第十四話 ケロちゃん反省会

「あーんなんでー!?」



 開口一番叫ぶケローネ。

 悔しさを表現したいのかいつの間にか人魚形態になってじたばたと体を動かしている。

 あれでもまだ余力があるようだ。といっても限界に近いようだが。

 私はケローネに近づいて……



「ちぇい!」

「あいた!」



 とりあえずケローネの頭にチョップ。

 落ち着いてほしいのと、模擬戦と言うには少しやりすぎだという叱咤も含めて。



「全くこの子はもう、見境なく暴れて……。この海が好きなんでしょう? これからここを統治するものが環境破壊してどうするの」

「あうう、ごめんなさーい。ついヒートしちゃって……」



 ヒートって貴女ね。普通に死にかけたわよ?

 全部斬り伏せればいいとは言ったものの、まさかあんな光線ビームまで出すなんて。ケートスといい最近の魚はあれが流行ってるのかしら。

 ケローネの実力は見れたから良しとしても、これからは安請け合いしないようにしよう……。私の体が持たないわ。



「それであの姿は何? タコなの? イカなの?」

「あれはケローネちゃんスーパークラーケンモードです! どうだったどうだった? すごい迫力だったでしょ♪」

「迫力というかなんというか……」



 クラーケン。姿はタコだったり海蛇だったりと様々に言い伝えられてきた生物だ。

 次元によって伝承と言うのは異なるだろうが、その巨大さはどの次元でも共通して言い伝えられている。

 戦闘に置いて手数が多いのは良いことだけれど。



「率直な感想をいいかしら?」

「はーい、どうぞ♪」

「キモい」

「酷いっ!? あんまりだよ!」



 そうは言ってもねぇ……。不気味な声で叫びながら襲ってくるのはホラーよ。

 とは言っても味方にすれば心強いことこの上ないのだけど。



「とまぁ冗談は置いといて、スキルや魔法は申し分ないわね。あれで全部かしら?」

「ううん、まだまだいーっぱいあるよ! でも私の魔力じゃ全部出し尽くせないの」

「手数は多いけど魔力不足ってことね。確かに広範囲の魔法が多かったし」



 魔法のことはてんでわからないけれど、その程度の知識はある。

 スキル……才能があればその魔法が使えて、その者が持つ魔力を浪費して使う。くらいしか知らないけど。

 ちなみに私は一切の魔力を持ち合わせていないらしい。悲しい。



「今まではバブルスラッシュだけで大体決着がついたんだけどなぁ。まさかあんな簡単に弾かれるとは」

「いや全然簡単じゃなかったけどね」

「むぅぅー! 結局一撃も与えられずに魔力がすっからかんになるなんて……」



 ケローネが凄い悔しがっている。実力を見ることは出来ても魔法に関してはアドバイス出来ないのよねぇ。

 ただどれも威力を抑えていないというか全てを全力で撃ってしまっている様な気がする。そこの調節さえ利けばもっと効率が良いのだろうけど。



「おーいケローネちゃん! 大丈夫かー!」



 と、かなり遠くの方にいたタラスクがこっちに戻ってきた。



「うん、ちょっと疲れちゃったけど大丈夫! 少し休めば問題ないよ♪」

「お嬢、やりすぎだぜ? あんなえげつない攻撃、模擬戦で撃つもんじゃあないぜ」

「だから本気でやるって言ったのに……」



 そもそもケローネも大分えげつない物を出してきたと思うけど……。

 タラスクはそういえばと私に問いかけてくる。



「お嬢、刀を抜く前に何か言ってたよな? 呪文みたいな」

「うん? ああ、あれは呪文じゃなくて……かたの名前のような物かしら」

「技名みたいなもんか?」

「そう……かしらね。それで合ってる」



 剣術と言っても色々種類や流派がある。

 基本に沿った無駄のない最善の形や、独特な構えの、剣道の真髄に触れる様な形があったり。殺す事でなく人を生かす事に重きを置く活人剣なんてものもあったり、思想も関わってくるので割と種類が多い。

 私は基本的に居合……刀が鞘に収まっている状態からの形を取っている。生かすとか殺すとかは特に考えていない。そういうの面倒だし。

 一番しっくり来るのよね。自分からは往かず、相手の太刀を圧して勝つ。所謂ガン待ち? と言うやつかしら。



「あれって魔法でも何でもないよな。言う意味あるのか?」

「特に宣言する意味は無いわよ。口に出すとタイミングを合わせやすいからそれだけね」

「なるほどなぁ、格好良いからとかそんなんじゃないのか。因みにさっきの二つもその技なのか?」

「そうね。正確には技ではないけれど」



 玉簾不断ぎょくれんふだん。打ち付ける太刀一つ一つを滝の雫の様に勢い良く、全力で充てる。わかりやすく言えば全部叩き落としてトドメを刺す!

 先々さきざき。先手を、此方の先手を以て打ち倒す。簡単に言えば、見てからはたき落とす!

 人によって解釈や技は様々だけど、私はそう表現している。

 因みにフォルネウスの攻撃を受けた時の霹靂へきれきは、いかずちの如く太刀を薙いで、雷音を以て相手を斬る。要するに、相手の攻撃を弾いてスキが出来た所に二の太刀を入れる!

 そうタラスクとケローネに説明をするも、しっくり来ないようで首を傾げている。



「口で言うのは簡単だけどな、ありゃその次元を超えてるぜ?」

「うんうん、あんなの魔法の域よ! 一振り二振りであんな威力出すなんて。腕を引きずり込まれた時死んじゃうかと思った……」

「そんな大袈裟な。悪魔なんだからあれくらい出来なきゃ何も出来ないわ」

「悪魔って怖いなぁ……」



 まぁ私の知り合いはグレモリーしかいないから他の悪魔の実力なんてわからないんですけどね……フォルネウスは置いといて。

 少なくとも、上位にいる悪魔……サタン様とか、周りに仕えている悪魔は私なんかじゃ太刀打ちできないと思う。

 だからこそ、こういうシステムの戦いは助かるのだが。



「まぁ、私のことよりもまずはケローネね。タラスクから見て何か無いかしら?」

「そうさなぁ。力みすぎて効率悪そうだなとは思ったが」

「ほほう。魔法を撃つにもコツとかあるのかしら」

「コツというか、単純にケローネちゃんが調節してないだけだと思うが」



 タラスクは何やら気になることがあるみたい。ただ後ろで隠れていたわけじゃないようだ。



「ん? 調節って?」

「その概念すら知らなそうね」

「魔力の出力調整だ。全部が全部全力で流し込めば良いって訳じゃないぞ?」

「そうなの!?」



 そうらしい。牽制で撃つ分にはそこまで力を込めなくても良いのはわかる。

 ケローネとタラスクが魔法についてどんどん話し込んでいく。

 タラスクを呼んで正解だったかも。



「シャアアアア!!」

「あ! おーいこっちこっち!」



 他の魚達が追いついてきたようだ。

 戦闘に大きな鮫がいる。あれはレモラだ。



「え、何処行ったかわかんなくなって困ったって? ごめんね! ウラクちゃんの声がしたから勢い良く飛び出しちゃったの♪」

「やれやれ、結局置いてきぼりにしたんじゃないの」

「にへへ……」



 私はレモラに近寄っていく。

 私が放ったらかしにしたせいでレモラが暴れていたことを昨日シュトロムから聞いた。

 レモラはまだ生まれたばかりだと言う。さすがにそれじゃあどうすればいいかわからないよね。



「レモラ、放ったらかしにしてごめんね。私の考えがそこまで至らなかったわ。今度からちゃんと貴方の事も見るから」



 そう言って、私はレモラの頭を撫でる。

 おお、鮫肌かと思いきやスベスベだ。

 レモラは大人しく私にくっついて来た。かわいい。



「おお、レモラちゃんべったりだ!」

「じゃあ俺も……」

「タラスクはケローネに魔法の教育をして上げなさい」

「はい……」



 ううむ、ギーといいレモラといい、慣れると結構可愛く見えてくる。

 やっぱり見た目で判断するのは良くないと思うの!

 しばらくぽすぽすとレモラを撫でていると、後ろからたくさんのデカい魚がこっちにやってくる。



「エサ、エサ」

「わっ! ちょ、何!?」



 怖っ! 食べられる!?



「大丈夫よウラクちゃん! その子達、難しい言葉を覚えられないだけなの。別にウラクちゃんをエサだと思っているわけじゃないわ♪」

「エサ、エサ」

「けろ、けろ」



 何かけろけろ言ってるのもいる。どうやら簡単な言葉を繰り返し覚えているだけのようだ。



「ウラクちゃんは魚達にも人気なのね♪」

「タロウの奴は逆に怖がられそうだがな」



 タロウには従ってもらわないと困るのだが。まぁそれは追々考えるとして……。

 どうやら他の魚達も見つかって、海に平和が戻ってきたようだ。

 今後は縄張りをきっちり決めて海が荒れないようケローネに見てもらおう。

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悪魔国家の大戦争! ~悪魔ウラクの成り上がり~ 釜蔵 @kamakura-28

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