第4区 牛頭宇志彦教諭左遷の件 5. 日辻恵未⑤

「なるほど、そういうことなのか」

「おそらく、十二の柱というのは神…」

「十二番目の神…オリュンポス十二神のこと?」

「いや、わざわざ『一番目』『三番目』等、順番がしっかり決まっているようだ」


「すなわち、十二支のことだと僕は思う」

みな、納得したような表情だ。

十二支であれば、一番目は文句なしに「ネズミ」であり、

以降の順番も完璧に決まってくる。


「となると三番目の時…寅年」

「直近の年だと、一昨年の1998年になるよね」

「選ばれざる者…十二支に選ばれざる者は」

「ネズミに欺かれたのは、猫…ネコ…根古野か!」

「つまり、一番目とかってのは関係者の名前かな」

「一番目は子…ネズミ…ネズ…ネズミー先輩!?」

ネズミー先輩の事件を、父は追っていたのか。

僕も、2年前に「何かがあった」くらいの認識であった事件を。


「一番目は真南に、一直線…?」

「南北を一直線につなぐ線…子午線ね」

「ということは馬…まさか、天馬一族・ペガサス先輩のいる陸上部のこと?!」

ネズミー先輩が陸上部に亡命してきたのも、大きな意味があったのだ。


「そこから二年だから…申に何かあるの?」

「いや、だとするとわざわざ『一年』を二度も繰り返す必要はない」

「ここで最初の一年…未には「まわる」けど」

「次の一年・申の時には『とどまる』」

「つまり、未…まさか、うち、日辻家に何かあるの?」

「『とどまる』のだから、そう考えるのが自然だろうな」

自分で言いながら、僕自身もその場で理解をしていく。

つまり、父が残した重要な証拠は、日辻家にあるのだろうか?


「そうそう、小さいころに聞いたことがあるわ」

ここで母が口を開く。

「ご神体の鏡は、人の善悪を照らし出すもの」

「だから、神様の前で正直にしていなくてはならないんだってね。そうだよね、兄さん?」

「まったくもってその通りだ。全ては鏡に映されるのだからな」

伯父さんもうなずく。

間違いない。


「母さんと伯父さんの言葉で、手帳の謎-どこに証拠があるかが解けたよ」

その場の全員の意識が、僕に集中する。


「末広神社の御祭神は、基本的には毘沙門天」

「けれども、この神社に限っては、天照大神を御祭神としている」

「天照大神は太陽神…すなわち、日輪の神」

伯父さんが「もしや」と口からもらす。

「日辻の日輪」

「すなわち、日辻家が仕える末広神社のご神体」


「日輪…ご神体の、鏡の下に」

「父さんが残した証拠はある」

神社の方向を向き、僕は宣言する。

逆にこれ以外の解答を思いつくことは、

僕にはできなかった。

本来ならば何通りか解き方はあるのだろうが、

その解き方しかできなかった。


「恵未、神社の建物に行って確かめてみな」

祖母ちゃんが口を開く。

御神体の下にあるという引き出しの、

カギを開ける資格を持つのは日辻家の当主と跡取りのみ。

当然、メグ一人では安全上問題があるので、僕もついていく。

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