創星の勇者グライガイア-兄弟の絆と博士の愛した地球-

旋風寺悠希

第1話 星を創った勇者

「博士……」

僕は、灰色の大地を歩いていた。

ここは何処なんだろう……。間違っていなければ、地球だ。壊れた僕の家から歩いてきたけど、何もなかった。山も、海も、町も、何もかも……。

動物もいなかった。人間は、少しだけ……。

何が起こったんだろう?

最後に見た景色から、何日……いや何年過ぎたんだろう。

『じゃあな、みんな……』

最後の記憶は悲しかった。僕が生まれてから、幸せな事はいっぱいあったけど、あんなに辛い事があるなんて思ってもみなかった。

「博士……」

今僕は、何を探しているんだろう?

博士、を探している……のかもしれない。

「博士はもう、いな……」

言っては駄目だ!言ったら本当になってしまう……。思うだけ……思うだけ。

「うっ……、うぅ……」

心が苦しくなる。何かが下の方から込み上げてくる。我慢。我慢。

僕はゆっくり歩く。どこまでも灰色の大地を踏みしめて。そうしてると、いつの間にか視線が下になっていく。駄目だ駄目だ。上を向いて……っ!!!

「あっ……!」

僕は転けてしまった。痛かった。

「我慢。我慢……が……」

あれ、雨か……。雨がポタリと僕の目に落ちてきた。ポタリ、ポタリ、ポタポタポタ………。


「……あ、あぁあああ!!!は…がぜぇえええ!!!」


僕の我慢が、限界を超えた。

「何で!!何で!!一人でいなくなっちゃったの!?僕言ったよね!一緒に逃げようって!!逃げれば良かったんだよ!僕達兄弟の力があれば、博士はもっと、モット生きられたんだぁあああああああああ!!」

博士によると、僕の力はこの星を救えるものらしい。詳しくは知らないけど、いざって時に使えるらしい。

「何で、何で一緒に連れていってくれなかったの!!!機械だって、死んだら天国に行けるんだ!行けなくたって、僕は絶対に博士を一人にしない!!」

僕は、博士が創ってくれたロボット。心を持つロボット。楽しい事、嬉しい事、怒った事、悲しい事、思いやること、労ること、心配する事、慰めること。全部、全部博士に教わったんだ。

「これからどうしたらいいの!!弟達はまだ起きてない。起こしたらいいの!?でも、起こしたら、僕と同じ気持ちになっちゃう……」

僕の下には五人の弟がいる。みんなとてもいい子で、みんな博士が、大好きだった。

「どうしたら……どうしたら……」

僕は未来が見えなかった。こんなときの為に生まれたのに。全然わからないから、悲しむしかできなかった。

『君か?結城が言っていたロボットは……』

「誰?!」

突然の声に、周りを見ても誰もいない。心の中に直接聞こえてくるみたいだった。

『泣いているじゃないか。本当にこのロボットか?』

「誰……。い、今博士の名前をっ!!」

『少し聞くよ。君は地球で生まれたロボットかい』

「えっ?は、はい」

『そうか。次、君には五人の弟がいる』

「はい」

『君を作ったのは、結城健太郎だ』

「は、博士を知っているんですか!」

『質問の答えは?』

「は、はい!」

『君のようだね……』

頭の中で何かブツブツ言っている。

「博士は、今どこにいるの!!」

『彼は私の中にいた』

僕の中から聞こえてくるのに、そのさらに中っていうことかな?

『私の名はブレイブ。この宇宙を構成する力の一つで、その一部だ』

何を言っているの?意味がわからないよ。

『私を理解するな、感じろ。ドント、ティンク、フィ~~ル』

心の中も読めるんだ……。少しクセもある

『私はこの宇宙で、力を集めている。力と言っても、野蛮な武器やくだらない権力じゃないぞ』

「じゃあ何を?」

『何かに立ち向かう力、弱いものを助けられる力、そして、自分を変えたいと思う強い力を私は集めている』

それって……。

「勇気?」

『それそれ、わかってるじゃないか。やはり結城が言っていた事は間違ってなかったのか』

博士がいつも言っていたことだ。

『私がこの星に近づいた時、声を聞いたんだ。“この星に残る6人の勇者に力を貸してください!彼等は、この宇宙を幸せにできる勇気を持っています!”と』

「それが博士だった……。それで……?」

『私は、結城の力の一部を取り込み、話を聞いた。そしてここにいた君に会いに来た』

「博士は何処に行ったんですか?」

『それは、わからない。一緒にブレイブの一部にならないかと誘ったが、断って何処かにいってしまったんだ。まあ、あいつは何もしなくてもブレイブになれるだろう』

「そうですか……」

やっぱり博士は……もういないんだ

『おっと、結城からの伝言を忘れていた。いつの日か必ず地球に戻るから、それまで頼むだと』

「えっ?ど、どういう事ですか!?」

はぁ……、とため息が聞こえた。

『そのままだよ。体がないから意識だけで旅をしているんだろう。まあ私と同化した頃は、もう地球も危なかったから、宇宙に何か探しに行ったのかもしれないな』

理解が追い付かないどころか、さっぱりわからない。

『だから、感じろと言っているだろう。フィ~~ル!!』

感じる、か。そういえば博士は僕達に、いつもこう尋ねてきたな……。

どう感じた?

それは心で考えるということらしい。頭で考えるとイエスかノーだけど、心で考えると言葉では表せず、体が動くらしい。感情はそういうものから生まれるらしい。

『まあ人間でも、私の声を聞けば同じような反応をとるだろう。心配するな』

ブレイブさんは、得意気に鼻を鳴らした。

「あ、あの……」

『どうした?腹でも痛いのか?』

「いえ……。あの、さっきブレイブさんは、僕に会いに来たと言ってたんですけど」

『ん?あぁ、そうそう。目的を忘れていた。君、地球を救うつもりはないかい?』

「地球を、救う?」

『この何もない星を、結城がいた頃に戻すということだ』

「そんなこと、できるんですか!?」

『できるぞ!』

縄跳びの二重飛びくらい簡単そうに言った。

『私はこの宇宙の一部だ。宇宙の法則に対して、私の力を強くすれば、それは現実になる』

それって、すごく難しいし、すごい事なんじゃないのかな。

「ちなみに、どうやって救うんですか?」

『君に、地球と話せる力をあげよう』

「それだけ?もっとすごい力で助けてくれるんじゃないんですか?」

『いや、それだと君に会いに来た意味がわからないじゃないか……』

「そっか……」

ブレイブさんは、一度咳払いをして、また話始めた。

『私の目的は、さっきも言ったが勇気を集めること。勇気は心から生まれるもので、周りに放出する力なんだ。私はそれを、少しだけ貰いながら旅をしているんだ。でも考えてくれ。小さな勇気から貰えるそれは、雀の涙程度だろう?だから私は、できるだけ大きな事をしてくれそうな者を探して手伝い、その勇気をもらうようにしているんだ』

なんとも、コウリツテキなブレイブさんだ。

「じゃあ、今回は僕?」

『そう。結城が言うには、兄弟の中だと君が一番勇気を持っているらしいじゃないか』

「あんまり意識したことはないです……」

『それはそうだ。勇気があるぞ~という者のそれは、勇気じゃなく自信だ。勇気はもっと心の奥で感じるものなんだ』

「僕が地球と話して、どうすればいいんですか?」

『それは二人で考えてくれ』

「そんな……」

『どうした、できないのか?』

「だって、こんな何もない土地で、ボロボロの地球と僕が力を合わせて、何ができるの?木を植えたってすぐに枯れるし、生き物だって、絶滅しちゃったんだよ?一度消えた命は戻ってこないんだよ?」

そうだ。何もないこの星で、どう足掻いたってもう、何もできない。

『はぁ~~~~~~~~~~~~~~~』

すごい長いため息だった。

『なんだ、こんなもんか……』

えっ?

『私の中であんなに必死に熱弁してたから来てやったのに、期待はずれもいいとこだったな。ただのエラーでフリーズした機械じゃないか』

心に何かがズキッと刺さるのを感じた。

『機械に心が宿ってるってのは、やっぱり嘘だったんだな。文章表現が達者な分、“ノー”がよりうるさく感じる』

ふと、昔の事を思い出した。僕が目覚めた頃、博士は嘘つきと呼ばれた時期があった。機械に心が宿るはずはない。それはインプットされた情報なんだって。博士は泣いてた。僕はまだ、よくわからなくて何もできなかったけど、心が痛かったことは覚えている。

『こんなもののために、滅びたのか地球は?くだらないな。結城も大したことなかったんだな』

「やめろ!!」

咄嗟に大きな声が出てしまった。

「博士を馬鹿にするな!ぼ、僕は本当に心を持ってる!!」

『何が?言い訳ばかりで、なにもしない工場で突っ立ってる作業用ロボットだろ?』

「僕は、自分で考えて動くことができる!!」

『ほぉ。じゃあ証拠を見せてくれ』

「……」

『ん、どうした?どうやって証明するんだ』

「さ、さっきの地球と話せる力。僕にください!僕の心から出た勇気をあなたにあげれば、僕に心がある証拠になるはずだ!」

『でもさっき、できないといったじゃないか?』

「できる!僕は、僕は……!博士が生み出した新しい命なんだから!!」

その瞬間、僕の体が輝きだした。緑色の綺麗な光が、溢れてくる。

『やっとか。思ったより長かったぞ結城よ』

「えっ?」

『少しカマをかけさせてもらったよ。グズったら発破をかけてくれって、結城から頼まれたんだ。許してくれ』

「僕は……」

『力は渡した。これで地球と話せる。後は自分で考えろ』

「ブレイブさん、ごめんなさい。そして、ありがとうございます。僕、頑張ります!」

『お礼は勇気でしか受け取れないんだ。頑張って励んでくれ』

僕の中のブレイブさんが段々遠くなるのを感じた。

『見ろ、あそこに座っているのが地球だ』

僕の視線の先、小さな岩に座る女性がいた。緑の長い髪に、ふわりとした服を着ている。

『結城は必ず帰ってくる。何年先か、何百、何千、何億年かもしれない。だが、彼は帰ってくる。信じて待っているんだな』

「はいっ!」

『では、私はもう行く。だが忘れるな。私はいつもそばにいる。苦しいときにもだ。勇気が心から生まれる時、私はそれを回収に行くから、その時に願うがいい。その状況を打破できる力を。私の出来る限りの力を授けよう』

「ありがとうございます!」

『さらばだ。地球の勇者よ……』

ブレイブさんの気配が消えた。僕はまた一人になった。でももう寂しくない。この力で、僕は、また、博士と暮らせる地球を創ってみせるんだ!

僕は一歩踏み出した。

「こんにちは」

僕は岩に座る女性に話しかけた。だが、返事がない。

「あの……?」

見ると、女性の肩が、小さく上下に動いている。すすり泣く声も聞こえてきた。

そうだよね。こんなにボロボロになった地球を見たら、泣くしかないよね。僕もそうだったように。でももう違うよ。

「初めまして地球さん」

「ひゃいっ!!」

僕が肩を叩くと、女性の体が一瞬、飛び上がった。そして、恐る恐る振り返った。

「あなたは……」

ぼ……“僕”は違うな。

「私はガイア。あなたを救いにきました!」

女性の目は、真っ赤だった。色白の肌が、もったいないくらい赤く染まっていて、一緒に擦ったであろう髪が、所々ぴったりと張り付いていた。

「結城健太郎さんが作った、心を持つロボットでしたでしょうか……?」

そうか、地球さんは僕の存在を知っているんだ。当たり前だよね。自分の体なんだもん。

「はい!あのっ……!!」

次の瞬間、僕は地球さんに抱き締められていた。

「どうしましょう!!地球が!地球が!私は何もできなかった!どうすれば!どうすればいいんでしょう!」

地球さんは混乱しているようだった。僕と同じだ。

「それを話し合いにきました。この星を、また緑いっぱいに戻すためにっ!」

「でも、どうしたらいいのかわからないんです!私も、もう力が残っていないんです……」

そうして、地球さんは、大声をだして泣き始めた。一人で不安だったんだろう。僕と一緒だ。

ふと、僕の肩で泣く地球さんを見て、博士が言っていたことを思い出した

『女性が泣いているときは、待つように』

僕は、地球さんが落ち着くまで見守った。

「……地球さん、落ち着きましたか?」

10分は泣いていただろうか。僕はその間、ずっと地球さんの体を支えていた。

「……。はい、ごめんなさい……ありがとうございます」

そうして地球さんは、また小さな岩にちょこんと座った。

「じゃあ改めて、私の名前はガイア。あなたを救いにきました」

「私の名前はアテナ。地球を守護しているものです」

アテナさんというのか……。

それから僕達は、長い長い時間の中で、ゆっくりゆっくり考えて話し合った。そして、この地球を創り直すことに決めたんだ………。


ーーーーーーーーーーー


あれから、何年経っただろう。私とアテナさんの努力のかいもあって、この星も大分、以前の姿に戻ってきている。少し森の面積は広くなったが、このくらいが丁度いい。生き物も順調に進化を重ね、人間が生まれ、技術も発展した。

そして、私は今小さな祠の中にいる。

経緯を話すと、ちょっとした理由で、あまり動けなくなった私は、体の劣化を防ぐために、表面に膜を作り、錆を作った。お陰で綺麗なグリーンだった私の体は、茶色くなってしまったわけなんだが、仕方ない。この体は博士が創ってくれた宝物なんだから。

そして私は山の奥にある洞窟の、奥の奥の奥に身を隠すことにした。生き物に悪戯されても困るからだ。やっと落ち着いた私は、そこで胡座をかき、腕を膝の上に置き、動かなくなったのだ。ちなみに意識はある。

そうだな……。200年前くらいのことだったかな。偶然探検をしていた人間に見つかってしまったんだ。私を一目見た人間は、すぐに拝み始めた。そういえば、今の私はそんな格好をしていたなと気付いた時には、私は太陽の下にいた。そして、私を見つけた人間が住職を務める寺社にやって来たのだ。小さな祠を作ってもらい、そこで手入れもされながら、現在まで過ごした。

さて、季節は春になっていた。気温は日に日に上がり、生き物たちも動き出していた。風が吹くと花や緑がさらさら揺れた。静かだが、活動的なこの季節が、私は好きだ。

ボォオオオン!!

お、時間だぞ。今日は1回で起きられるだろうか?いや、休み明けだから難しいか。

ボォオオオン!

やっぱり……。この音はある少年を起こすためだけに鳴っているものだ。最初は母親の声だったのだが、少年の睡魔が強力になったのか、それがフライパンになり、太鼓になり、色々試した結果、現在の鐘に落ち着いたのである。

今頃はボサボサの髪をわずかに揺らしながら、歯を磨いている頃だろう……。

「いってきまーーす!!」

何っ!?早すぎる……。ど、どうやって準備をしたんだ?!

ざっざっざと近付く足音は、いつもより軽いように感じた。

「おはようガイア!」

「おはよう烈」

彼の名前は赤兎烈。中学二年生の元気な男子だ。

「今日から2年生だぜ!」

風が吹き、彼の真っ赤な髪の毛を撫でると、ほんのり温度が高くなったように感じた。私を見つめる紅い瞳も、笑ったときの笑顔も、突き出したピースサインも、彼が元気に成長している証拠なんだろうと私は最近思う。

「あぁ、成長したな」

「本当か?!何センチくらい!!」

少し小さな背丈を彼は気にしていた。何でもクラスの女子に、いつもからかわれるかららしい。

「見たところ0.2センチくらいかな」

「それは伸びてる内に入らないんだよ~」

「私はそもそも身長の話はしていない。君の心が成長したと言いたかったんだ。今日はあんなに早く準備してたじゃないか。鐘が鳴る前に起きていたんじゃないか?」

「ん?いやいや。あれは昨日寝る前に制服を着てただけ……」

少し嬉しく思った私が悪かった。

「新学期の最初から遅れる訳にはいかないだろ?」

「確かにそうだが、もう少し違う方法がなかったのか?」

「うーーん。ないな!」

直球な性格も彼らしさなのだ。

「了解した。それよりもいいのか?折角早く準備したのに、こんなところで話していて?」

「やっべぇ、本当だ!じゃあガイア、行ってくるぜ!」

「あぁ。気をつけてな」

背中を押すような春風が吹くと、彼の体は飛んで行くように走りだしていた。急な突風に、桜の花も揺れる。もう少しだけ、せめてもう2週間ほどもって欲しいと思う私もいた。

さて、いつもはここで彼の帰りを待つだけなんだが、少しだけ、追いかけてみよう。私は意識の旅を始めた。

私が住む町の名は龍神町。日本の小さな町だ。小さいとは言っても、特に不便なこともなく、大企業の本社がある事から、普通以上に発展していた。

さて、どこまで行ったかな?

速いな……。彼の足があれば、時の流れもあっという間に過ぎそうだ。後は事故にだけ気をつけてくれればいい。

彼と会ったのは、彼が生まれてすぐの頃。親に連れられた彼は、元気に泣いていた。元気に育ってくださいと願いに来たが、その心配はいらないと思ったほどだ。それからは節目ごとに彼の成長を見てきたのだが、昨年の事だ。独り言のつもりで言った言葉が、彼に届いたのだ。

互いに驚いたのは言うまでもなく。それでもすぐに仲良くなれたのは、彼の明るく、正直な性格が得体の知れない私を理解してくれたからだった。

よし、学校に着いたな。確か今日は始業式だけだから、昼過ぎには帰ってくるな。ゆっくり待つとしよう。

……この星も、だいぶ元の姿に戻りつつある。烈のような少年が、地球にたくさんいれば、前のようなことは絶対に起こらないだろう。

このまま……。このままずっと平和な世界でありますように……。

パァアン!!!!!

何かが砕ける音がした。そして、それを知らせるようなサイレンの音と通信が聞こえてきた。

「ガイア!!」

「どうしたアース、何があった?!」

「結界が破られた!!」

結界。とある場所を監視するために、私とアテナさんが張ったものだ。

「何があった?!」

「わからない。今調査している。なにか解れば連絡する」

「わかった。よろしく頼む」

私は、不安になりながらも、一旦通信を切った。

とある場所を封印するための結界は、アテナさんが休眠状態になるくらいの力で作ったものだ。そう易々と壊れるものではない。

とうとう動き始めてしまった。あのまま動かなければいいと願ってはいたが、やはり抑える事ができなかったか。

しかし、私も準備はしてきた。後は、烈が力を貸してくれるかどうかにかかっている。

烈は、この地球に起こった事も、素直に受け入れてくれるだろうか?


ーーーーーーーーーーーーー


サイレンがけたたましく鳴り響いている。私の周りの人達は慌ただしく動き、みんなで情報を交換していく。私もガイアに連絡をしたのだが、何せ動けない身なので、これ以上出来ることはないく、申し訳なく見守るしかできない。

私の名前はアース。地球の2代目守護者だ。色々あって、地球が生まれ変わってから現在まで、ここで星を見守っている。この部屋の中央が私の席だ。周りには円を描くように机が並び、パソコンや色々な計器類、書類などが、置き場もないくらい散らばっていた。そんな機器を忙しそうに操作するのは、私の活動に賛同し、協力してくれている人達だ。

彼らが、忙しくしているのは理由。

それは、つい30分前。私のセンサーが凄まじい衝撃を探知したからだった。例えるなら、直径約10kmの隕石同士がぶつかったくらいの衝撃だ。

……分かりにくかっただろうか?

とても大きな力がぶつかって、ほんの少しだけ小さなほうが壊れた。そんな感じだ。

大きな力が振るわれたのは、太平洋に浮かぶ小さな島。私たちは、その島が生まれた理由から「ロストアイランド」と呼んでいる。

島と言っても、その姿は自然に全く溶け込んでいなかった。灰色一色の島は、ゴムのようなもので覆われ、草木一本、石すら存在しない。

大きなモニターに映る姿からわかる最低限の情報。長年の調査でそこまでしかわからなかったのだ。全くもってわからない。

「状況はどうなっている」

私の正面に座る初老の男性が聞いた。彼は、私の初めての友人で、この組織を作ってくれた男だ。

仕事に熱心で心優しい、人柄の良さが滲み出るような皺が、顔一杯に入っていた。

あれから40年か……。早いものだ。

「結界は破壊は、内側からの強い力が原因です。これを見てください」

チームリーダーの男性がパソコンを操作すると、モニターが移り変わった。

「これは、結界が破られる直前の映像です。動かします」

そこには、まだ結界がある島があった。そして突如、衝撃波とともに結界が砕けたのだ。

「ここを見てください」

男性がある部分をズームしていく。監視カメラから一番遠くの島の端。そこには不自然な盛り上がりがあった。

盛り上がりというか、何か細く白いものが地面から突き出ている

「解像度を上げます」

荒い画像が、段々と綺麗になっていく。

「これは……」

人間が立っていた。学生服を着た少年が、島に立っていたのだ。真っ白な髪と肌、外国人とも思える端整な顔立ちをしていた。

「アース……一つ聞きたい。あの島に上陸はできるか?」

「無理です。生身の生き物が上陸すれば、一時間も保たない劣悪な環境です」

「そうか、そうだったな。では、この少年は……」

私は少し考え、決心して言った。

「もしかしたら、彼は、前世の人間なのかもしれません……」


ーーーーーーーーーーー


アースから連絡があったが、その後何事もなく昼が過ぎた。

烈はさっき帰ってきて、変わらずの元気で家に戻っていった。

どうすればいいだろう……。私はずっと考えていた。

烈を巻き込んでいいのか?友達を危ない目にあわせていいのか?

しかし、烈しかいない。私の心がそう言っているんだ。

「よっし、じゃあ今日も練習練習っ!」

学校が昼までの時は、烈は決まって、部活の自主練習をする。ちなみに剣道部だ。

「見ておいてくれよーー!」

私は、素振りをする烈を見て、姿勢が崩れていないか確認する役割だ。

ひゅん、ひゅんと風を切る音が聞こえる。小学校の頃から習い始めた剣道だが、先生がいいせいか、実力は相当ついている。

「どうだ、ガイア、できてるか?」

竹刀を振り抜く度に、汗が弾ける。

「あ、あぁ。乱れていない」

「よかった!」

その笑顔は、私の話を聞いても、変わらないだろうか……。

「な、なぁ烈……」

「何?」

「話が、あるんだが……」

烈は、素振りを止め、私の近くにやって来た。

「どうした?」

「実はな……」

話し出す、まさにその時だった。

『ミツケタ………』

烈の向こうに、一人の男性が見えた。

フラフラとこちらに近付いてくる男性、見たところサラリーマンのようだ。

「あれは……」

私の声を聞き、烈も後ろを向いた。

「誰だろう……?」

『ミツケタ、キカイニンギョウ』

ボソボソと口を動かしているのに、言葉が妙にはっきり聞こえた。

機械人形?

「ガイア、聞こえますか!!」

突然アースから連絡がきた。

「どうしたアース?」

「先ほど話した島にいた少年が、龍神町に現れて、サラリーマンの男性に何かをしました!その男性があなたの方に行ったみたいなんです!」

私は咄嗟に男性を見た。

不気味な笑みを浮かべた男性は後ろ手に何かを取り出した。木の柄が見え、その先のは怪しく光る刃が見えた。

「烈、逃げろっ!!!」

私が叫んだ時には、男性は走り始めていた。両手に大きな包丁を持って。

烈は、突然の事に一瞬動くのが遅れた。しかし、すぐさま竹刀を構えたのだ。

「やめろ烈、逃げろ!」

もう遅かった。包丁を持った男性が、すぐ目の前まで迫っていた。

「めぇええん!!!!」

烈は無謀にも、竹刀を振り上げ、男性の頭目掛けて振り下ろした。間合いは完璧だ。しかし……。

男性が普通の人間であれば直撃だっただろう。しかし、男性はあっさりとそれをかわすと、左手に持っていた包丁で、竹刀を真っ二つに斬ってしまったのだ。

烈が驚いた時には、男性は右手の包丁を振り上げていた。


私は動いた。何万年ぶりだろう。体の表面の膜が、バリバリと砕ける音がした。本当は、ゆっくり動くのがいいのだが、今はそんなこと言っている場合じゃない。

友達が危ないんだ!助けたいんだ!


「地球の勇者よ、勇気を分けてもらいにきたぞ」


ブレイブ!!私に友達を救う力を貸してくれ!!


「よかろう。その体、動けるようにしてやる。しかし、少しだけだぞ」


ガキィイイイイン!!!

「…………、あれ?」

烈は無事のようだ。もう少し遅かったら、烈は……。

「大丈夫か烈!!」

「が、ガイア、なのか?」

「そうだ、私の名前はガイア、地球に生まれたロボットだ!」

『キカイニンギョォオオイオオ!!!』

「前世の魂よ、私はあなた達を絶対に救ってみせる!!」

私の使命は、地球を創り変え、平和を取り戻すこと。そして、創り変えた際に浄化しきれなかった、前世の魂を救うことだ!

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