第4区 牛頭宇志彦教諭左遷の件 6. 真庭飛鳥④
暗い神社の明かりをつけると、
東の方向に鏡がきらりと光る。
そしてその鏡の下には、白木の引き出しのようなものがある。
メグが開錠する。
引き出しの中には、日輪のような、末広神社の紋章が記された、
桐の箱が一つ存在した。
その中身を見ると、ただ三つの代物があった。
一つは、写真。枚数はただ一枚。
もう一つは、テープレコーダ。録音機能付きのようで、これも一つだけ。
最後の一つは、刀のキーホルダー。猫のストラップが取り付けられていた。
これら3つが確認できたので、いったん蓋をして、二人で母屋の大広間に戻る。
桐の箱を見た瞬間、母親が驚く。
これを、父は母に託していたのだ。
そして、母でなければ、「日輪」の意と手帳を合わせて考えることはできなかったのだ。
桐の箱の中身を開けて、詳細を確認する。
まず、一つ目の写真に写っていたのは、自転車の周りにいる何人かの女子生徒。
十二山中学校のジャージであった。
写真の日付は「98” 8” 3」。
一九九八年八月三日を指していた。
この写真が、どういった意味を持つのか。
少なくとも、この場にいた面々にはわかっていないようであった。
そしてテープレコーダのスイッチも入れる。
『ていうか、ネズミがいなくなってせいせいしたわ』
『当然よ。あんな陰気な女にレギュラーの座とられるわけにはいかないもの』
『チビのくせに上手いとか調子乗ってるんじゃないわよ』
『成績もせいぜい中の上くらいのくせにね』
『それにしても、あの計画が、あんなにうまくいくなんて予想外すぎるよ』
『ま、ネコノちゃんが考えた案なんだけどね』
『三年の自転車パンクさせてネズミになすりつけるってのね。名案だったでしょ!』
『本当よ、ところでネズミは今どうしてるの?』
『なんでも、陸上部に亡命したんだって。あの一年生三人だけの、廃部寸前の部活にね』
『落ちぶれたドブネズミの逃亡先には一番いいんじゃないのかしら?』
『ギャハハハハハハ!!』
ここでテープは終わっていた。
非常に、短い録音であった。
「ネコノちゃん…って誰なの?」
「ひょっとして根古野に姉貴っていたのか?」
「ああ、あの一族は長姉がいたはずだぞ。お前らの二つ上だ。今は確か聖ナサニエル高校に行ってるのだったか」
伯父さんが言う。
…全然知らなかった。
確か聖ナサニエル高校は、学力に関して言えば公立が基本的に強い県内の高校において、例外的に強い私立高校であったはずだ。滑り止めとしての利用も認められない、少人数制の高校だ。
「この二つの証拠が置かれてた…ってことは」
「おそらく、写真のうちの一人は、根古野姉であろうな」
二つの代物につながりがあるとするなら、間違いはないだろう。
「間違いない。鏡が太陽を示す、っていう母さんの言葉が正しければ」
「父さんが追っていたのは、ネズミー先輩の過去にあったという事件だ」
「そしてその事件に、『直接』根古野一族が絡んでいる」
「この写真は、おそらくその事件に関係するものだ」
「風の一族に喧嘩を売るか…根古野も、只者ではないな」
おじさんがうなる。それもそうだ。法具の継承者がその気になれば、どんな目に合うかは言うまでもないだろう。
「そして『その次の飛ぶ一年が 歌声の意を知る』…酉年のこと?」
「飛ぶ…トリ…まさか、トリちゃん!?」
「ニワトリの本名はなんだったか?」
「真庭…飛鳥…『飛ぶ鳥』・・・!!」
「真庭一族ではダメで、ニワトリじゃなければわからない意味があるのかもしれない」
僕がつぶやいたところで、大声が響く。
「真庭一族だって?!」
伯父さんの血相が変わる。すでに伯父さんは立ち上がっている。
「真庭一族は、県内に二つある法具『雷刀』を継ぐ一族と」
「遠縁にある一族だぞ」
冗談であろう。二つの法具の一族が、こちら側についてくれる可能性があるのだ。
「その家系図ってある?」
「ばあちゃんが昔見せてくれたわ」
「最新版が数年前に出とったか。皆、見せてやろうかの」
祖母ちゃんと伯父さんが書庫のほうに向かい、
しばらくしてやや厚めの本を持ってくる。
法具使いの系譜、その記録である。
四十七都道府県のうち、僕たちの県の章を探す。
法具に関しては「風扇」「雷刀」のたった二つ。
まず「風扇」の項を見る。
これを継ぐのは根津一族…ネズミー先輩の一族である。
日本各地に散らばる「風の一族」の分家筋にあたるらしく、本県に残る風の一族としてはただ一つの一族である。
家系図の一番下に、「根津美代子」、すなわちネズミー先輩の名前もある。
名前の左上に○だの×だの書いてあるが、これは適合の有無であろう。
当然だが、この当時まだ小学生だと思しきネズミー先輩の箇所には○も×もない。
効力に関しては、一定体積の範囲内で任意の風を起こすことができる…というものである。体積が一定なら、形状に関しては使用者の自由、とのことである。
体積は使用者の素質によるそうだ。
そして「雷刀」の項を見る。
一族の名前は「鷹橋」というそうだ。
鷹橋一族の家系図の詳細を見れば、現在の当主の名前は「鷹橋翼」というらしい。
その鷹橋翼の姉・翔子が嫁いでいるのが、根古野玄信。
根古野一族の当主であった。
「根古野教育長の義弟が法具継承者じゃないの!!」
母親の言葉に驚く。当然である。
「この教育長って、うちの根古野くんたちとどういう関係なの?同じ一族ということは分かったけど」
限りなく嫌な予感がしたので、メグや伯父さん伯母さんに保護者会議の資料をあさってくれるようお願いする。
僕の考えが伝わったのか、三人とも探してくれる。
そして伯母さんが、一つの紙をとってきた。
最初の、四月時点の保護者会議の資料だ。
根古野と同じクラスである以上、彼の親の名前の資料がある。
根古野の母親の名前は「根古野翔子」。
疑いようもなく、
根古野の叔父は法具「雷刀」の使い手であった。
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