仮称、「蛇」

@key3lock

第1話「蛇」

 ぼんやりと黄色い灯りが、所々剥がれ落ち色のくすんだ壁を照らす。部屋のいたる所に見えるのは人の模型だろうか。等身大の骨格標本から、首にかけた貝殻の装飾品まで見事再現されたこれは原始人のミニチュアか、他にも大小様々な種類が揃えられている。


「!」

誰かがこちらの存在に気付く。

「貴方でしたか」

男だ。こちらから顔はよく見えないが、男が揺り椅子に腰掛け、その音を少々遠慮気味に軋ませながらこちらを見ている。

「いやぁ、ご無沙汰じゃないですか」

知り合いだろうか?

「ここ最近会う機会もめっきり減って…」

いや、違う。

「私ちょっぴり淋しかったですよ?」

私はこの男を知らない。


「いやしかし近頃の貴方ときたらどうも…」

素性の知れないこの男にその正体を問う。

「…………なんですって?」

私の問の何がおかしかったのか、何故か男は面食らっているように見えた。

「いきなり出てきてお前は誰だ、ですって?」

「いやいやいやっ、私と貴方の仲でしょう?」

「本当に私のことをお忘れで?本当に?」

男は少々狼狽しながら私に問い返してきたが、お忘れも何も知らないものは知らない。


「………………はぁ」

男のため息からは私への失望が感じられた。

「まったくしょーのない方ですね、私があなた方とどれほど永い付き合いをしてきたか」

あなた方?方とは何だ、何故複数形なんだ。


「いいでしょう」

剥がれ落ちた壁紙の境界線が曖昧になる。


「私が一体『何』なのか」

ぼんやりと黄色い灯りが、


「私の一番古い記憶からお話するとしましょう」


私の気を遠くする。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

仮称、「蛇」 @key3lock

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る