ひさかたの光るかぜふく国原につばめとなりて天翔らまし

【読み】

 ひさかたのひかるかぜふくくにはらにつばめとなりてあまがけらまし


【語釈】

 ひさかたの――「①天に関係のある『天』『空』『雨』『月』『月夜』『日』『昼』『雲』『雪』『あられ』などにかかる(中略)②『都』にかかる(中略)③月の中に桂かつらの木があるという伝説から、『桂』にかかる(中略)④天上のものと考えられていたので、『岩戸』にかかる(後略)」(大辞林 第三版)。

 国原――「広く平らな土地。広い国土」(デジタル大辞泉)。


【大意】

 光るかぜのふく広い大地でつばめになって空を飛びまわれたらなあ。


【附記】

 憶良(660-733頃)の貧窮問答歌の反歌への憧れもあってつくった。なお、「風光る(光風)」「つばめ」はいずれも春の季語である。


【例歌】

 世の中をしとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば 山上憶良


 いもかど行き過ぎかねつ久方の雨も降らぬかよしにせむ 作者不詳

 久堅の都を置きて草枕旅ゆく君を何時とか待たむ 作者不詳

 ひさかたの月は照りたりいとまなく海人のいざりは灯し合へり見ゆ 作者不詳

 久方の光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ 紀友則

 ひさかたの岩戸の関もあけなくに夜半に吹きしく秋の初風 曽禰好忠


 香具山と耳梨山とあひし時立ちて見に印南国原いなみくにはら 天智天皇


 江戸川のみづ落ちぐちのみかほりにつばめの来舞ふ春さりにけり 中村憲吉


【例句】

 ひたひたと風も光るやけし畑 修古しゅうこ

 陽炎のものみな風の光りかな 暁台きょうたい

 日の春のちまたは風の光りかな 同

 文金の合せ鏡や風ひかる 正岡子規

 文鳥の籠白金に風光る 寺田寅彦


 蔵並ぶ裏は燕の通ひ道 凡兆ぼんちょう

 盃に泥な落しそむら燕 芭蕉

 巣を立て湖水になづむ燕かな 尚白しょうはく

 乙鳥つばくらや赤土道のはねあがり 惟然いぜん

 柳にはふかでおのれあらしの夕燕 嵐雪らんせつ

 みすに入て美人に馴る燕かな 同

 つばくらや茶師はさび行宇治の里 許六きょりく

 山の端に乙鳥つばめをかへす入日かな 其角きかく

 海づらの虹をけしたる燕かな 同

 ほそぼそとごみ焚門の燕哉 丈草じょうそう

 燕にゆかしがられむ縄簾 支考しこう

 燕の下腹さはる早苗かな 胡布

 巣を守る燕のはらの白さかな 太祇たいぎ

 大和路の宮もわら屋もつばめかな 蕪村

 つばくらや水田の風に吹れがほ 同

 燕啼て夜蛇をうつ小家哉 同

 はたほこの仏間へ這入乙鳥哉 召波しょうは

 酒旗につばめ吹るる夕べかな 同

 巣乙鳥すつばめの下に火をたく雨夜あまよかな 白雄しらお

 乙鳥や雪にたはみしはりの上 几董きとう

 燕や流れのこりし家二軒 同

 むら燕牛の股ぐら潜りけり 同

 乙鳥や轍の小魚こうをつかみゆく 同

 雨晴れて燕並ぶ垣根かな 士朗しろう

 つばくらや花なくなりし三軒屋 百池ひゃくち

 小家ふたつ柳しだれて燕かな 東皐とうこう

 臼哥うすうた聞々きききき並ぶ乙鳥かな 一茶

 曇る日や高浪に飛ぶむら燕 村上鬼城

 思ふ事只一筋に乙鳥かな 夏目漱石

 玄鳥の泥見てありく田面たづらかな 尾崎紅葉

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