第4区 牛頭宇志彦教諭左遷の件 4. 日辻恵未④

「それで、だ」

伯父さんが咳ばらいをして言う。

「ヨシヒロ、その手紙を伯父さんに見せてもらえるかな」

「できれば、義弟の残したヒントを、一族の皆で見ておきたい」

まったくもってその通りである。

そもそも、僕自身がまだ中身を見ていないのである。


まず解かなければいけないのは、3ケタの文字。

各桁の数字は0から9まで存在する10通りとなっている。

ぱっと思いつくのは誕生日のネタ。ベタなネタである。

父の誕生日は11月28日。反応はない。

母についても12月26日。これも違う。

僕の5月2日~052や502を試すも効果はない。

弟についても、10月11日なのでこれも違う。

挙句の果てにはメグの誕生日である4月12日~412まで試すも開く気配はない。


どうせ10×10×10で1000通りなのだから、

000から試していけばいずれは突き当たるのだろうが、

「ヨシヒロ、おじさんは何の事件を追っていたのかしら」

とメグが聞いてくる。

「僕もそれについては聞いてないな」

もしかすると、父の追っていた事件に関する何かがヒントになるのだろうか。

現時点でわかる、父にとって運命を変える番号。

おそらくは、日付。

まさかと思いナンバーを変える。

カチリ、と音はなる。

その場の全員から声が出る。


番号は929。

父が、教育委員会を告発した日である。

おそらく、父にとって、この日がXデーであったのだろう。

なんにせよ、一番目の謎を解くことはできた。



手帳は実際に開いてみると少し特殊なもので、

一つのページが一日に対応している、という代物であった。


父の手帳に記載されているものは大半が仕事関係であり、

これ全てが謎だとした場合、僕たちに解く時間は流石にない。

父自身、そこにリソースを割いている場合ではないだろう。

だから、手帳の中から、抽出すべきものを選ぶ。

すなわち、教委で何かが起こり、左遷の目にあった「9月29日」に関わるものである。

手帳に、該当する記述――9月29日のページを探る。


結果、9月二9日のページ―312ページに、一節の文章を見出すことに成功した。

何かの年表のようなものであった。


1997年12月22日 風の継承者斃れる

1998年8月1日 最初の事件

1998年9月4日 パワーバランス崩れる

2000年7月21日 追っていた目を得る

2000年8月23日 耳と目が揃う

2000年8月26日 耳がクリアになる

2000年9月8日 動く

2000年9月14日 桜紋よりキックバック

2000年9月16日 九分三十八秒

2000年9月20日 教委の真相聞く 5760m後方

2000年9月24日 九分三十四秒

2000年9月25日 核心には触れず しかし時近い

2000年9月26日 最悪の事態回避 しかし事件

2000年9月28日 動かぬ証拠 17280m前方

2000年9月29日 Xデー

2000年10月4日 タイムリミット


312s


父親の頭は大丈夫なのか、というのが、

この文章を見たときの率直な感想であった。



「これはどういう記述だ?」

「少なくとも、9月29日がXデーになってるから、このページで間違いなさそうね」

困惑する伯父さんと、静かにうなずく伯母さんである。


「9分38秒と34秒…それぞれ、僕の記録会と、新人戦での記録だ」

「気になる表現はその近くにあるわ」

メグが二点を指さす。

「『2000年9月28日 動かぬ証拠 17280m前方』『2000年9月20日 教委の真相聞く 5760m後方』」

「この手帳の17キロ前に何があるというの?」

市内のある地点と別の地点をつないで、ようやく十五キロあるかないか、といった状況。

別の市まで巻き込むような事件だというのだろうか。

そんなわけでとっさに自宅からの距離が17キロ近い地点を算出すべく、

地図を取ってきてもらうようミホとユージに言おうとした。

その時、僕の頭に電流が走る。

「なあ、メグよ」

「『m』って、どんな単位だったか、思い出せるか?」

「そりゃもちろんメートル…いや、もう一つあったわね」

「minute、つまり「分」…というわけだ」


「すなわち、17280分は24で割ると12日…9月28日の12日前、9月16日」

「僕が9分38秒をマークした日に、動かぬ証拠があるということだ」

「その理屈だと、5760分は4日…9月20日の4日後、9月24日のところに教育委員会の真相が眠っているというわけね」

メグがうなずく。


「事件がそれでわかるならば、さっそくそのページを見てみようよ」

ミホに促され、9月16日のページを見る。

が、白紙。

9月24日のページを見るも、これまた白紙。

「兄ちゃん、何か間違えたんじゃないの?」

弟からの突っ込みが入る。

「9月16日と24日に関しては間違いないと思うんだけどな…」

日付とページ数が合致していない。これはどういうことだ。

などと考えているとミホが聞いてくる。

「ねえ、このページ数のところに書いてある『s』って何のことなの?」

「確かに、ふつうは『p』のはずなんだがな・・・」

筆跡を見ると、sは手書きで書かれているようで、

後から書き足したような感じである。

「ねぇ、さっき『m』が分単位だったとしたよね。じゃあ、『s』は…?」

「second…つまり『秒』単位…!」

またしてもメグの言葉でひらめく。助かる。


「9分38秒を「s」に直すと…?」

「秒単位だから…278秒?」

だが、278…まさか。

「sって、もしかしてページのこと言ってるんじゃない?」


いわれてみればその通りだ。わざわざページ数のところにsがついているのだ。

日付をそのまま探すのではなく、

日を分単位で求め、かつその後秒単位でページ数を求めるという二重の構造になっていたのだ。

手は勝手に求めるページを探す。


「278ページ…あった!!」


278ページに書かれていた内容は以下のことであった。

一見しただけではさっぱりである。

またしても、父親の気が確かなのか本気で疑ったほどである。

頭が中学二年生並みでないことを祈るばかりである。


三番目の夏

時を駆け巡る 十二の柱に

選ばれざる者は 一番目を襲う

歌声を響かせるも 聞くものはない

一番目は 真南に、一直線に逃れ

その歌声を 一年まわるも 日輪の前に眠らせる

次の一年 歌声はとどまるも

その次の飛ぶ一年が 歌声の意を知る

その次の二年は 選ばれざる者の姿を見るも知らず

そして二番目のみが 歌声を解く



「十二の柱…もしかして十二星座?」

「だとすると3番目の時、うお座の意味か?」

「まって、牡羊座を一番目とするとふたご座よ」

「どこが一番最初に来るか…それについての言及はないね」

僕を含む子供たち四人が集まり、意見を各々口にする。

ここで、ほかの文章まで踏まえて一つ、ひらめきを得る。

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