第2区 生徒会役員選挙の件 13. 生徒会役員選挙④

この時間に評価を下げられるのではなく、しっかり質疑に説明できるようにするのが作戦だ。事前の説明を一部にとどめたのはこのためで、さらなる説明が時間いっぱいできるのだ。


「牛頭君は先ほど『真相』の追求、と言いましたが、具体的にどうしていくつもりなのですか?」

「まず被害者・加害者と思われる人たちから証言を得ます。それと並行して、証拠を集めます」

「では、もし生徒会の力だけでどうにもならないものが現れた時にはどうするつもりなのですか?」

「往々にしてその場合は、校内で完結するような事件ではないと考えます」

「したがって、その時は教育委員会、それでも及ばなければ警察の力を借りるしかないと考えます」

これで向こうが引いて、別のアプローチで攻めるか。そうでなければ今度はこちらの番か、などと思っていたが向こうが引くことはなかった。

「では、それでもどうにもならなければ?」

一瞬回答に詰まるも、一呼吸つき、はっきりと答える。この先の先まで行き着いてくれなければ丸いのだが。

「県、それでもだめなら帝国政府に掛け合うしかありません。」

「なおかつ時間がないとならば?」

「有りうべからざることですが、その場合は自衛行為に出る外はありません」

「暴力での解決だと?」

「こちらがいくら平和的な解決を最終防衛ラインの外で模索しようとも、向こうが一線を平気で越してくるならば、残念ですがそうするほかありません」

「生徒会が法を犯すというのですか!?」

かかった。

「ではそこにもし法に触れることをしなければならないことに正当性がある、ごくまっとうな正義だとしたら?」

「その時は、まさに警察が機能しない時でしょう」

「警察が機能しないとしたら、己の身や己の目的は己で守るほかありません」

「生徒会についてもまた同様」

「仮に生徒の安全等が陰湿な事件で守られないとするならば、生徒会はそれに断固として立ち向かいます」

「表向きは法を守って安全を侵略するのであれば、こちらは戦わざるを得ない」

「そうでないなら、誰かが最悪死にます」

最後を、最悪の事態を想定して結ぶ。


「みなさん、聞きましたか?!牛頭君は法に反しようとしています!これは明らかに反社会的な…」

「ではイタチさん。私からもあなたにお聞きしたい。このようなことをわざわざ聞くということは、法を持って、早急に、我々に何かしらの危害を加えようとしているという認識でよろしいですか」

壇上で聞き手に語りかけたイタチの言葉を遮り、単刀直入に切り込む。どうやら図星のようだ。反撃だ。

今度は彼女が言葉に詰まる番だ。表情が凍る。

すかさず追撃を打ち込む。

「普通であれば、国内における最高権力―すなわち、帝国政府ないし帝国議会、あるいは帝国中央裁判所まで持ち込むのがせいぜいです」

口には出していないが、権力こそないものの、帝への『直訴』も僕たちには選択肢として無いわけではない。

「しかしながら、あなたはあえて『時間はないならば』、すかさずそう僕に質問した」

「ということは、時間のない『何か』をあなたは想定している、と考えるのが自然です」

「残念ながら、僕には想像がつかない」

「とあらば、あなた自身にそうした『何か』が起きる恐れがあるのか」

「さもなければあなた自身がそうした『何か』を起こそうとしているか、のどちらかでしょうか」

これだけだと、相手を追求するなら不十分だ。

「それについて、あなたにもし僕たちに危害を及ぼすつもりがないのならば、その『何か』について」

「ご説明願えますか、イタチさん!」

そして、逃げ道はちゃんと用意してある。


「自らの身に危険が迫っていなくとも、私は日々危機を想定しています。そうした一環で、こうした緊急事態を考えるのは当然のことではないですか?」

まあそうなるな。

「そうならば、あなただったら、帝国の三権はおろか、恐れ多くも帝への直訴でどうにもならない場合はどうするつもりなのですか?」

相手がこちらを攻めた方法を逆に使わせてもらう。そこまで具体的かつ確実な方法を考えているのであれば、残念ながら恐れ入るほかない。むしろその場合は、ネズミー先輩に起きた「何か」を探り出し、裏から工作に持ち込むほかあるまい。

「私を反社会的呼ばわりするのであれば、より具体的な手法がある、そう考えるのが理というものです」

「反対と批判だけで代案がないのは論外です」

向こうはいう言葉がないらしい。「陰湿な事件の解決」についてはここまでのようだ。議長がそろそろ、と次の議題を促す。


「それじゃあ、課外活動の件ですけど、牛頭君が優先しようとしているのは勉強の阻害にはならないですか?」

 またイタチである。こちらは迎撃である。

「駅伝部は1・2年生ならまだしも、3年生はやめるべきで、きっちり受験勉強に集中するべきである、そう思います」

「駅伝部は受験勉強を阻害する、ですか。確かにそうした一面があるかもしれません」


「けれども、駅伝部への参加は一人ひとりの意思が決めることです」

「現に、駅伝部主将の天馬さんは3年の次席をずっとキープしており、模擬試験でも白虎高校への合格率で高い数値をあげています」


言葉は抑えた。高校まで挙げてしまったが、ペガサス先輩の場合は放言の域に達しているのですでに周知の事実であろう。


「だからと言って、2年生もそうだとは限らないし、3年生でもそうでない人だっているんじゃないですか?現に、今年の3年生は陸上部員しかいないそうじゃないですか」


「確かにそうかもしれないが、だとすれば現状のままでよいと思いますが」

「各自が一人一人の意思で決めているのですから」


「ではなぜ牛頭君は『推奨』をするのでしょうか」

痛いところをついてきた。本来ならば向こうの抑制と対になるためのものであったのだが、それを徒にしてしまったのだ。

「はっきりと申しますが、この公約に関しては、そちら側の急進的な抑制策に対する意味が大きい」

「正直、各自の意思に任せられる現状でも構わない、とは思っています」

「そして、課外活動に関してはあくまで個々人の意思を尊重します」

これ以上向こう側が攻勢をかけるつもりなら、逆にカウンターになりかねない。向こう側へのけん制という意味でも、現状維持の許容も含めた表明と、公約の理由を明らかにせざるを得なかった。


「できる人はいるかもしれないけど、ほかの人たちはできないんですよ。そういった人たちをバカにしているんですか?」

「馬鹿にしたつもりはありません。イタチさんが急進的な暴論を掲げるから、それに対する一番わかりやすい、全国出場者の反例を挙げただけだ」

間髪入れさせるわけにはいかないため即座に続ける。

「そして先ほども言った通り、『推奨』はあくまで君の主張に対するカウンターとしての意味が大きい。各自の意思に任せられる現状維持であればそれでも十分に許容の範囲内だ」

「だからこそ、あえて上から抑制する合理的な理由はないのではないだろうか?」

追い打ちをかける。

だが向こう側もただでは引いてくれない。

「そんな公約を掲げているあなたは、周りから解放されて、ああ自由だ、となった状態で両立などできますか?」

「少なくとも2年生ではありますが、僕が学年主席を明け渡したのはこれまでの1年半でただ一度、雪辰君にだけです」

「そしてその雪辰君が両立できているか考えれば、答えは自明です」

自分を例に出すのはしたくなかったが、向こうが突いてくるのであれば仕方がない。

これによって自慢している野郎だと思われるのは仕方ない。

そうでもしなければ、言行の不一致とみなされかねない。

案の定、向こう側は大声高らかに壇上から呼びかける。


「聞きましたかみなさん、この人、自分の成績自慢してるんですよ!」

当然ながら、会場が僕へのブーイングであふれる。ところどころ「この流れならそういうしかないよな」とか「『おまえ自身』の例を出しておかせて何をぬかすか」と弁護する声があるのが正直有難すぎる。

深呼吸をして一旦冷静になり頭を戻す。

向こうは一時の感情でこの場を動かそうとしている。

ならば、こちらは向こう側の明白な矛盾をつく必要がある。

今、すぐに。

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