第2区 生徒会役員選挙の件 12. 生徒会役員選挙③
そして9月25日の月曜日、最終演説ならびに投票の当日となった。
最終演説は1つの役職につき、推薦人1分・立候補者1分30秒の流れで行われる。各役職分に関する分が終わったとき、立候補者間での質疑応答が5分間にわたって行われる。
特にリュウノスケは「締め」にあたるため、相当念入りに準備をしていたのか、夜も12時を回っても原稿の校正にあたっていたと聞く。
なお、立候補者以外の質疑応答は、基本的にそれ以前に済ませるというルールになっており、それに対する返答文はすでに駅伝部員やイノイチ・イノミたちの協力をもってして済ませている。
内容としては、課外活動の推奨、これに対しての質問が多くを占めた。特定部活の優遇はないのか、学業に支障が出たらどうするのだ、等の質問が多くを占めた。
当然、特定の部活を優遇するつもりはないし、あくまで「推奨」であり個人レベルではそれぞれの意思が最も尊重されるべきだと返した。
本番までの記録会の類は、ここまでにすべて終わっていた。
まず、選管委員長である鯉沼のあいさつの直後、会計から始まる。
比企もニワトリも、その責任者も、4人ともスムーズに、無難な演説を行っていた。 時間のこともあり、駅伝部関係のことは一切触れず、比企側は「文武両道の見直し」、ニワトリ側は「尊重されるべき課外活動」について述べるくらいであった。
比企は井達や根古野に比べれば落ち着いていると思うので、その性格が出るのだろう。質疑応答についても、お互い無難なやり取りを行ったように感じた。
クラスが違って、直接対決になりにくかったこともあるのだろう。2人が味方同士だったら、比企がこっち側だったら、存外気が合うのではないか、混乱をまとめる上で活躍できるだろう、惜しい人材だ、そんなことを考えていた。
考えでもしなければ、この先に待つであろうことを考えることになり、まず緊張でえらいことになる。
あっという間に会計のターンは終わり、書記の番になる。
まず、井達やその推薦人の演説から始まる。推薦人が最初、後に井達が来る流れだ。
井達の推薦人や本人は、先ほどの比企と打って変わって駅伝部、否、その中核たる陸上部の批判が中心の演説であった。
言っていることには正直言ってむっとしたが、もしかすると彼女はイノブタよりむしろ、ネズミー先輩に関係することで蹴球部と何か手を組んでいるのだろうか。
仮にこれ以上追いつめられるようなことがあれば、次はネズミー先輩に詳細を聞かなければならない。そんなことを考えていた。
もちろん、本題である突っこみどころについてもいろいろと考えていた。
それからまもなく、僕たちの番になる。
まず、推薦人・イノブタの演説だ。原稿の方は彼に一任してある。だから、内容を僕は知らない。文章をペガサス先輩に添削してもらった位だ。
イノブタの演説が始まる。
「先ほど駅伝部を井達さんは批判されましたが、俺個人はそうは思いません」
いきなり反論から入った。
「俺は諸事情で、駅伝部に入ることになりました」
「それを真っ先に受け入れてくれたのが二人」
「会長に立候補した雪辰君、そしてもう一人がゴズ君でした」
「ゴズ君がいなければ、少なくとも俺はどうなっていたかわかったものではありません」
照れくさいことを言ってくれる。
「駅伝部は、少なくとも俺個人にとっては、必要不可欠な場所です」
「他の部活で何かあっても、きちんと受け止め、仲間までできる場所です」
「少なくとも、現体制では駅伝部に関して問題はないと断言します」
「そしてこのあとの演説で出てくる雪辰君が、会長に立候補する以上」
「駅伝部同期の中核の一人である牛頭義裕君を、俺は書記に推薦します」
核心に触れず、「分かる」者にしか伝わらない言葉遣いには抑えていた。
向こう側もそれを理解しているようであった。
そしていよいよ僕の番である。
「若猪野君から推薦を受けました牛頭義裕です」
「時間の関係上、簡単にマニフェストを述べるにとどめます」
「まず『課外活動の尊重』についてです」
「学業一辺倒でも、課外一辺倒でもなく、どちらも行っていくことが、脳に外からの刺激を与え、結果として学業も良好になると僕は考えています。そのため、このマニフェストを是として掲げます」
「しかし、もちろん法に触れるものは尊重しません」
「課外活動は、あくまで『健全』であるべきです」
「逆に言えば、倫理に悖る、あるいは法に触れる、その恐れもないのにこれを制限するとなると、可能性は二つ」
右手でチョキを形作る。
そして、その手を一度振り上げ、虚空を指さす。
「一つは、それ自体にコストがかかる場合」
「そしてもう一つは、その活動が、制限する側にとって好都合で、かつ非合法な『何か』を妨げるためではないかと思います」
「二つ目のマニフェスト『陰湿な事件の解決』についてですが、昨今裏でいろいろな事件が起こっているそうです」
「事件の起こる風土の改善は現在進行中のようですので、僕は『もし起こった際の解決』を提示したいと思います」
「またその際には、単なる真犯人の追求よりも、『真相』の追求を主軸にしていくべきであると考えます」
「追求の役目、その一端を生徒会が担うことこそ重要であると考えます」
「短いですが、以上で終わりとさせていただきます」
次は立候補者同士の質疑応答時間である。
先手を打ってきたのは向こう側、イタチだ。
あえて僕は「隙」を作っていたのだし、当然である。
言葉は簡潔に。スルーするまではいかないけれども、己の道を述べるだけ。
血気にはやる相手をおびき寄せるにはこの手がいいのではないかと考えた。
そしてその間に、こちらの布陣は一応整っている。
三方ヶ原の合戦だ。
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