第3区 三階渡り廊下転落の件 8. 大河虎鉄③


-2000/10/09 AM10:57 県庁北1000メートル-


県庁が近づいてくるが、目の前の順位はさほど変わらない。

抜かした人数は1人。

目の前には相変わらず、刀根中・南総社中・大学付属中・八咫中がいる。

後ろはすでに、足音も聞こえない。

自分がヘタレているというよりは、隣のやつが一歩も譲らない強者だということだ。

深紅のユニフォーム。

小幡中の1年・火田である。

1年生ながら天晴な実力だ。


そうならなおさら、ここで負けるわけにはいかない。

小幡中は最重要警戒対象なのだから。

残り1000メートルを切ったこともあり、スパートを徐々にかけていく。

追われるより追う、ゴズの得意技だ。

ゴズのような急激なスピードアップはできないが、

互いの実力が特に同等の時に「食らいつく力」ではゴズを上回っている自負はある。

一気に火田を突き離し、さらに勢いに乗って刀根中の三条も抜き去る。もともとばてていた様子はあったものの、あっという間のことであった。


が、ここから先の差がなかなか縮まらない。こちらのスパートよりも速いペースで、向こう側も競り合っているのだ。自分との差おそらく10秒ほど。


途中、自転車に乗っているカノヤ先輩と、

ジョギングのペースながら走っているゴズが、体育道路脇の道路から見える。

二人とも、「がんばれ」と声をかけてくれるのがわかる。

何とかしなければ。目標は達成せねば。

踏ん張れ、大河虎鉄。


市役所近くの角を曲がれば中継所が見える。イノブタが見える。

「最低限やった、あと頼む」

「任せて」

それだけいい肩をたたき、イノブタは県庁から競技場へと駆けていった。

結局のところ、戦況を全体にわたってかく乱させることはできなかった。だが、最低限必要な、二つの目標は達成したはずだ。すなわち小幡中より上の順位でタスキを渡すこと、序盤で戦況をかき乱すことには成功したと思った。




そのまま自分とともに県庁から戻るときに、同行してくれたスズメノミヤによれば、区間順位は4位。

あと1秒早ければ、区間3位とのことであった。

区間の表彰台こそ逃したものの、もともと接戦だったとはいえ順位は6位まで上昇。

3位との差は15秒。ただし、9位との差も15秒。

差が少しずつ開いてきたのは確かなので、

今後広がるであろうこの差を、6区に引き継ぐまでにどこまで抑えられるかが勝負だろう。

トップとの差は、彼女によれば、三区にして既に45秒である。

そして小幡中との差は8秒。イノブタやゴクウのタイムが遅かったとしても、7秒の貯金は作ったはずだ。


3区まで来て、ここでようやく半分の折り返し、ということに気付く。

あとの2人が、7秒以内に抑えてくれることを願わずにはいられなかった。

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