第2区 生徒会役員選挙の件 5. 雪辰龍ノ介③
『…ということなんだ。先日の打ち合わせの後、ことが動いた』
『なるほどな。生徒会をまず押さえてからこちらを叩く気だな。時期的には直前になる。こっちの対策を打つ時間も封じる手だな』
『そこで僕からの提案なのだけど、こちらからも生徒会の立候補をしてみてはどうかと思う』
『手段としてはいいと思うぞ。ただ、勝算はあるのか?』
『正直、会長に限れば勝算はあると思う』
『…と、いうと』
『単刀直入に言う、リュウノスケに会長への立候補をお願いしたい』
『…なるほど、オレなら勝算があると。随分買ってくれるな』
『小学校時代には世話になったからね。お前の人徳はよく知ってるよ』
『厳密にいえば保育園時代からじゃないか?』
『言ってくれるな、それをいうならまだお互いに布団の上で這っているころじゃないか?』
『はっは、その通りだな』
『ということで、よろしく頼んでいいか?』
『わかった、引き受けよう。今はまだ生徒同士の諍いで済む段階なんだ。これ以上エスカレートするならまた別の方法も必要だけどな』
『ありがとう。提案者として、責任をもって僕は『保険』の役割を果たす。書記か会計に立候補するよ』
『そうしてもらえると助かる。推薦責任者だと、同じクラスの人じゃないとできないからな』
『少なくとも何もしないよりはいいだろう』
『まぁ確かにな。撤退もしくは全敗の場合、こちらの動きが完全に封じられる恐れはあるけどな』
『それでお前が出るとなると、しかも当選したとなれば、もう片方は女子だということになるが』
『ちょっとそれはまた後で話し合おう』
『それもそうだよな』
電話口で、リュウノスケは事態を受け止めてくれた。
会長に立候補してもらう可能性も伝えた。すんなりと納得してもらえた。それを確認し、メグも安心した様子だ。
『ところで、その情報はどこから?』
いけない、情報源を言ってなかった。
『メグからだ、練習代わりに耳にしたのだとか』
『ヒツジはまだ近くにいるのか?』
『真っ隣にいるが』
代わる。
『もしもし、リュウくん?』
『ヒツジか。単刀直入に聞くが、噂してたのは誰だ?』
『正門のあたりだったかな。練習してたのは弓道部が最後だったから、受験の特別講習が終わった3年生だと思う』
『なるほど…3年生は巻き込まれて、向こう側に回られていると考えた方がいいな』
『となると1、2年生票をどれだけ得られるか…か』
『そういうことになるね。人数的にも、完全勝利は難しいと思う』
『…おっと、こんな話を副委員長にするのは問題だったな』
『ううん、大丈夫。選挙は公正にするけどね。それに誰かと違ってちゃんと覚えててくれてるし』
『ゴズ、お前…』
メグが僕を見てふふんと笑う。電話口のリュウノスケがどんな表情で何を言っているかよくわかる。まずあきれている。
リュウノスケとの電話後、メグは女子勢にも、連絡網を回すため帰ることとなった。日も落ちてきたので送ることとなる。
「メグが立候補できないとなると、もう一人の候補が誰になるか問題だな」
「それも会議で決めるんじゃないの?」
「やりたがってくれるやつがいれば問題はないんだがな」
メグを除けば駅伝部の女子2年生は3人。ウサ、オロチ、そしてニワトリだ。他の2年生で、確実にこちら側についてくれるかどうかは、若猪野家の3つ子の末娘・イノミこと若猪野三和を除けば候補はない。
オロチは会計を任せられそうな慎重な性格だが、やや無理やりになりそうな気がする。
逆にせっかちな性格のウサには会計を任せるわけにはいかず、必然的に書記の席になる。ニワトリは荒事を好まなさそうだ。イノミは生徒会というガラではないと1年の時に本人が言っていた。
誰かが立候補してくれればよし、そうでなければ、できればオロチかニワトリを推したいところではある。どの女子が根古野側なのか読みにくい以上、三名全員駅伝部で占めるのはやむを得ない。
だがそれでも全員陸上部、というのは流石に避けたいところである。向こうの反動がどう来るかわからないのだ。
そう考えると、重ね重ねメグを立てられないのが悔やまれる。
彼女の家の前まで送ってきたところで、メグが「トリちゃんなら何とかしてくれるかも ね」、とこぼした。この状況でのメグの発言なので、参考として拾っておく。
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