第3区 三階渡り廊下転落の件 7. 雪辰龍ノ介⑤
そして9月29日。
昼休みにリュウノスケを呼び出し、昨日の職員会議のことと次第では、オロチおよびメグに何かしらの疑いがかかるかもしれないと伝える。
「まだ疑ってるのか!?」
リュウノスケも信じられないといった表情だ。
「だからこそ、職員会議で、どの先生が、どういったいきさつで宍戸先生を追求したのか、知りたいんだ」
「弓道部ないし卓球部でさえなければ」
あくまで、彼女たちの無実を証明したかった。
「可能性がある以上、最速でつぶしたい」
そこまで言ってリュウノスケは承諾し、タイガーを連れてきた。
「叔父さん曰く、真っ先に追求したのは、吹奏楽部の顧問だったらしいな」
「それに教頭が賛同の意を示して、全体としておじさんを追及する、そうした流れになっていたらしいぞ」
「それで、弓道部ないし卓球部の顧問は」
リュウノスケが僕に代わって一番聞きたかったことを聞く。
「二人とも、中立の姿勢を崩すことはなかったらしいな」
「ただ、叔父さんを追求するなら、校長ないし教頭も何らかの責を取るべきだ、と言ってたそうだな」
ひとまず、再び二人に疑念を向けずに済んだ。
「いったいどうしてそんなことを」と聞くタイガーには洗いざらい話す。
呆れられるも、至極もっともだ、今のうちに疑念を晴らせてよかったと語る。
身内を疑わざるを得ない、僕自身やリュウノスケからしてもよかったと思う。
何より、彼女たち自身をもう一度問い詰めるのは避けられた。
だが、そうしてほっとしていた時、リュウノスケが何かに気付いたようだった。
「もしお前の、今の仮説が正しければ、吹奏楽部のグルに関しては、無いと言い切れる話じゃないな」
リュウノスケがそう言ったところで固まる空気。
鳴るチャイム。
メグとオロチの疑念こそ再び晴らせたものの、
教職員に対する疑念を払拭するには至らなかった。
課外活動規制派と駅伝部の動きに、大きな変動はなかった。
強いて言うなら、イノブタ曰はく、相も変わらず腰をおさえる昼休みの玄関演説を見る限り、規制派の中には駅伝部全体に対する強い悪意を持っている者もいるようであった。
さらには、駅伝部が生徒会役員を独占している状態でこのような事件が起きた以上、場合によっては選挙のやり直しを求める声も出てきた。
ゴクウ・ワンコら一年生たちからも、掃除の時間に情報を得ることができた。一年生全体では、事件そのものが「怖い」という見方が大多数のようであった。
お調子者や反抗期全開のものでさえ「事件から数日経過しているにもかかわらず、犯人が見つかっていない」ことが相当こたえているようである。
何より、女子だけでなく男子からもその強さで一目置かれているワンコですらも、「不意打ちされたらきつい」以上、事実上対策は集団で動くしかなかったことが大きかったようだ。
そして現場が現場、三階の渡り廊下であるだけに、吹奏楽部以外に疑念の目を向ける者はいなかった。図書委員の一年生たちについては、ある意味でゴクウが無実を証明しているようなものだった。
スズメノミヤの聞き取りによれば、図書の先生曰はく、事件発生時、図書委員は図書室内にいたようだ。
だが反駅伝部の声は、現時点で全体を動かすことはなかったようだ。
この勢力に対しては、ニワトリの意識が早く、昨日のうちに戻ったことが救いであった。
彼女の意識が長く戻らなかった場合、比企が規定により繰り上げ当選になる。そのため、彼の人格はともかくとして、彼を担ぎ上げるものたちが暴走する。そして生徒会自体がもめに揉めて駅伝出場どころの騒ぎではなくなるだろう。
捜査のほうも、刑事さん曰く進展がないようであった。
そしてその日は、宍戸先生を一度も見なかった。
体調不良とのことであった。
ホームルーム等は、副担任の先生がやっていた。
放課後、生徒会が入れ替わり、引き継ぎを終えた直後。
ニワトリのお見舞いに行こうとした矢先。
職員室前の掲示板には、
「宍戸教諭の無期限停職」
「それに伴う、駅伝部の出場停止」
以上二点の決定が張られていた。
懲戒免職よりは辛うじてマシだが、絶望。
それ以外の感想を持つ間はなかった。
というのも、決定の張り紙を見た直後、僕宛に火急の電話がかかっていると職員室から連絡があったためだ。メグもいれば来るように、とのことであった。
ちょうどその場にメグもいた。
二人で何が起こったのか、と思い職員室に入る。
いたのは1組の担任・弓道部顧問の女性だ。
電話は、母からだった。
ひとまず今は時間がないと前置きされた。
そのうえで、告げられたことはただ3つ。
「父・牛頭宇志彦が、教育委員会に対し反社会的な行動をとったため、山奥の分校に急きょ左遷が決まった」
「赴任は明後日・10月1日付けで、1年間は家族との面会等も認められない事実上の軟禁」
「私も連座して停職になった」
僕もメグも、何も言葉は出なかった。
何も考えられなかった。
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