第3区 三階渡り廊下転落の件 9. 牛頭義裕⑧

-2000/10/09 AM10:53 体育道路脇-



僕はシーカ先輩と急いで競技場に戻る途中であった。

リュウノスケの無事については、イノイチ経由で確認ができた。

どうにか生徒会二名は無事のようだ。

そして、タイガーが走っているのも確認できた。

終盤での粘りは彼が随一だ。


そして頭を今一度、事件のことに戻す。

相手の目的は、十中八九、駅伝部への「復讐」。


現段階で異常がないか確かめるため、

競技場で情報の収集にあたっているオロチに連絡を取る。

『こちらオロチです。ゴズくんかな?』

『いかにも。リュウノスケは無事だ』

『リュウが無事!そう、よかった…けど、誰かが防いだ可能性は?』

『イノイチ曰はくなし』

『…それおかしいね』

『ああ、僕もリュウノスケも傷一つなくピンピンしてる、不審な気配もない』

『あの日の復讐…いったい何をするつもりなのかしら』

『映像等に異常とか、不審者とかはないか?』

『ええ、お巡りさんにも見てもらってるけど、ウチの確認する限り異常や不審者どころか、不審物もないよ』

今のところ、何も動きはない。

不気味なくらいに。

狙いはなんだ。

『ただ…一つだけ気になっていることがあって』

『あの文書、本当に、今回仕掛けてる人が入れたものなのかな』

『どういうことだ?』

『いや、推理系の漫画とか小説であるじゃん?怪盗が予告状とか挑戦状とかおいていく、っていうパターン』

『実際、僕たちもその類だと踏んで…おい』

『そうなの。実際は別々の思惑で動いてるんじゃないかな』

『だとすると、仕掛け人のほうはそもそも10月8日の書状の存在を知らない…?!』

『その可能性があるの。ひょっとすると、全然別に分けたほうがいいかもしれない』

『わかった、貴重な意見感謝する。引き続き警戒を』

『オーケー』


オロチとの通信を切るが否や、また通信が入る。

メグだ。








-2000/10/09 AM10:58 県庁前-


『もしもし、ヨシヒロ?』

『メグ、何があった?』

『さっき私のところにイノブタから連絡がきたわ。リュウノスケ君は無事のようね』

『まったくもってよかった。ただ、書状の件は今一度検討する必要があるみたいだ』

『どういうこと?』

『オロチと連絡さっきまでとってたんだけど、どうも、送り主と事件の首謀者が違う、その可能性が出てきたんだ』

『違う?あれは挑戦状じゃなくて?』

『体裁はな。ただ、違う意味合いなんじゃないか、って思えてきたんだ』

『原本は競技場で預かられているから、取りに戻るの?』

『どんな可能性があるのか考えるうえで、参考までに文面を見ておきたい。競技場には戻っている最中だからちょうどいい』

『私も戻るわ。お巡りさんが、最重要警戒対象の二人が無事だから、あとは我々でなんとかする、って』

『ただ、そろそろそっちにタイガーがつくころだろう。それまでいてくれるか?』

『そうね。ゴクウ君の場合はクマノくんとワンちゃんが来てくれるはずだし』

『その二人に引き継ぐ形で、タイガー・スズメと一緒に戻ってきてくれ』

『わかったわ。あ、今タイガー君が来たところよ』

『それはよかった。引き継ぎの上で頼むぞ』


切る前に、ふと、ある予感が頭をよぎる。

『ねぇ、ヨシヒロ』

『どうした?』

『私たちが警戒しているのは、誰なのかしら』

『それはもちろん根古野じゃ…』

『今まではそう思ってきた。けれど、今一度、明確にしておく必要はあるわ』


これは、理屈付けなどできない、私の予感でしかない。

だけど、母さん譲りのこの類の、いやな予感が外れたことは、一切ない。

そして、ヨシヒロかオロチちゃんなら、理解してくれるはずだ。

どうすればいいのか。


『誰か、入院中のトリちゃんとコンタクトをとって』

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