第3区 三階渡り廊下転落の件 4. 真庭飛鳥➁
翌日の27日は、捜査等もあったのだろうか、今日いっぱい学校が休みになってしまった。
ひとまず意識不明なニワトリを除く駅伝部員11人と、短距離5人の計16人で、事件情報を整理するため集結する。
場所はリュウノスケの家だ。
一番早く着いたのは僕であり、リュウノスケと事件のことについて話していると、突如彼が何かに気付いたような表情になる。
「ゴズ、お前気づいたか」
「何にだ」
「男子は、これまでレギュラー争いとは無縁だったな」
「メンバーが六人しかいないから、そうだな」
人数きっちりぎりぎりであるが故の当然であろう。
「ニワトリは複雑骨折という話だったな」
僕も気づいてしまう。血の気が引くのを確かに感じた。
駅伝部女子の人数は6人。出場できる人数は5人。
ニワトリは複雑骨折のため、出場は絶望的。
すなわち、女子のレギュラー争いも、
9月26日をもって、終わってしまったことになる。
最悪の、一歩手前という形で。
そのタイミングでネズミー先輩とペガサス先輩がやってくる。
女子でレギュラーの座がほぼ確定しているのはウサとネズミー先輩の二人だけであることもあってか、先ほどの、女子レギュラー争い消滅の話を一応出しておく。ウサは間違いなく相当なショックを受けているだろうから、話すわけにもいかない。
ネズミー先輩もこの事実には初めて気が付いたらしく、結構なショックであるようだった。対照的に、ペガサス先輩はこの事実を、昨日の時点で理解していたらしく、選挙のあたり以上に落ち着いているようであった。ウサを含む女子に、この話は直前までできないだろう。
そんなことを言っていると、リュウノスケの従妹で、今の話の当事者の一人であるオロチもメグと来るので、この話は中断となる。若猪野三兄妹、ワンコたち一年四人衆、三年生短距離の2人も来る。最後に来たのはウサとタイガーの二人組だ。
ひとまずニワトリの話は本題として話すとして、その前に、ほかの情報を今のうちに集めておくとリュウノスケは述べる。
まずニワトリの容態をウサに問う。彼女は最後まで病院におり、帰宅したのは結局のところ母親の夜勤明けと同じ今朝であるとのことだ。
睡眠も病院の仮眠室で取らせてもらったらしい。朝時点でニワトリの意識はいまだ戻っていないが、ひとまず容態は落ち着いているとのことだ。
オロチの話によれば、吹奏楽部は、完全自宅待機になっているようである。駅伝部のような臨時部と違い、常設部であることも大きいのだろうか。
また、タイガー曰く宍戸先生は学校で緊急会議があるそうだ。ある意味当然である。学校にはおそらく警察も来ており、そのための休校でもあるのだろう。ちなみに、タイガーの帰宅も遅く、宍戸先生と同時であったらしく、夜十時を回ったそうである。
本題に関する記録は、次期生徒会書記であることもあり、僕がメグとともに行った。それを以下に記す。
被害者であるニワトリが意識不明であるため、事件の情報に関しては、事件前後の目撃者の証言に必然的に頼る形となったが、それを述べる前に、事件発生場所である校舎の構造について簡単に述べておきたい。
この学校は各学級が存在する南校舎と、特別教室や図書室・職員室などがある北校舎とに分かれている。
南校舎には一階から順に一年・二年・三年の各学級が存在する。十二山中学校は人数が非常に少ないため、学級数は各学年2つずつである。
特殊学級が存在する年もあるが、この学校では全校生徒の人数が少ないこともあって、現在はない。教室は少人数教室ないし物置として使われている。
北校舎の一階には理科室・技術科室・家庭科室といった特別教室のほかに職員室や会議室、給食室が、二階には美術室や放送室、パソコン室や生徒会室が、そして三階には図書室や音楽室が存在する。
そして、一階から三階にかけて、校舎の東端に渡り廊下が存在しており、ちょうど北を上にした「コ」の字を描くようになっている。
一階の渡り廊下は玄関も兼ねており、コの字の空間部分は中庭になっている。ニワトリが見つかったのは、まさにこの中庭である。
そして渡り廊下から中庭にかけては、屋外に階段が一本降りている。一階部分はそのまま中庭に抜けるようになっているが。扉を介して玄関および室内の廊下に入れるようにもなっている。
このほか、400mトラックの校庭や体育館等も存在するが、校庭は玄関から南の方向に、体育館は玄関横の通路を通って、倉庫・武道場の横を通っていく形となる。
体育館二階には卓球場が、体育館のさらに東・体育館裏には弓道場も存在する。校庭から百メートルほど離れた位置に、野球場も存在する。
タイガーが宍戸先生から聞いたところによれば、
事件前後の主要な目撃者は三人。全員が駅伝部員である。
すなわち、僕が職員室に呼び出された時点ですでにその場にいた、
ゴクウ、ウサ、そしてタイガーである。
事件前15秒、最後の目撃者・ゴクウと、
事件の第一発見者・タイガーとウサの証言は次のとおりである。
ゴクウが言うには、3階図書館から、一ノ谷合戦の新説を語る新刊や、東京見学に関する本を借りて帰る途中、たまたまニワトリと、渡り廊下ですれ違ったようであった。
かるくあいさつをして、他愛ない話をしたのだが、ニワトリと別れ、南校舎に入るために扉の角を曲がったところで、小さな悲鳴が聞こえた。先ほどまでニワトリがいたところを見ると、すでに誰もいなかった。
またこの前に、東京見学旅行の時に使用するデジタルカメラの許可を取りに職員室に行ったそうだが、一階に目立って挙動不審な人物はいなかったとのことである。
一年生は十月の半ばに、東京見学旅行がある。自身のカメラを持っていくには事前の申請が必要で、カメラもどんなものか教職員が一度見ておく必要があるのだ。
この時点で、ニワトリと渡り廊下で「すれ違った」ということは、ニワトリが北校舎に行こうとしていたことがわかる。吹奏楽部の練習に出るためだろう。
「ほかの人はいなかったの?」
オロチが純粋な疑問を浮かべる。いれば、その人も主要な証人となるのだ。
「いませんでしたよ。足音は聞こえましたが、外の音だったんじゃないですか」
少なくとも事件発生十五秒前には、現場の渡り廊下にはニワトリとゴクウのほかに人はいなかったのだ。
ここで、昨日、少しだけ考えた可能性が浮かぶ。
「ニワトリは、なぜ一人だけだったんだ?」
もっとも、彼女も油断していたといえばそれまでだが。僕やリュウノスケの当時の様子から考えると、女子である彼女はなおさら友人とどう行動していることだと思っているのだ。
「吹奏楽部のメンバーから聞いたのだけど、トリちゃん、教室に忘れ物した、って言って一度教室に戻ったらしいよ」
「ゴクウが見たのって、ニワトリ先輩が忘れ物を取ってきて部活に戻る帰りだったんじゃないのかな」
イノミが集めた情報にワンコが続ける。
「忘れ物を取って帰ってきた隙に襲われた、か…俺たち同様、油断していたのならそうかもな」リュウノスケが苦くつぶやく。
ついでに、その時図書館に一年生は、図書委員を除けばゴクウしかいなかったようである。三年生は根古野兄等、数人が奥の方で勉強していたそうだが。
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