第2区 生徒会役員選挙の件 3. 牛頭義裕⑤

 次に打ち出さなければならないのは今後の対策だ。

 まず、「最悪」の事態の対策だ。相手方もばれれば最悪御用・殺人の前科一犯であるだけに、証拠を残さない、あるいは隠滅しきれる自信があってもそうやすやすと行動を起こすまい。

ましてや根古野の兄は受験生。失うものは多い。従って、まず向こうが起こす必要性があるのかどうか、そこまで追い詰められているのかどうか、あるいは手段を気にする必要はなく、偶然にもこの手段を取るのか。

その情報が必要になる。権力や人質、不意打ちを使っての交渉に関しても同様である。

 弱みを握られる点に関しては、僕を含め、自覚の有無を問わずあっておかしくない。弱みとは違うと思うが、イノブタの件のように、話したくないことだってあるはずだ。

だがそれでも、仮に脅迫されるようなことがあればライオン先生にはせめて言っておいてほしい。ライオン先生なら味方に付いてくれる。そうタイガーが断言した。

 ひとまず、現在は特に女子について、狭い場所や暗い場所を極力一人で行動することを避け、相手方にばれないよう、情報をひそかに集めることで意見が一致し、その日は解散となった。

 逆に言えば、その程度の警戒しか、僕たちは当時していなかった。



 新学期がスタートして早々、学校では蹴球部や篭球部の面々との間に溝を感じた。情報を彼らから直接得るのは難しそうであった。

 それ以上は何もなく、練習に支障もなかった。

 情報に関しては、他の部活の同級生にそれとなく蹴球部の夏の大会について聞いてみたが、惜しかった、これのほかは言葉を濁すばかりであった。

 篭球部も同様であった。僕たちの手で判明したのは、根古野の投稿がにわかに校内の話題となり、彼の父親が教育関係者だと判明したことくらいである。

 訳ありのイノブタはともかく、同級生のオロチやニワトリにもひそかに連絡を取って情報の共有を行ったが、僕と似たような結果を得られるだけであったようだ。

 皆が帰宅した後、リュウノスケと一緒にいろいろと部室で考えてみてはいたものの、今の時間まで答えは出なかったというありさまである。


 ペガサス先輩や、短距離男子3年・亀山蔵馬かめやまくらまことカメさんも根古野さんを追求しようとしたようだが、当然のことじゃないか、学生は学業第一なのだから、君たちもちゃんと勉強するべきだ、とかわされた。

ペガサス先輩は次席であり、根古野さんは主席でもあったため「学業」に対してはあまり強くは言えないようであった。

言われた事が真っ当な正論であったことも大きいのだろう。おまけに普段の生活でも、常にハンカチを携帯しており、文武両道でかつ紳士的なヤツとして人望もある。

それがどうしたと思う方もいるかもしれないが、このことは田舎の中学生では恐ろしく紳士的なことなのだ。

 ライオン先生に職員会議での意見を聞いてみたが、当然職員会議は紛糾し、結局週末前に、生徒の意見を完全否定することは、法に触れでもしない限りできないとの結論が出たとのことであった。

ただ、実際に生徒の側から駅伝部を活動停止にすることは、生徒会が発議し、臨時生徒総会で決議するか、駅伝部部長・副部長が生徒会に活動休止の申請を行うことでもしないと不可能だろう、そう言っていた。

逆に言えば、生徒会を動かされれば話は別なのだ。  

 それとは逆に実力テストの方は、英数国理社の五科目共に、一科目につき百点満点の配分で、滞りなく行われた。通常の定期試験とは違い高校入試を意識したものとなっており、難度もぐぐんと上がっていた。

加えて、出題範囲が独自である私立高校を意識した部分もあったのか、一部は範囲内ではあるものの授業では取り扱っていない内容も出題された。

社会科では地歴共に桶狭間やら厳島やら河越やら、著名な合戦およびその地域を題材とした複合問題を大問一つに充てていた。

また理科では先学期最後の内容が電磁気であったとはいえ、絶縁やら避雷針やら磁力やら妙なところで内容が凝っていたことは、年月が経った今になっても覚えている。

社会科の選択肢の箇所になぜか真珠湾があったり、理科の記述問題が雷へのやたら具体的な対処を題材としていたことについても記憶にある。

そして平均点が一気に急降下することについては、一点の疑う余地もなかった。

首席の僕の得点であっても、例外ではなかった。

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