第2区 生徒会役員選挙の件 9. 真庭飛鳥
「もう、戦うしかないと思う」
口を開いたのは意外にもニワトリ。
「このまま退くだけなら、向こうはますますつけあがるだけだと思います」
「何か、向こうを脅かせる材料でもあれば、交渉の材料にでもなるのだけど」
「それが見つからない以上、やむをえません」
正直、彼女が決意を示してくるとは思っていなかった。素直に驚く。
ここでようやく、メグの言葉を思い出す。
『トリちゃんなら何とかしてくれるかもね』、完全に忘れていた。
もしかして、彼女はこのまま立候補もしてくれるのではないか。一瞬考えがよぎる。
仮にあたりだとすると、メグが水面下で根回ししてくれていたのだろうか。
万一そうだとしたらさすがにそれは選挙管理委員としてどうかと思うし、彼女はそんな人ではない。
確かに僕への当たりは強いかもしれないが、冷静で公正なところは素直に尊敬する。
最も、弟にはかなり優しいのだが。
「そうだね、戦おう」
意を決した面立ちで、口を開くのはオロチ。
「根古野の好きにはさせねぇよ」
「あんなやつひねりつぶしちゃいましょうよ」
タイガーが不敵な笑いを浮かべ、ウサが右手でこぶしを作る。
「みんな、ありがとう」
イノブタが頭を下げる。声色がうるんでいるようだ。
「ここまで決まったところで、次に決めるべきは『誰が立候補するか』だ」
ペガサス先輩が話を次に進める。空気が再び緊張に戻る。
僕がリュウノスケに話を振る。
「まずリュウノスケ、会長に立候補を頼むぞ」
「わかってる。でも、会計か書記のどっちかはお前にもやってもらうぞ」
事前の手筈通り、最も激戦になるであろ総大将の座を託す。
「了解。となると、もう一人の立候補者、すなわち女子が必要になるわけなんだが」
立候補者2名が瞬時に決定する。そして、選管でいないメグを除く、オロチ・ウサ・ニワトリを見回す。
一瞬の沈黙。そして。
「ワタシ…会計ならやってもいいです」
ニワトリが口を開いた。目は確かだ。
「いいのか、ニワトリ!?」
僕が驚きを発する前にリュウノスケが声を発する。
穏やかなキャラ。前に出るタイプではない。
美少女ということで校内のマドンナみたいな感じではあるが、生徒会というキャラであろうか。
もしキャラだとしたら、メグの慧眼には恐れ入る。
僕にはさっぱりわからない。
「うん、ワタシ、やる」
「誰か女子が出るんだったら、ワタシが出る」
「これから駅伝で忙しくなることを考えると、ウサちゃんは女子の2番手として動いてほしい」
「オロちゃんは慎重で、会計っぽい感じだと思うけど、卓球部の部長でもある」
「だから、特に役職についていないことを考えると、ワタシが適任じゃないかなと思う」
なるほど、筋は通っている。納得である。
思わずおお、と声が出る。
「トリちゃんがやるんだったら、全力で応援するよ!!」
「穏やかで優しくて、かつしっかりしてるから、書紀よりは会計がいいかな」
ウサやオロチも同意しているようだ。
「書記の場合は陰湿な参謀役としての側面もありそうだしな」
「その役目をトリちゃんに負わせるのは、ねぇ…」
ペガサス先輩がこちらを見て意味ありげにうなずき、ネズミー先輩が僕から目をそらして言う。
先輩。誰が陰湿な参謀役ですか。
確かに陽気とは言えないが、冷酷非情なつもりもないんですが。
場が収まった。
彼女ならなんとかしてくれる。そうメグは言っていた。人を見る目はあるようだ。この点は素直に尊敬する。
控えめであるが、几帳面な彼女なら大丈夫だろう。僕やリュウノスケも同意した。
そして残る書記には必然的に僕が立候補する。
生徒会長の補佐をも担う役である。
今思えば、流れ、とは恐ろしいものである。
「戦わなければ、生き残れない」の合言葉のもと、かくして、リュウノスケが会長に、ニワトリが会計に、そして僕が書記に立候補することが決定した。
マニフェストはただ二つ。
1つ、「課外活動の尊重」
2つ、「陰湿な事件の解決」
一見きわめて普通なようだが、この二つこそが、僕たちの目的に沿うマニフェストである。
必要な書類を火曜日のうちにそろえて、正式に立候補届を出したのは水曜日のこと。
ルール上、推薦人として同級生が立つことが決まっており、月曜日の会議でリュウノスケにはタイガー、ニワトリにはイノミ、僕にはイノブタがついてくれることが決定済みである。
翌木曜日には、全立候補者の公示が、職員室前の掲示板にて行われた。
会長立候補: 根古野牙 雪辰龍ノ介
書紀立候補: 井達水無月 牛頭義裕
会計立候補: 比企来也 真庭飛鳥
どの候補も、一騎打ちであった。
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