第2区 生徒会役員選挙の件 10. 生徒会役員選挙
生徒会選挙の立候補者は、会長には根古野とリュウノスケだけ。会計にはニワトリと比企のみ。
そして書記には井達と僕の二人が立候補することが判明し、党派を分けた一騎打ちとなることがついに明白となった。
第三勢力が立候補することにより場をかき回し、混沌とした状況を作り出すという意味では、「ハプニング」の期待もなくなった。
特に会長は2年1組どうしが、書記は2組どうしがぶつかり合うこととなり、クラス内でも緊張が高まりつつあった。
一例をあげると、僕は蹴球部の生徒に無駄に絡まれ、囲まれることが増えてきた。当然、良い意味ではない。
加えてイタチはじめ女子庭球部には大声小声問わず、嫌味を無駄に言われるようになった。イタチに至ってはヒステリックなものも少なくなかった。校内で僕を見る目も二通りになるのがよくわかった。
だが、蹴球部と直接対決するわけではない僕はまだいい方である。
リュウノスケに至っては根古野の支援者により暴行一歩手前まで至り、推薦人のタイガーが木刀を抜刀し護衛に回り、物理的反撃数秒前の事態にまで至った。
おまけに穏やかなニワトリも悪い意味で男女問わず絡まれるようになり、僕やウサがやめろというも効果なかった。
ちょうどそのときリュウノスケとタイガーが敵方と臨戦態勢に入っていたのが決定打になったのか、廊下で追い詰められ、支持者含めて総大将同士の戦闘がいつ始まってもおかしくない状況になった。
偶々フリーであったイノミが呼んだ選管副長のメグが、弓道部部室の短弓を持ち出してようやく収まるひどいありさまであった。
木刀という凶器持ちということで問題にはなりかけたが、かよわい文化系婦女子相手に暴行一歩手前ということも考慮され両成敗、一週間の放課後清掃罰則という形に落ち着いた。
皮肉にもこの状況が、こちらの味方を増やしていった。女子庭球部や蹴球部・篭球部の中核をなす活動的な勢力を快く思わない生徒たちがこちら側に少しずつついてくれているのだ。
向こう側の先手を取った横暴に賛同できないことも多いのだろう。男女問わず、ニワトリのファンが多くいたことも幸いした。イケメンのリュウノスケと美少女のニワトリのおかげである。
面立ちと性格は重要である。とはいえ、リュウノスケは僕並みに誹謗中傷を受けたり先述したような事態に遭遇したりするなど、総大将であることを加味しても精神的によく持っているといった状態であった。
おまけに根古野も人望あるイケメン優等生であり、リュウノスケとタイプこそ異なるものの、どこか被るところを感じた。
こうした生徒たちは、駅伝部にこそ加入しないものの、選挙では応援すると言ってくれていた。またクラスにいるときのみならず、登下校の際も一人にしないように心がけてくれた。駅伝部だけでは人手が足りないこともあり本当に助かった。
敵の敵は味方である。
だが逆もしかりであり、駅伝部に対し好意的ではないクラスメイトは、必然的に根古野側に立っているようであった。
すなわち、ほぼ完全な二極化が校内全体で進行中のようであった。とはいえ、少なくとも名目上は「受験のため」としている3年生の反駅伝派が、その名目に縛られたためか、こちらに手出しできないのはありがたいことであった。
このような争いに身を投じる間があったら勉強しろと言われてしまえばそれまでなのだから。
お互いの公約を掲げて毎朝、朝の練習が終わり次第校門で演説を行ったほか、ポスターの作成で苦戦したことは上げておきたい。
駅伝部画力頼みの綱・メグが選管副長のため実質行動不能になったため、ウサとイノブタの2人が3人前の原案を仕上げ、下絵をゴクウが担当し、二人でできない分は陸上部に近しい、絵のうまい人に依頼するということまでやってのけた。
1年生の短距離部員も頑張ってくれた。
彼らは書道という特技があるのだ。ほかのメンバーはことごとく「画伯」であり、書道の腕前にも大きな問題があるのでどうにもならないのだ。
3年生の4人は受験、長距離の2人はそれに加えた駅伝に集中してもらい、悔いを残してしまうのが一番望ましくないことなので、本当に人手が足りない時を除き協力については「大丈夫です」と断った。
1年生たち4人も、課外活動について学年レベルで話し合いの場を広げてくれているようであり、学年集会の議題に持ち上げることもしたようである。
駅伝部に3年生が来た日もあった。但し、宣戦布告的な意味で。
大柄な細マッチョのイケメンで、短髪。
「お前が、生徒会長に立候補した、っていう2年の雪辰か」
「突然、一体あなたは誰なのです?」
リュウノスケが訊き返すが、そのデカい3年生が答える前にペガサス先輩が険しい声で口を開く。
「…この状況で、ここに来るとはどういう了見だ、ニャンコ野郎」
ではこの人物が、会長に立候補した根古野の兄で、
かつあの新聞に投書をした人物だというのか。
「何、駅伝部から3人も立候補者が出たと聞いたのでな」
「面を拝ませてもらいに来たわけだ」
「言っておくが、俺のあの投書は俺の思いをそのまま書いた、弟にもそれを伝えた」
「弟とその仲間が当選したら、駅伝部に明日はない」
「陸上部メンバーはまだしも、そのほかのメンバーは無駄な努力になるだろうな」
「それはどうかな、逆にこちらが全員当選したら、今度は君の立場こそ危うくなるんじゃないのかな」
ペガサス先輩が返す。
「俺に学力が劣る次席ごときが何言ってやがる」
「この先俺に負けても、動揺して首席を明け渡さないようにしなよ、部活も全力でやってる俺に負けたら大恥もいいところだぞ」
「お前が勝つことなど、受験期に入った以上もはやあり得ない話だな」
根古野さんとペガサス先輩が衝突している。僕は何も言えない。
「まぁ、お前らも妙な3年と新部長に付き合わされて大変だな」
「じゃあ、せいぜいあがいてくれ」
そう一方的に告げ、根古野さんは去っていった。
彼についての駅伝部員の感想は言うまでもなく最悪であった。
たまたまトイレに行っていたイノブタがその場にいなかったのが、幸いであった。後から話をしたら顔を真っ青にして今にも倒れそうであった。
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