しているんだなと感じさせた。そういえば、ガイアはどうしているのだろう。

「朝から呼び出してすまなかったね」

「い、いえ。2年2組の赤兎烈です」

「知っているよ。よろしく」

学園長先生は、笑顔で答えてくれた。直接会ってみてわかった事だけど、学園長先生は、年の割に体がガッチリしているし、握手をすると、俺と同じ場所にマメがあった。

「よく練習しているね」

「あ、ありがとうございます!」

「私も昔から剣道をやっていてね。友人に2人、凄く強い奴がいるんだ。彼らとは、勝った負けたを繰り返してね。まだ決着が着いていない」

「は、はい……」

「長官、本題を」

兄ちゃんが言ってくれなければ、もっと長い話になっていた気がする。そういえば、全校集会の時も、話が長かったな……。

「あぁそうだったね。赤兎君、昨日の事なんだけど……」

「は、はい」

「昨日は、怖い思いをさせたね」

「え、い、いえ……」

兄ちゃんを見ると、兄ちゃんは笑顔で頷いてくれた。昨日の事、俺には口止めしといて、兄ちゃんはいいのかよ。すると学園長先生は、今度は俺の目線まで腰を下げて小さな声で言った。

「でも君のお陰で、ガイアが守られた。仲良くしていてくれてありがとう」

「な、なんでガイアの事まで知ってるんですか?」

驚きのあまり、少し声が大きかったかもしれない。また兄ちゃんの方を見ても、笑顔で頷いているだけだし……。

「今日はその事で君を呼んだんだ。ちなみに赤兎君、今日は友達との約束はあるかい?」

「いえ、ないです」

「ではすまないが、今日1日、時間をくれないか?もしかしたら1日では足りないかもしれないんだが、その時は追々説明しよう」

「は、はぁ……」

「よし、じゃあこっちに来てくれ!」

キョトンとした俺を尻目に、学園長先生は少し楽しそうに俺の手を引き、大きな机の近くに連れていった。

「青山君もいいかね?」

「えぇ。大丈夫ですよ」

「では行くよ赤兎君、少し揺れるから机を持っておきなさい」

俺は言われた通り机に手をついた瞬間、学園長先生の指が鳴った

パチンっ!

マジシャンがする指パッチンと同じくらい賑やかな音だったんだけど、そんな余裕はすぐになくなった。ガタンと床が急に下がり、ジェットコースターが落ちるときみたいな感覚がした。

どうやら俺達3人は、机と一緒に下に行っているようだ。

バチン!

「痛った!」

急に背中を叩かれた。犯人は1人だ。

「兄ちゃん痛い!」

「どうした、へっぴり腰じゃないか」

見ると、本当に間抜けな格好をしているから恥ずかしい。それを兄ちゃんに見られて少し悔しかった。そうだ。これは壁のないエレベーターなんだ。全然怖くない!

「そうだ、いつもの烈になった」

俺が背筋を伸ばすと、兄ちゃんが肩を組んでくれた。

「なんか今日のお前は変だなって思ってたんだよ!怒られるって思ってビビってたのか?」

「いきなり学園長室に呼ばれたら誰だって緊張するだろ……」

「まぁな!!」

がっはっはと笑う兄ちゃんの横で、学園長先生も笑っていた。

「話には聞いていたが、仲がいいんだね。確か小さい頃からの知り合いなんだって?」

「そうなんですよ。小さい頃は兄ちゃん兄ちゃんって、どこでも付いてきましてね」

「やめろよ兄ちゃん。小さい頃の話だろ!」

確かに、小さい頃は格好いい兄ちゃんに憧れて、どこにいくにも付いていっていた。

「そうかそうか。そういえば、赤兎君のお兄さんはうちの高等部にいたね」

「は、はい……」

本当の兄貴の事を言われると、ついつい不機嫌な反応をしてしまう。あぁーあ。兄ちゃんが本当の兄貴だったらなー。

「なんだ、翔と喧嘩したのか?」

「してないよ……」

「確か、今は留学中だったかな?」

「なんだ、ヤキモチか」

「違っ……!」ガタン!!

エレベーターが下に着いたようだ。

「さぁ着いたよ。ようこそ、アースベースへ!!」

目の前のドアがゆっくりと開いていく。地下とは思えないまぶしい光が溢れてきて、俺は一瞬顔を隠してしまった。理事長先生と兄ちゃんが先に降りていく。

「ちょっ、待って………!」

エレベーターを飛び出した俺は、慣れていく目をゆっくりと開けた。すると、目の前にはとても広い空間が広がっていた。

「すげぇ……」

まず目にはいったのは、真ん中にそびえ立つ透明で大きな筒だ。中には光る大きな塊が、ふわふわと浮いているだけなんだけど、なんだか不思議な力を感じた。その周りには机が円を描くようにびっしりあって、パソコンが何台置いてある。それを操作する人もいっぱいいて、みんな忙しそうに作業していた。

まるで、秘密基地みたいだった。

「烈、こっちだ」

兄ちゃんが手招きをしている。急いでいくと、ある部屋の前に着いたんだけど、ドアの横には、「技術課」と書かれていた。

「ここだ」

兄ちゃんがドアを開けると、そこは小さな部屋で、机を囲んで、たくさんの人が話し合っていた。

「赤兎さん!」

一瞬俺が呼ばれたのかと思ったけど、理事長先生は別の方向を見ていた。

「はーい!」

あれ、聞き覚えのある声がする。

「と、父さん?!」

「ん……?やぁ烈、いらっしゃい!!」

会議の中心にいたのは、俺の父さんだった。

「えっ、何で、会社は?!」

「今まで言えなかったけど、ここが父さんの職場なんだ!!」

そういえば、父さんの仕事はあんまり聞いたことがなかった。機械の設計士だっていうのは母さんから聞いたことがあるけど。

「赤兎さん。息子さんが来てくれたよ」

「朝はいつも会えないので、変な感じがしますね」

「それは、こいつの寝坊のせいでしょ?」

「青山さん酷いなぁ。まあその通りかもしれないね」

父さんは、兄ちゃんや理事長先生と仲良く話している。

「父さん」

「あ、ごめんごめん。ガイアなら向こうにいるよ」

父さんが指差した方には、もうひとつドアがあった。

「父さんも後で行くから。長官、すいませんがよろしくお願いします」

学園長先生は軽く手を挙げると、父さんが指差したドアに向かっていった。俺も兄ちゃんに連れられていくのだが、仕事をする父さんが新鮮すぎて、なんだか見入ってしまった。

ガチャリと奥の部屋に入ると、また驚いてしまった。さっきの部屋とは全然違い、今度は大きなかまぼこみたいな広い部屋だったからだ。

そこには積まれたままの大きな荷物や、よくわからない大きな機械。車を運ぶキャリアカーまである。

「烈っ!」

「ガイアっ!」

その間に見えた小さく見えた姿が俺を呼ぶと、思わず叫び返してしまった。

車椅子に乗ったガイアが一生懸命タイヤを回し、近付いてくる。俺が走っていたほうが早いじゃないか!

駆け寄る俺に、ガイアも笑顔になった。

「昨日ぶりだな烈」

「体は大丈夫なのか?」

「長年動いてなかったから、ガタがきただけだ。手入れすれば、まだ動ける」

「なんだよ、おじいさんみたいじゃん!」

「そうだな。50億年は少し長かったかもしれない……」

……聞き間違いじゃないよな?

「ガイア、もういいのかい?」

「ありがとうございます獅子神長官。だいぶ動けるようになりました」

「よかった。では赤兎君も合わせて、これからの話をしよう。赤兎君、こっちへ」

学園長先生に呼ばれ、俺は部屋の隅にあるテーブルに呼ばれた。

みんなが席について、一息いれていると、カチャカチャと音が聞こえてきた。

「落とさないように……。落とさないように……」

今にも落としそなお盆の上にはカップが4つとボトルが1つ。俺より少し年上そうな女の人が運んできた。

「お茶お持ちしました……」

「俺、持ちます!」

「ありがとう、れっくん!」

俺がお盆ごと持ってあげると、女の人はとても喜んでいた。でもそんな事より……。

「れっくん……?」

輝ちゃんにしか呼ばれたことのないあだ名で呼ばれたことに、俺は驚いた。

「あの……」

「緑川さーーーん、ちょっといいーー!」

「はーーい、今いきます!じゃあれっくん、後は頼んだよ。じゃあね!」

何だったんだろう?緑川さんって言ってたな……。会ったことないはずなのに。

「烈、どうしたんだ?」

ぼぉっとしている俺を見て、ガイアが声を掛けてくれた。

「ん?あぁなんでもない。お茶です」

「すまないね。みんな、ここ最近忙しくてね」

「まぁ仕方ないですよ長官。まだ慣れてませんし」

「またみんなでパーティーがしたいね」

「そうですね」

「さっ、赤兎君もどうぞ」

俺はお盆を持ったまま座り、目の前のカップを持った。

「それはな、俺がアフリカで育てたコーヒーなんだ。味は保証する」

確かアフリカから送ってきていた手紙に書いていた気がする。飲むと、あんまり苦くなくて、本当においしかった。

「どうだ、美味しいだろ!」

「うん、おいしい」

「よし、これでコーヒーの実飲調査完了!ガイア、その燃料はどうだ!」

「うん、純度が高くて、いい感じだ。サトウキビの甘味がよく出ている」

「よし、サトウキビ燃料もオッケー!両方とも商品化待ったなしだ。ガッハッハッハ!!」

兄ちゃんは何をやっている人なんだ?

「さて、話をしたいんだが……」

「すいません。遅れました!!」

向こうから父さんが走ってやってきて、俺の横に座った。

「一段落着いたかい?」

「はい、例の計画も順調です」

「それはよかった。さて、後は……」

「皆さん、お揃いですか?」

今度は上から声が聞こえた。見ると、さっきの広い部屋の透明な筒の中にいた光る大きな玉が浮いていた。

「アース、君が最後だよ」

「おっと、これは失礼。赤兎烈君、初めまして。私はアース。この星の守護者です」

「守護者?」

「簡単に言うと、この星そのものです」

「は、初めまして」

みんなが上を向いていたので、この声は光る玉からしているようだ。

「さぁ、これからの話をしようかな」

ティーカップを置いた学園長先生は、一旦咳払いをしたあとに、ネクタイを少し直した。

「赤兎烈君、私たちと一緒に、この地球を救ってくれないか?」

俺の日常は、まだまだ変化していく。



ーーーーーーーーーーーーーーー


大理石のテーブルの周りには、僕の他に6つの影と1つの闇が座っていた。

「アダム、ドラッグ、体の調子はどうだ?」

「はい、リガース様、僕は自らの力で回復しております。ドラッグのほうは、まだのようですが」

リガース様に働いた無礼を考えれば、当然の報いだ。

「すまなかったなドラッグ」

「い、いえ……」

右手が痙攣している。痛みか、それとも薬切れか?どちらにしても見るぶんには飽きない。

「それよりリガース様、これからの話をしましょう」

ドラッグの視線を感じた。それで睨んでいるつもりなのだろうが、それでは虫すら殺せない。

「機械人形に差し向けた人間を監視した結果、機械人形は現在、動けなくなっている可能性が高いです」

「死にはしていないだろう?」

「はい、機体の劣化によるものだと思われます」

「じャア、今カラ殺しにいこうぜ!!」

馬鹿の煩い声は、真剣な空気すらも壊す。

「それはできない」

「何でダよ!!??」

頭の機械は玩具か?

「僕らの力がまだ戻ってないからだ」

「ダガ、俺タちガ一緒に襲えバっ!!」

「協力者がいたらどうする?」

「そんナヤつ、一緒に殺しちマえバ!!」

「ここ星だとしてもか!!」

一番厄介なのはそこだった。

「僕たちがこの場所に集められたとき、地球は強大な力を使って結界を張った。外の力が干渉せず、僕らの力だけが取り残されたんだ。それでも、リガース様はここで自らの力を増大させ、50億年掛けて溜めたエネルギーでやっと結界を壊すことが出来たんだぞ?そんな強大な力に今僕たちが挑めると思うか!」

「……」

やっと黙ったようだなこの鉄屑が……。

「アダム、熱くなるな」

「失礼しましたリガース様。なので、最優先するのは、協力者の有無と僕たちの力の回復だと思われます」

わかったと小さく言ったリガース様は、そのついでにパワードを呼んだ。

「ナ、何でごザいマしょう!!」

「お前に一番槍を任せる」

「本当でごザいマすか?!」

「あぁ、向こうにお前の好きなものを用意した。好きに使え」

「有り難き幸せ!!」

「それと、お前が行くまでに何か1つ、送ることを忘れるな」

「ハっ!!!!」

子供のようにスキップするパワードは闇の中に消えていった。ようやく煩いやつが消えた。

「では、貴様らも各自、自らの力を戻すように。私の力、無駄にするなよ」

「「はっ!!」」

強きリガース様が帰ってこられた事に、僕は喜びを感じていた。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「赤兎烈君、私達と一緒に、この地球を救ってくれないか?」

「いいですよ」

私は、彼の返事をドキドキ……する前に答えは出ていた。即答だった。烈はなんでも即決で決める方だが、今回はより早かったと思う。

「そうだよな、うんうん。まだ烈には早……えぇ!!」

「何だよ兄ちゃん、そんなに驚くなよ」

青山さんは驚き、烈の父さんである健太郎さんは笑い、獅子神長官は笑顔で頷いていた。

「本当にいいのか?」

私が一番心配そうな顔をしてたと思う。

「学園長先生、1つ質問いいですか?」

「どうぞ」

「それはガイアの力になれますよね?」

「もちろん」

その質問が、私には嬉しかった。でも……。

「また昨日みたいな事が起こるかも知れないんだぞ?」

「その時は、また助けてくれよ」

それもそうなんだが……。

「恐かったんだろ?」

「だから昨日も言っただろ。友達を放ってはいけないって。俺はその言葉を曲げるつもりはないぜ」

どうやら烈は、昨日の間に何があってもいいように考えてくれていたらしい。

「よし、じゃあここから少し勉強をしよう」

「えぇっ!!」

獅子神長官の言葉に、あからさまに嫌な顔をした烈を余所目に、大人達は準備を始めていた。

ホワイトボードに厚手のファイル。ノートを烈の目の前に置いた。

「じゃあ青山さん、アース、ガイア、頼んだよ」

「わかりました!烈、寝るなよ。学園長先生も見てるぞ」

「ここまで来て勉強……」

「これから俺達の仲間になるために必要な勉強だ。さっきお前は自分からやると言ったんだから、できるよな?」

「はぁああい……」

「よし、じゃあいくぞ。なぜなに………!!」

「青山さん、それは止めておきましょう」

烈にはちょうどいいと思ったのだが、やはり色々な事情があってアースが止めることになった。

「何だよアース、やっぱりウサギさん役のほうがよかったか?」

「そういう事ではありません」

「りょーかいです……」

青山さんは1つ咳払いをすると、大きなファイルを開いた。

「えー、まず烈、問題です。地球が生まれたのは今から何年前でしょう?」

「えっと、前テレビでやってたような……。確か約46億年!」

「正解」

「やった!」

「でも不正解」

「どういう事?」

私もまずはそこからだと思った。

「この地球は、生まれてから約100億年経っています」

「倍じゃん!でも、テレビで言ってたんだよ?」

「この事実は、ここで働いている人しか知りません。そして第2問、烈は、倍ほどの差があると言いましたが、ではおよそ50億年前、地球はどんな状態だったでしょう!」

頭を抱えて烈が考えている。今の常識で考えると、星ができたばかりの頃は岩ばかりなんだが。それより前の時期があったとすると、という事だ。ヒントをあげたい。

「烈、私はさっき50億年動いてなかったと言ったな」

「え、聞き間違いかと思ったんだけど……」

「いいや、あってる。そして私は地球で生まれたロボットだ。ということは?」

さっきよりは眉間のシワが緩くなっただろうか。

「もしかして、50億年前にも人間がいた?」

「お!!ファイナルアンサー……?」

「ふぁ、ファイナルアンサー」

青山さんはファイルを見て、そして時々烈の顔を見て、笑顔になったり、残念そうな顔をして、烈の反応を楽しんでいた。

「……正解!!」

「よっしゃ!!でもどういう事?」

ここからは私が話したほうがいいかもしれない。当事者として。

「ここからは私が話そう。地球は一度滅びたんだ……」

「滅びた?どうして?」

「争いによって地球が滅茶苦茶になって、地上に生きていたほとんどの生物が失われたんだ」

そして、ここからが一番伝えたいことだった。

「そして、私がこの星を創り変えたんだ」

「ガイアが?!」

「そうだ。正確にはこの星と協力して、地球が生まれた頃に戻すことにしたんだ」

「アースさんと?」

「それが、少し違うんだ。アースは私の分身で、私が言った地球は、アテナさんという女性なんだ」

「じゃあ、アースさんはガイア?」

「私とガイアは別の人格なので一概に言えませんが、考えていることを伝えることができます。だから君の事も、色々聞かせてもらってましたよ」

「あ、だから学園長先生がガイアの事も知ってたのか。じゃあアテナさんは?」

「彼女は今、星を戻すために使った力を回復するために休んでもらっている」

「ふーん。じゃあ地球が生まれ変わった事と、地球を守る事と、どう繋がるんだ?」

烈が一生懸命理解して考えようとしてくれている。

「いい質問だ。そこで昨日私や烈を襲ってきた人に繋がるんだ」

「あの人は結局なんだったの?」

「あの人は操られていた」

「誰に?」

「50億年前の人間に」

嘘だー。という顔をして私を見てくるが、本当の事だから私は頷く事しかできない。

「昨日襲われる少し前。近くの商店街に少年が1人現れた。少年は、襲ってきた男性と少し話し、そのまま別れている。おそらくその少年が50億年前の人間だろう」

「何でその人が怪しいってわかるんだよ?」

「彼が来た場所が問題なんだ。すいません青山さん。資料を」

青山さんは分厚いファイルから写真を何枚か取り出し机に置いた。

「なんだこりゃ?」

「それは太平洋に浮かぶ小さな島、私達はロストアイランドと呼んでいる」

「こんな島、聞いたことないぞ?」

「これも普通の人は知らない。実はこの島は、私が地球を創り変えた時に、戻ることを拒否した魂達を集めた場所なんだ」

「せっかくガイアが元に戻そうとしたのに、なんで?」

「……色々な考え方があるからな」

少しはぐらかした言い方になってしまった。島に残った魂達からすれば、もっと過激な言葉で説明できたのだろうが、私はそんなつもりでこの星を創り変えたわけではないので、こんな言い方になってしまった。

「この写真に同じ少年が写っている」

少年の写る写真を渡すと、烈は目を細めて見ていた。人工衛星からの写真なので解像度も低い。

「これ、人間なのか?」

「それを含めて、まだまだ何もわかっていないんだ」

「なるほど。じゃあとりあえず、この人と戦えばいいんだな!」

「簡単に言えばそういうことなんだが……。烈、1つ覚えておいて欲しいことがあるんだ」

これは私がロストアイランドを作った時から、ずっと胸に思っていることである。

「彼らは昔の人類を思ってあの島に残っている。しかし、私は以前の人類では駄目だと思うんだ。今の地球はとてもいい場所になったし、彼等にもこの世界で暮らして欲しい。だから私は彼等を救いたいと思っているんだ」

「襲われたのに?」

「それが私の願いであり、役割だと思っている」

「………わかった。じゃあ俺もこの島の人が今の世界で楽しく暮らせるように頑張るぜ」

烈がじっくり考えて答えを出してくれた事に、私は嬉しさを感じた。

「よし、じゃあ予備知識はそれくらいにして、ここの説明でもしようかな」

青山さんは、分厚いファイルを閉じると、ホワイトボードを裏返した。

「アースベースの成り立ち?」

そこには大きな時で、「アースベースの成り立ち」と色鮮やかなペンで書いてあった。

「そうだ。地球の真実を知った後は、どうやってそれを守るかを勉強する。そのためにはこの組織の成り立ちを知ってほしい」

「そもそもここは何?学校の地下っていうのはわかるんだけど……」

「ここはアースベース。ガイアとアースの手伝いをする機関だ。作ったのは、我らが獅子神皇一郎長官。学校経営の傍ら、地球の平和を守っているんだ」

「私は座っているだけなんだけどね」

謙遜しているが、獅子神長官は私とアースにとって、なくてはならない存在だ。ロストアイランドの動きを知るためには、ある程度の設備と労働力が必要だった。アースの声が聞こえた獅子神長官は、烈と同じように即決。30年かけて準備をしてきてもらったのだ。

「この機関の役割は、さっき見たロストアイランドの監視、だった」

「だったって、これからどうなるんだよ?」

「あの島が動き出した今、俺たちの仕事はあの島の魂達を全て救う日まで、ガイアのサポートを全力ですることになった。ガイアを助ける事は、俺たちの地球を守ることにも繋がるからな。もちろん、ガイアのパートナーであるお前の事もサポートする!」

力強い言葉に、私もアースも本当に頼れる仲間を持ったと確認できた。

「兄ちゃんは何してくれるの?」

「俺か?俺は昨日お前も見た仲間達を連れて、一般市民の避難や、お前の安全確保を行う。ちなみに輝子もアースベースの職員だから、何かあったら相談しろ」

「父さんは?」

「父さんは、ガイアが戦う時の道具を設計してる。これでも技術課の課長なんだよ」

胸を張る健太郎さんは、息子に自分の仕事をやっと言えて自慢気だ。

「……そういえば、俺は?」

「それは追々な。まあこれからもガイアと仲良く生活してくれとしか言えないな」

そう、私としては、烈の力が一番大切になってくると思う。今の地球で、純粋な勇気を持ち、本当の平和を願える少年。私の力を何倍にもしてくれる存在だと思うからだ。

「わかった。でも、じゃあまたガイアはあの祠に住むのか?また狙われるかもしれないのに?」

それは避けたほうがいいと私も思う。だが、それだと烈との交流が今までよりも減ってしまう。

「そこからは父さんの仕事だね。色々考えたんだけど、やっぱりこの方法がいいんじゃないかと思ってね。ガイアも聞いてくれるかい?」

健太郎さんはポケットの中から緑色の何かを取り出した。一見スマートフォンに見えるが、なんとも重厚で、色々な装飾を施してあるものだ。

「スマホ?」

「見た目はね。実はこれとガイアの意識を共有させようって思ってるんだ」

「私の意識を?」

「そう、このスマートフォンにガイアの意識を入れることで、烈と離れなくていいし、私達からの連絡もスムーズに行える。それに、君も体の手当てに集中できる……」

確かに、それならばいいことばかりだ。

「それで、なんだが……。ガイア、君の体の手当てを私達にも手伝わせてもらえないだろうか?」

私の記憶の、ある出来事が私の判断を少し遅らせた。

「だ、駄目ならいいんだ!本当に!絶対に触らないし、君の為の個室も用意する。機材も言ってくれれば渡す!」

アースベースの人達には、私が経験したことをアースが全て伝えてくれている。健太郎さんもそれを知っている筈だが、それでも私に問いかけてくれたからには、私も答えなければならない。

「1つ、確認したいことがあります。何故手伝うんですか?」

冷たい言葉だと自分でもわかる。でも……。

「私の技術を見て、何がしたいんですか?」

「ガイア?」

烈も私の言葉の不自然さに気付いたようだ。すまない烈。しかし、これは絶対に、確認しておかなければならないんだ。

「私の体は、地球が滅んだ時の技術です。私が生まれたことで、変化したことのほうが多いくらいです。健太郎さんは、それをわかっていますよね?」

「わかっている……つもりだ。私も技術者だから、昔の人の気持ちはわかる……だ、だが!!私は技術を利益や野望のために使いたくはない。誰かが笑って、誰かが泣くような技術は、本当の進歩ではない。本当の技術は、みんなで一歩進めるものだから。綺麗事みたいに聞こえるだろうけど、私は、今のみんなが笑える技術を未来に残して、それが未来の人も笑顔にできるものになればいいと思っているだけなんだ!」

博士は言っていた。私は人間と友達になれる純粋な命だと。私が困った時は助けてくれ、人間が困った時は、私が力を貸す。お互いに助け合う事で未来を創れるのだと。

長い時の中で考えたことだが、技術を伝える事は重要だ。生活が潤うから。しかし、伝える側も、使う側も、間違ってはいけない。技術は、神にも悪魔にもなるからだ。ついでに言うと、悪魔にはなるが、神になることはない。間違って悪魔にした場合、その技術はもう使えない。危険だからだ。だから伝える側も、使う側も、神になるように願わなければならない。なることのない神を祈って、後世に伝えていかなければならないんだ。

私の技術が、今度は神のまま、永遠に残っていってくれることを願う。

「わかりました。では何人か私の手伝いをしていただきたいです」

「い、いいのかい?」

「ええ。健太郎さんは烈の父親ですから。烈を見ればどんな方かわかります。その健太郎さんが選んだ技術課の方も信用できます。疑ってすいません」

「いや、信じてもらえて嬉しいよ。絶対にこの星のために使うよ」

「ありがとうございます。では、そのスマホに意識を共有する方法を教えてもらってもいいですか?」

私が今の人類を信用しないということは、私が地球を創り変えた事が、自己満足になってしまう。私は今の人間とともに、未来を作る。そして過去に囚われた魂達を、未来に送らなければならないんだ。

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