第1区 駅伝部人員召集の件 11. 牛頭義裕④
-2000/10/09 AM10:35 大橋下南側付近-
大橋下を潜り抜けたのち、ペースが落ちる選手を一通り抜き去り、僕たちは一つの集団を形成していた。
集団でいれば襲撃を受ける心配はない。遠かった県庁が近づいてくる。昨年落成したばかりの庁舎である。そしてそれに伴って先頭集団、もしくはそれについていけなかった選手が見えてくる。
小幡中がペースを上げる。いくつかの学校がついていけなくなる。集団がばらける。ひとまず今は、小幡中についていけば大丈夫だと思い、心肺が苦しい中必死に速度を上げる。
そうすれば、分散しているのかわからない先頭集団に追いつくことができ、乱戦に持ち込むことができるかもしれない。少なくとも襲撃は避けられる。
小幡中がペースを安定させてきている。僕も負けるわけにはいかない。やがて市立アリーナの辺り―スタートから2000メートル地点付近―まで到達し、集団の末尾と思しきものまで追いついた。小幡中はまだ並走中だ。
しかしながら、その末尾を抜いたところで、集団本体がまだ少し先にいるのが見える。数人の選手をさらに抜き、僕たちはだんだんと集団に近づいていく。
そして県庁と、その南側にある県議会の間を通り抜け、先頭集団に追いつく。その瞬間、八咫中と城北中が見えないことに気付く。
するとこれは先頭集団ではなく、3位以下の集団なのではないか。そう考えるか考えないかのうちにダッシュする。
小幡中もペースをさらに上げここにきて一歩前に出る。僕も足を動かす。三位集団と思しき僕たちの集団は混戦になる。
中継所まであと200メートル。集団の全員がダッシュ。区間賞を取れるのはおそらく一人だけ。しばらく団子が続く。中継所は近い。タスキを外す。残り100メートル地点。
市役所に通じる最後の曲がり角。小幡中が一歩前に出る。ここにきてか。僕も前に出る。後ろはもうわからない。前に2区走者・リュウノスケが見える。がむしゃらに走る。
ラスト50メートル。横の気配を感じる。一瞬のうちに中央中が横に並び前に出る。なんだと。小幡中も食らいつく。
僕は2人に食らいつこうとし、そして中継所まであと5メートルもなくなった時、ストライドを可能な限り広げる。
前傾になってリュウノスケにタスキを渡した。
言葉も聞き取れない程度の乱戦だった。
辛うじて転ばずには済んだ。危なかった。
そして走り終わった選手がいるべき指定の場所へ誘導される。すでに八咫中と城北中の2校の選手が待機している。
2人が手を上げ無言で「おつかれ」と言っているので、ありがとうございます、と軽く頭を下げて応じる。
だが、順位はどうなのか。僕は城北中の右隣に誘導される。ということは、もしかして、だ。
そして、僕の右隣に小幡中の風間先輩が誘導される。
区間順位は3位。小幡中にぎりぎりで競り勝ったようだった。
そしてよく見ると競り合っていたのは、並んでいく順番を見る限り小幡中・中央中・僕を含めて8人程度のようだった。非常に危うい区間3位であった。
1区の選手が全員ゴールするのを確認するまで指定の場所から出てはいけないので、その間に暫く体を休める。
どうせすぐに動かなければならないのだから。シーカ先輩が笑って手を振っている。握りこぶしを上げて応じる。
どうにか今は、競技の最重要警戒対象である、小幡中には競り勝ちました。
ただ一つだけ気になることは、疲れて動けない僕に対しても、向こう側からは、本当に何の動きもなかったことだ。
-2000/10/09 AM10:40 市役所前-
ヨシヒロは無事に走り、リュウくんにタスキを渡した。
安心すると同時に、どういうことだろうか、そのような思いが浮かび上がってきた。
弓はまだ離せていないどころか、より一層固く握りしめる始末だ。
ヨシヒロを含めて、わたしたちの間では、狙われるとしたらヨシヒロかネズミー先輩当たりであろうと踏んでいた。
だがヨシヒロは疲れてはいるもののピンピンしている。そして狙う気配もない。ネズミー先輩にも通信で一応確認を取るも、現在も無事のようである。
ゴール後の、動かないこのタイミングがひょっとすると最大のチャンスではないか。
ヨシヒロも間違いなくじきに気が付く、いや気が付いているはずだ。
「あの作戦」を立案した彼が気付いていないはずがない。
何かがおかしいと。
まさかとは思うけど、狙いはもう一人のリュウくんじゃないかしら。
即座にトランシーバーを繋ぐ。
相手はオロちゃんだ。
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